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漫画家・武井宏之が語る『シャーマンキング』の「新章」 誰もが抱える「おかしくない?」の思いに斬り込む

マグミクス / 2023年9月15日 12時10分

漫画家・武井宏之が語る『シャーマンキング』の「新章」 誰もが抱える「おかしくない?」の思いに斬り込む

■ハオに一番言わせたかったのは「数字のくだらなさ」

 この2023年で誕生25周年を迎えたバトルファンタジーマンガ『SHAMAN KING(シャーマンキング)』は、最新作となる『SHAMAN KING THE SUPER STAR』が講談社「少年マガジンエッジ」で連載中ですが、8月17日発売の「少年マガジンエッジ」9月号で雑誌の休刊が発表され、一部のファンの間では連載の今後について不安が広がっていました。

 マグミクスは『SHAMAN KING』の今後について編集担当のY田さんにインタビューを行い、『SUPER STAR』は講談社のマンガアプリ「マガポケ」に移籍して連載が継続されること、さらに、同作に続く『SHAMAN KING』の「新章」が準備されていることを明らかにしました。

 今回は、『SHAMAN KING』誕生25周年を記念したロングインタビュー企画の2回目として、作者・武井宏之先生に、「新章」にかける思いと、屈指の人気キャラクター「ハオ」の描き方について語ってもらいました。

(取材・執筆:タシロハヤト/編集:マグミクス編集部)

「マンガはキャラだ」と常々語る武井宏之先生は、『SHAMAN KING』においてさまざまなキャラクターに独自の人生が描かれ、作者自身のあらゆる側面が分け与えられていました。なかでも、ファンの間で絶大な人気を集めている「ハオ」については、「一番正直なことを言っている」と語ります。ファンが気になる『SHAMAN KING』の新章を語る前に、作中でますます重要な役割を担いつつあるハオについて話してもらいました。

* * *

――武井先生が『SHAMAN KING』のキャラクターたちに自身のいろんな側面を分け与えた時に、ハオを「正直なことを言うキャラ」にしようとしたのでしょうか。

武井宏之(以下、武井) そこまで意識できてないですけど、いつもたまたま何かのタイミングで、何かの必要性があって出てきたキャラがそういう性格になっている。それがその時はハオだった。あんまりコントロールできないのよ。他のマンガ家さんはちゃんとコントロールしてエンターテインメントをやるんだろうけど、自分は感覚が先に行っちゃうから……。

 ただ、最初は強敵として出て来たキャラが、次の展開でどう掘り下げたら面白いかを考えた時に、最強だからこそ内面のダメさ……「弱さ」っていうより「ダメさ」を押していったら面白いかなっていうことはあった。

――つまりハオが「一番正直なことを言っている」というのは、武井先生の思いを飾らずに代弁しているというよりは、キャラクターを役割や立場などで縛らず、先生が面白い思ったことをそのままやらせる・言わせることができた存在、という意味合いの方が強いですか?

武井 どっちが……というのはないけど、確かに自分が言いたいことも入ってます。ハオを使って当時一番言いたかったのは……「数字」。バトル作品に「戦闘力」っていう概念があるじゃないですか? あれが嫌いで、ハオに否定させたんです。

 もちろんそれが「エンタメとしてのわかりやすさ」として最上位の手法というのは理解しているけど、「数字ってくだらないよね」ということを伝えたくて、あえて滅茶苦茶な数字を出したんです。数字がインフレしてると言われたりもして、なかなか伝えるのは難しかったけれど……。

――でも作中では巫力(ふりょく)、まり数字(戦闘力)が高いのに低い相手の方が勝つという状況も理由もちゃんと描かれているので、伝わる人には伝わっていたのではないかと思います。

武井 そうだといいけど。数字は強すぎて「呪い」に近くて、認識を定着させてしまう。自分もいまだに数字を見てがっかりすることもあるし。それを何とか奮い立たせて頑張ったりするしね。

 それでも昔よりはみんな数字から解放されてきていると思います。最初の『SHAMAN KING』描いていた頃なんて、単純に「売れている方」が偉かった。それをみんな盲信して、理由とかなくて、そっちばっかり見ていた。でも今では、「自分は何が好きか」を基準にして受け取るものを選んでいる人が増えてきていると思います。

――数字についてはおっしゃる通り、凄いパワーを持っていると思います。ただ正直なところ、現実的には切り離せないものでもあるんじゃないでしょうか?

武井 それはそうです。だから数字を意識しているからダメだという単純なことではなくて、それに踊らされることが問題だと思います。数字が高いから強い・偉い、低いから弱い・偉くないじゃなくて、それでどうするの? っていうことです。数字と戦わない幸せもあるけど、ちゃんと向き合ったとき、数字とは別のもっと本質的な価値に気付くこともある。

――それはそうですね。なるほど、もちろん昔もそういう考え方はありましたが、確かに今ほど寛容ではなかった気がします。一方現代ではそもそも「共通の基準」というものが薄れて、人それぞれの基準を尊重するケースも増えていますよね。そうなると、他人と数字を比べることはあまり意味がなくなります。

武井 そうそう。でも、今だって数字を大事にしてる人はいるし、そうしなくちゃいけない場面もあるから、それが悪いということでもない。ただ……それで今どうなっているかというと、昔より自分の基準を大事にする人が増えた分、偏りが減った感じがするんですよ……わかります?

