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ちょっと待て! のび太の「お嫁さん」はいつからジャイ子からしずかに変わったのか? 原作を徹底検証

マグミクス / 2023年9月16日 18時10分

ちょっと待て! のび太の「お嫁さん」はいつからジャイ子からしずかに変わったのか? 原作を徹底検証

■衝撃! 『ドラえもん』第一世代はジャイ子がお嫁さんのまま終了

 ドラえもんと一緒に暮らす野比のび太の未来のお嫁さんは、「しずかちゃん」こと源静香であることは広く知られています。映画『STAND BY ME ドラえもん2』でも、のび太としずかの結婚前夜のエピソードが描かれて、もはやその事実を否定する人はいないでしょう。しかし、原作マンガ『ドラえもん』第1巻の第1話では、のび太はジャイ子と結婚するとあるのです。いったいいつから、のび太はしずかと結婚することになったのか、改めて原作マンガの内容を追ってみました。

 記念すべきドラえもんの第1回『未来の国からはるばると』で、のび太はジャイアンの妹・ジャイ子と結婚することになっています。そもそもドラえもんがのび太の玄孫であるセワシとともにのび太のもとへやってきたのは、のび太の未来を変えるためでした。

 その理由はのび太の未来にありました。のび太はジャイ子と結婚した数年後、会社を倒産させてしまいます。以後、借金が玄孫の代まで続き、セワシの小遣いは50円。ジャイ子との結婚が全ての不幸の原因と断定されており、彼女にしてみればとんだ濡れ衣です。

 のび太とジャイ子が結婚して生まれた子供の子孫がセワシということは、未来が変わってしずかと結婚してしまえば彼が誕生する未来もないはずです。SF映画でお馴染みのタイムパラドックスの理論です。

 しかしセワシは「東京から大阪へ行くのに、乗り物は違っても辿りつく先は同じだ」と主張し、自身が誕生する未来は変わらないとのび太を煙に巻くのです。セワシの理屈は物語の根底を覆す大矛盾ですが、疑問を持たれることはありません。

 ドラえもんの連載が始まった1970年当時、小学館は「よいこ」「幼稚園」「小学一年生」から「小学六年生」と、幼児から小学校六年生までに学年別で学習雑誌を出版していました。ドラえもんは、1970年1月号から「よいこ」から「小学四年生」までの連載が始まります。

 第1巻の第1話はそのうちの最高学年の「小学四年生」に掲載されたものです。それから学年が下がることにページ数が減るため、ジャイ子が未来の妻になる設定は省かれています。つまり、ジャイ子が妻になる設定が描かれた第1話は「小学四年生」版だけでした。

■ドラえもんにはいくつもの「第1話」が存在した

漫画家を目指すジャイ子を立体化した「VCD ジャイ子(ノンスケール PVC製塗装済み完成品)」(メディコム・トイ)

「小学三年生」版の第1話でジャイ子の部分が説明しきれなかったせいか、第2話「愛妻ジャイ子!?」では第1話で割愛された部分を中心に物語が展開します。第2話の2ページ目には「野比のび太の子そん」と題し、理想的な家系図でしずかが妻になり、現状の家系図ではジャイ子が妻になっています。

 ジャイ子の家系では「びんぼう人の子」とし、しずかの家系では「金持ちの子」としてセワシが系図の末端にいます。この時点ですでにしずか(オリジナル版ではしずこになっています)が理想のお嫁さん候補として登場していますが、実際に結婚することは確定していません。1970年の1月号のそれぞれのドラえもんの第1話は『ドラえもん』第0巻で掲載されています。

 結婚相手の他にも、のび太の仕事に関する未来も修正されるなど、『ドラえもん』にはさまざまなパラレルワールドが存在します。ドラえもんがタイムマシンに乗ってたびたび歴史を書きかえているのでしょうか。

 1970年「小学四年生」の1月号から連載が始まったバージョンは1月、2月、3月号とわずか3話で連載が終了します。続いて「小学三年生」は「小学四年生」に繰り上がった1年間で最終回を迎えました。最終回「ドラえもん未来へ帰る」では、時間旅行規制法が制定され、時間旅行が禁止となりドラえもんはセワシに連れられ未来に帰ります。

 ということで、1970年1月時点の「小学四年生」と「小学三年生」は、ジャイ子が未来の嫁になる世界線のまま終了するのです。

 変化が起きるのは、1970年1月時点で「小学一年生」だったバージョンからです。「小学四年生」1972年2月号の「のび太のおよめさん」で、ついに未来の嫁はしずかだとわかります。連載開始時点でジャイ子が嫁になる設定が描かれなかった世代なので、急にしずかが妻になっても不自然ではありません。

 当時『ドラえもん』の連載は「小学四年生」までで、3月号で二度目の最終回を迎えます。タイトルは「ドラえもんがいなくなっちゃう?」というもので、なにかにつけてドラえもんに依存するのび太に自立心を持たせるため、ドラえもんは未来に帰ります。

 のび太はドラえもんを心配させまいと、ひとりで転びながらも自転車を練習し、ドラえもんは未来からのび太の様子を見守るという結末でした。長期連載上での最終回前の1話前だったので、未来が変わってしずかと結婚できたことを読者に伝える目的があったのかもしれません。

■特定! 「未来のお嫁さん」が変わった決定回

おしりにタケコプターをつけた、初期のドラえもんが描かれた『藤子・F・不二雄大全集ドラえもん』第1巻(小学館)

 1年間の休止の後に「小学六年生」で連載が再開されます。連載再開時は1973年4月から放送された1作目のTVアニメが放送された時期で、アニメ放送のタイミングに合わせたものだったのでしょう。

 そこからは学年誌全誌での連載が開始されます。幼児期から小学校卒業まで学習雑誌の読者は『ドラえもん』と一緒に過ごすことになるのです。アニメ放送のタイミングで『ドラえもん』が一気にメジャーになることを期待した連載復活だったようです。

 しかし、目論見は外れ、アニメは低視聴率となり半年で打ち切りになります。思ったほど人気が出なかった『ドラえもん』は、学年誌の連載も打ち切りの危機にあったようです。現にアニメ終了後は、『みきおとミキオ』や『バケルくん』など、ドラえもんにかわる新連載が展開していました。

 この時点ではまだ「しずかがのび太の未来の嫁」という設定は世の中に浸透していません。まだコミックスも発売されず、「コロコロコミック」もない時代です。兄弟がいて、他の学年誌の『ドラえもん』を読む機会がないかぎり、他の学年のバージョンの『ドラえもん』のエピソードを知る手段はありません。

 そのエピソードが学年誌の読者以外にも広まるのは1974年になってからのこと。連載4年を経て、ようやく『ドラえもん』のコミックスが発売されます。1974年の7月から毎月1冊ずつ第6巻まで立て続けに「てんとう虫コミックス」から刊行されました。6巻目には「のび太のお嫁さん」も収録されて、ここから「のび太の未来の嫁はしずか」ということが幅広く浸透したようです。

 そこからは最終学年の「小学六年生」で、のび太としずかの結婚やふたりの息子ノビスケとのエピソードがときどき登場します。一方、ジャイ子の方はその後、すっかりのび太のお嫁さん候補から外れ、ジャイアンとは真逆のシャイな性格の漫画家志望の女の子としてすっかり定着しました。

 いろいろなパラレルワールドのある『ドラえもん』の世界。原作コミックスを読んで、『ドラえもん』の歴史を紐解いてみるのも面白いかもしれませんね。

(LUIS FIELD)

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