2大「魔法少女」が壮絶バトル!『クリィミーマミVSミンキーモモ』はバブル前夜の「バカ騒ぎ」?
マグミクス / 2023年9月17日 21時10分
■「ビラ星人!」「キュラソ星人!」と罵り合う魔法少女たち
『マジンガーZ対デビルマン』(73年)や『ルパン三世VS名探偵コナン』(09年)など、複数作品の登場人物が同じ作品に登場するクロスオーバーは、ファンとして非常にテンションが上がるものです。普段は味わえない特別な雰囲気、お祭り感があるからなのかもしれません。
数あるクロスオーバー作品のなかでも、特にお祭り感が強かったのが『魔法の天使クリィミーマミVS魔法のプリンセスミンキーモモ 劇場の大決戦』(85年)です。当時、人気を博した魔法少女が共演した作品でした。
松竹映画でおなじみ、富士山(ただし本作ではイラスト)が噴火してしまうオープニングから飛ばしています。「御来場御礼」と出た後、モモとクリィミーマミに変身する前の森沢優が歩くオープニングタイトルは明るく朗らかな感じ。ふたりが出会い、「あ~、モモちゃん、今度ビデオになったんだってね。おめでとう!」「優ちゃんこそ、もう2本目なんでしょ。すごいわねえ!」とメタ的な会話を交わし、にこやかに握手をします。
と思いきや、ふたりはライバル心剥き出しで握手に力をこめると、なぜか「ビラ星人!」「キュラソ星人!」と罵り合います。このあたりの会話のトーンや間合いが絶妙です。「ビラ星人」と「キュラソ星人」はいずれも『ウルトラセブン』に登場する宇宙人ですが、なぜここで登場したのかは不明です。
両者は変身すると、いきなり巨大化。モモは未来の戦士風のコスチューム、マミは中世の戦士風のコスチュームに変わっています。モモが「フェナリナーサ・キック」を繰り出すと、マミは「フェザースター・パンチ」で応戦。モモがバズーカ、マミがミサイルを放ち、両者はチャンバラを繰り広げながら「首藤スパーク」「伊藤フラッシュ」「渡辺カッター」「後藤ブレード」と、メインスタッフの名前を冠した技を次々と繰り出しいきます。
いかにも内輪受け、楽屋落ちが好まれたアニメパロディ風の描写です。なお、技の名前とキャラの動きがまったく一致しないというギャグも含まれていました。
■街は火の海に 魔法少女どうしの戦いの結末は?
『魔法の天使クリィミーマミVS魔法のプリンセスミンキーモモ 劇場の大決戦』を特典ディスクに収録した、「魔法の天使 クリィミーマミ Blu-ray メモリアルボックス」(バンダイビジュアル)
街は大破し、火の海に包まれます。炎の中からボロボロのモモと優が登場。「どちらもよろしく!」と頭を下げ、背中合わせでへたりこんで終わります。正味2分半程度のショートムービーでした。
本作はOVA『魔法の天使クリィミーマミ ロング・グッドバイ』(85年)がOVA『魔法のプリンセス ミンキーモモ 夢の中の輪舞』(85年)とともに劇場公開されたとき、おまけとして制作されたもの。「御来場御礼」と出るのはそのためです。アニメファンによるパロディ作品のような内容ですが、れっきとした公式アニメでした。「公式パロディ」といってもよいでしょう。
クロスオーバー作品は、『マジンガーZ対デビルマン』のように原作者が同じ、あるいは『ルパン三世VS名探偵コナン』のように制作会社が同じだったりすることが多いのですが、本作は両作品とも原作者はおらず、制作会社も放送局も異なっていました(『モモ』は葦プロダクションでテレビ東京系、『マミ』はスタジオぴえろで日本テレビ系)。
このようなクロスオーバーが実現したのは、両作とも広告代理店の読売広告社のプロデュース作品であり、同社の大野実さんがプロデューサーとして名を連ねていたからです。大野さんは「ミンキーモモ」の名付け親としても知られています。
演出と脚本は『ロング・グッドバイ』の演出を務めた望月智充さん、「ミンキーモモ作画監督」として渡辺浩さん、「クリィミーマミ作画監督」として後藤真砂子さんがクレジットされています。原画には漫画家としても活躍する麻宮騎亜さんも参加していました(きくちみちたか名義)。
望月監督は日常生活を細やかに描きつつ、シャープで独特な画面構成やカメラワークを駆使する演出家として注目を集めていましたが、本作ではアニメファン的なセンスに振り切った演出を見せています。望月監督自身、大学時代はアニメサークルに所属して同人誌活動などに没頭していたそうです。
お祭り的なショートアニメといえば、庵野秀明監督らが参加した『DAICONIII オープニングアニメ』(81年)と『DAICONIV オープニングアニメ』(83年)が思い浮かびます。両作品の間である82年は、アニメファンを意識した『超時空要塞マクロス』や『ミンキーモモ』などの作品が放映開始された年です。『宇宙戦艦ヤマト』(74年)や『機動戦士ガンダム』(79年)を観て育ったアニメファンの盛り上がりが結実したのが『DAICON~』だったと言えるでしょう。
本作が公開された85年は、TVでのアニメブームは落ち着きかけていましたが、中高生以上の高年齢層のアニメファンに向けてスタートしたOVAがブームを迎えていました。同年にリリースされたOVA『メガゾーン23』は1本1万3000円を超える高価格だったにもかかわらず、2万6000本を売り上げました。
『ロング・グッドバイ』も『夢の中の輪舞』もOVAです。アニメが新しい時代を迎えた高揚感が、『魔法の天使クリィミーマミVS魔法のプリンセスミンキーモモ』のような作品を生み出したのではないでしょうか。世の中はここからバブルに突入していきます。本作を通じて、明るい時代の浮かれた雰囲気をぜひ味わってみてください。
(大山くまお)
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