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初代ガンダムを影で支えていたのは「主婦」だった? アナログ時代のアニメ制作事情

マグミクス / 2023年8月27日 6時10分

初代ガンダムを影で支えていたのは「主婦」だった? アナログ時代のアニメ制作事情

■家事の合間にガンダム塗っていた?

 アニメーション制作に多少なりとも興味をお持ちの方であれば、かつて、TVアニメは「セル」という透明の樹脂板に描かれた絵を、1秒間に何枚も撮影したフィルムで出来上がっていたことはお聞きお呼びかと思います。

 作品によって多少の差はあるものの、30分放送枠の番組で、おおよそ3000枚から5000枚程度の動画を描き、これをセル板にトレースし、裏側からアクリル樹脂の特殊な絵の具で彩色して、画用紙等に描かれた背景の上で1枚1枚撮影することで出来上がったフィルム。これを映写、放送電波に乗せて各家庭の受像機に送信する。昭和の半ばから平成の初期程度まで、視聴者の方々が見ていたTVのアニメーションとはこういうものでした。

 この、毎回何千枚もの動画も彩色もすべてが手作業でしたから、これに携わっていた人々も膨大な数です。

 それらの多くは、専門の「動画会社」や「仕上げ(セル彩色)会社」で専門技術を持った人々が担当するのですが、彩色、つまりセルに色を塗る「仕上げさん」と呼ばれる人々の多くは女性でした。その中には、仕上げ会社から下請けとして請け負っていた「主婦パート」もたくさんいたのをご存じですか?

 パートといっても時間給ではなく、1枚塗ったら○○円、という、最近はあまり聞かない「内職」のようなもので、子育てや家事の合間に自宅で出来る軽作業として行われていました。

 内容は、トレースを済ませたセル画と絵の具、「色指定表」と呼ばれる、どこに何色を塗ったらいいかの説明書が仕上げ会社から届けられるので、その説明に沿って、絵の具を筆につけて塗ってゆくという一見簡単そうに思える作業です。

 しかし実際は、図工で使ったような水彩絵の具とは全く違う特殊な絵の具なので、コツや慣れが必要でしたし、絵の具が乾くまで置いておく場所や、出来ることなら、裏側から光を当てられるライトテーブルがあると楽だったりもするので、家庭で片手間にやるには案外大変です。

 それを、色数の少ない単純な絵も、ロボットなどの複雑な絵も、一律で、当時は1枚50円、60円、といった値段で塗っていきます。1日に10枚なら500円、50枚塗れても2500円程度。現在と経済換算が違うとはいえ、決して割のいいものとは思えません。

 それでも、家庭内で出来る仕事ということで、子供の様子を見ながら、年寄りの介護をしながら……そんな主婦の方々が、どんな作品なのかも知らぬまま、たとえば『無敵超人ザンボット3』や『機動戦士ガンダム』等の仕事を受けていたかもしれないのです。

 そんな過程を経て上がってくるセル画を現場でチェックしていると、多分、傍で遊んでいたんだろうちいさな子供の手の跡がセルについていたりすることがありました。作業者としては困るのですが、なんとなく、この仕上げさんのおうちの風景が垣間見える気もして、ほほえましいような、でも辛いような、そんな気持ちになったことを思いだします。

 今、あなたの目の前を歩いている年輩のオバサンや優先席にじっと座っているお婆さんが、もしかしたらガンダムやザク、シャアなどを塗っていたかも……。

 アナログ時代のアニメをおもしろいと思ってくださったあなた。たまには、すこーしだけ、そんなことも考えながら、目の前のお年寄りをいたわってあげてくださいね。

【著者プロフィール】
風間洋(河原よしえ)
1975年よりアニメ制作会社サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)の『勇者ライディーン』(東北新社)制作スタジオに学生バイトで所属。卒業後、正規スタッフとして『無敵超人ザンボット3』等の設定助手、『最強ロボ ダイオージャ』『戦闘メカ ザブングル』『聖戦士ダンバイン』『巨神ゴーグ』等の文芸設定制作、『重戦機エルガイム』では「河原よしえ」名で脚本参加。『機甲戦記ドラグナー』『魔神英雄伝ワタル』『鎧伝 サムライトルーパー』等々の企画開発等に携わる。1989年より著述家として独立。同社作品のノベライズ、オリジナル小説、脚本、ムック関係やコラム等も手掛けている。

(風間洋(河原よしえ))

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