――はい、簡単に言えば、昔はみんな数字が高ければいいという価値観を持っていたけど、そうでない人が増えたから、天秤が均等に近づいて来たという意味ですよね? 価値観の二分化……というか多様化です。

武井 うん。そうすると、みんなにとって楽しいマンガを描いて、その上で伝えたいことが伝わるのが一番いいんだけど、両方のお客さんを満足させるって、どうすればいいの? っていう悩みを抱えることになる(笑) そこを凄く格闘してます。ほら、だからこんな時代になることを予見していたわけじゃないのよ。予見してたら困らないでしょ?(笑) 描きたいことを描いてただけなんだよね。

■「新章」第1話のネームはまとまりつつある?

『SHAMAN KING』最終巻の最終ページに、「新章」の名前につながる言葉が書かれている。早くから構想があったことを物語っている? 「SHAMAN KING KC完結版」35巻より (C)武井宏之/講談社

――『SHAMAN KING THE SUPER STAR』の連載が始まった2018年頃は、そのあたりのことをどのぐらい意識していたんですか?

武井 あ、『SUPER STAR』を始めた時は、正直その意識はなかったです。『SUPER STAR』は、それ以前にやっていた『FLOWERS』の補完だって読者の人はわかっていると思うんだけど、実はその『FLOWERS』も本当はやるべきではないと当時思ってたんだよね。

 その前(『SHAMAN KING』)が紆余曲折の末にやっと完結して、もう手を出すつもりはなかったの。本当に! ところが雑誌が新創刊するって時にすごくお願いされて……まあ、断り切れなかったんだよね。それで始めてしまったんだけど、雑誌が途中で無くなるとかいろいろあって(笑)、講談社に来たわけですよ。そしたら再スタートを切ることになる。

 でも新しいことやるにも、そのためには『FLOWERS』の責任を取らなきゃって思ってたし、もうそれだけだった。もちろん始まってからはいろいろ考えたりもしたけど、始まった時っていうのは、正直そういう感じだった。

――『SHAMAN KING FLOWERS』は、何をやるにもまずこれをどうにかしなきゃ! っていう存在なんですね。

武井 そう、そうなんですよ。……で! なので、本番は次なんだよね。

――「次」ですか? え、まさか新作ですか!?

武井 そう。これは『SUPER STAR』が始まる時に、もう次のタイトルもプランも出来てたわけ。だから「フラワー・オブ・メイズ」が全然始まらない、いつ始まるんだ? ってみんな思ってるんだけど、『SUPER STAR』ではやらないってことは自分のなかでプランが決まってた。でも、そのことを言っちゃいけないっていう人がいるから、ずっと言えなかったんだよね……。ちょっとそのいきさつを説明してもらいましょうか?

編集担当・Y田 いや、その……この物語には次がありますっていうことを表明した状態で、読者にこう……面白いので買ってくださいとは言えないじゃないですか。それだと『SUPER STAR』が「つなぎ」だって言ってるみたいだし、そう誤解されるかもしれないし……。だから先生すみません、そこはちょっと黙っておいてくださいお願いします、という話はしていました。

――それは確かに誤解を招きそうですね。だって全然「つなぎ」じゃないですよね、作品として十分面白いです!

Y田 それはチームハオのキャラクターたちが作品のなかで動いていくにつれ、先生のなかで、あれもやんなきゃ、これも掘らなきゃっていうのがたくさん出てきたおかげでもありますね。だからなおさら「SKY」までのつなぎだとは思われたくなかったわけです。

武井 あ、言っちゃったね(笑) そう、次のタイトルは『SKY(スカイ)』です。コミックス35巻の最後にも書いてあるので、薄々気付いていた人もいるかもしれない。

武井 そんなわけでね、「フラワー・オブ・メイズいつ始まるの?」って言われながらも、今頑張ってそこまでの盛り上がりを描いてます(笑)

――でも、繰り返しになりますが、『SUPER STAR』はつなぎでも何でもなく面白いと思います。例えば本作では「資本主義の神」というラスボス的な存在がいます。こういうのは、ファンだけでなく今まで作品を知らなかった人……特に30~40代以上の社会人の方にピンと来るようなものだと思うんです。

 いま当たり前のように暮らして働いているけれども、「なんかおかしくないか?」という思いを抱えていて、作中のキャラクターたちもそう思って挑もうとしている……こういう壮大なテーマを高レベルなエンタメとしてまとめているのが『SUPER STAR』だと思うんです。

武井 そう言ってもらえるとありがたいです(笑)そのエンタメっていうやつ……実は自分は、マンガを辞める前には絶対エンタメをしっかりやりたいっていう気持ちがずっとあるんです。

 で、その気持ちを極めたものを、次の『SKY』でやろうと思ってるんですよ。それで今ネームを準備してるところです……1話。これでいけるかなっていう叩き台までできてるけど、押しつけがましい説教臭さが出ないようにするのが大変で苦労してます。さっきも出たけど、お金とか資本主義を100パーセント否定するつもりはなくて、でもおかしいところたまにあるじゃん? っていう雰囲気を上手く出すのが大変で。「この世界」とか「社会」なんて単語を使った時点でもう説教なんですよ。だからその単語を避けてやりたいと思うんですよね……。

* * *

 2012年に雑誌連載が始まった『SHAMAN KING FLOWERS』は、紆余曲折を経て事実上の未完で幕を閉じました。『SHAMAN KING THE SUPER STAR』はその流れを汲んだ続編的な作品ですが、武井先生のなかでは連載当初からすでに次の作品『SKY』の構想がありました。「フラワー・オブ・メイズ」もそこで繰り広げられるというのです! ただそれを究極のエンタメとして送り出すには大きな苦労があるようです。次回は最新作『SKY』について込めた武井先生の思いを、より掘り下げていきたいと思います!

(タシロハヤト)

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