『天才バカボン』と仏教の意外な関係 主人公の名前にも「謎」が
マグミクス / 2023年9月9日 21時10分
![『天才バカボン』と仏教の意外な関係 主人公の名前にも「謎」が](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_182442_0-small.jpg)
■多くの人に愛される、昭和のギャグマンガの大傑作
赤塚不二夫先生の代表作『天才バカボン』は、これまで5回もTVアニメ化された昭和のギャグマンガの傑作です。常識にとらわれないバカボンのパパが巻き起こすシュールな騒動の数々は読者を愉快な気持ちにしてくれます。
そんな『天才バカボン』の主要人物である「バカボン」という名前の由来には諸説があり、作品テーマに大きく関係しています。この記事ではバカボンのパパの誕生秘話やドキュメンタリー映画「マンガをはみだした男 赤塚不二夫」などから、その秘密を読み解きます。
●そもそも「バカボン」ってどういう意味?
「バカボン」という名前の由来について、赤塚不二夫先生は複数の異なる回答をしています。ひとつは「馬鹿なボンボン」だからバカボン、というもの。また放浪者という意味のバガボンド(vagabond)から取ったという回答もありました。
しかし同じ質問に対して回答が複数あるということは、どちらも本当の答えではない可能性があります。これは「ガンダム」の富野監督がシャア・アズナブルの名前の由来を聞かれて「シャーって来るからシャアなんだよ」と回答したことがあったように、正解をはぐらかしているのかもしれません。
昭和の巨匠は真正面から問われても、そう簡単には本当のことを教えてくれないようです。
●「ばがぼん」とは悟った人のこと?
これから紹介する複数の理由から「バカボン」の由来として最有力と思われるのが「薄伽梵(ばがぼん)」です。「薄伽梵」とはサンスクリット語のバガヴァーン、バガヴァットの音を漢語に翻訳したもので、日本語の経典では世尊と翻訳されます。法蔵館の仏教学辞典によると「仏の尊称、世界で最も尊いもの、または世間に尊重されるもの」とのこと。つまりは悟った人のことです。
この「薄伽梵」という言葉は「大日経」などの経典に度々登場していることから、仏教関係者に限れば特に認知度の高い単語だと言えるでしょう。
■「バカボンのパパ」出生の秘密
バカボンのパパの思想は無為自然の老荘思想にも通じる点がある。画像は『バカボンのパパと読む「老子」』(KADOKAWA)
「バカボン・薄伽梵」説の根拠として有力なのがバカボンのパパの誕生秘話です。バカボンのパパは生まれてすぐ立ち上がり、両手で天地を指さして「天上天下唯我独尊」と言いました。本当に天才だったのです。これはゴータマ・シッダールタの誕生エピソードそのものなので、バカボンのパパのモデルが仏陀であるのはあきらかです。
もっともその後、くしゃみと一緒にバカボンのパパの口から歯車が飛び出してしまったので、現在の性格になってしまいました。その子供であるハジメちゃんが天才なのは間違いなく遺伝でしょう。
●赤塚先生と仏教思想
赤塚先生の誕生80周年を記念し、2016年に「マンガをはみだした男 赤塚不二夫」が公開されました。赤塚先生の子供時代の原風景や思想に迫るドキュメンタリー映画です。そのなかで赤塚先生の詩が朗読されました。
「今の世のもろもろのことが実であって虚、虚であって実。固定したものはなく、全ては動いているのではないか? なにをしたっていいじゃないか。」
この考えは一切が関係性によって成り立っていて実体がなく、常に変化し続けているという「縁起」や「空」の仏教思想に極めて近いと思われます。また赤塚先生の親友であるタモリさんが葬儀で読んだ弔辞にも、赤塚先生の仏教思想が反映されているようです。
「あなたの考えは、すべての出来事、存在をあるがままに前向きに肯定し、受け入れることです。それによって人間は重苦しい陰の世界から解放され軽やかになり、また時間は前後関係を断ち放たれて、その時その場が異様に明るく感じられます。この考えをあなたは見事に一言で言い表しています。すなわち『これでいいのだ』と」
●ギャグは言語を超えた表現
「バカボン」が本当に覚者を意味する「薄伽梵」に由来するのか、今となっては永遠にその真実は分かりません。しかし赤塚先生の思想や友人の言葉から察するに、全く無関係でもなさそうです。
以上の点から『天才バカボン』を仏教マンガとして見ると、ところどころに言語表現を超えようとする試みが見てとれます。仏教における悟りとは一切の因果関係や言語を超越した境地だと言われています。例えばバカボンのパパの「はんたいのさんせいなのだ」というセリフはいくら頭で考えても理解できない類のものです。
赤塚先生の人を笑わせることを追及した人生の原点には、この世の無常性への深い洞察があったのかもしれませんね。
(レトロ@長谷部 耕平)
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