名作RPG『ウィザードリィ』 少年たちを冒険へ駆り立てた、世界観とメディアの力
マグミクス / 2019年10月30日 19時40分
![名作RPG『ウィザードリィ』 少年たちを冒険へ駆り立てた、世界観とメディアの力](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_18433_0-small.jpg)
■「いしのなかにいる!」…一瞬のミスでパーティ全滅の理不尽
1987年、ファミリーコンピュータ向けに移植されたRPG『ウィザードリィ』は、その独特のゲームシステムと世界観で多くのファミコン少年たちに強い印象を与え、さらに未来のクリエイターたちにも大きな影響を与えました。当時『ウィザードリィ』にハマった経験を持つゲームライターの早川清一朗さんが、思い出を語ります。
* * *
全滅に次ぐ全滅を繰り返し、ようやく育て上げたまともに戦えるパーティが、テレポート魔法「マロール」の座標入力ミス一発で壊滅した瞬間は、忘れられるものではありません。それでも数日後には新たなキャラクターを育成するために、最初から「侍」キャラクターを作れるボーナスポイント18以上を求めてリセットを繰り返していました。
友人に借りて遊び始めたファミコン版『ウィザードリィ』(以下、Wiz)は、それまで遊んできたRPGとは、何もかもが違っていました。グラフィックがあるのはモンスターとマップのみ。プレイヤー側は何もかもがテキストのみという潔さ。舞台となる城塞都市に何種類もある宿屋の違いが分からず、連射パッドを使い「かんいしんだい」で回復するという大失敗もやらかしました(編集部注:簡易寝台は1回の宿泊でHPが1しか回復しないため、全回復しようとするとキャラクターの加齢を進めてしまう)。
モンスターに遭遇すればあっさりと殺され、パーティが全滅したら他のパーティを編成して死体を回収して蘇生する必要があり、蘇生に失敗すればキャラクターロストとなり、苦楽を共にしてきたキャラクターとは二度と会うことができません。
死にやすい低レベルの時期をどうにか乗り越えても、迷宮最下層に足を踏み入れればポイズンジャイアントのブレスになぎ払われたり、グレーターデーモンの群れに強力な攻撃呪文「マダルト」の連打をくらったり、雑魚にしか見えないバンパイアに2つもレベルを下げられたりと、現在のように各項目に親切なチュートリアルがついている時代からは考えられないほどの地味さと不便さと理不尽さをあわせ持っていた本作でしたが、なぜかやり始めると止まらない、魔法のような魅力を放っていました。当時の筆者の頭の中には、テキストだけの城塞都市の風景が、はっきりと映し出されていたのです。
ただ本作は、ほぼ同時期に『ファイナルファンタジー』が発売されたこともあってか、注目度もそれほど高くはなく、雑誌の中には『Wiz』の情報をほとんど載せていないものもありました。
そんななか、ある雑誌が大々的に『wiz』の特集を行ない、本作の運命を大きく変えたのです。
■プレイヤーを熱中させた連載小説『隣り合わせの灰と青春』
「ファミコン必勝本」に連載されたウィザードリィ小説『隣り合わせの灰と青春』の単行本(画像:筆者提供)
『Wiz』を積極的に取り上げていたその雑誌の名前は、「ファミコン必勝本」(以下、必本)。当時発行されていた多くのファミコン雑誌のひとつです。なぜか他誌では扱いが弱かった『Wiz』を毎回のように特集しており、貴重な情報源となっていました。
さらには、ゲーム小説の名作として名高い、ベニー松山氏による『隣り合わせの灰と青春』の連載も始まり、「必本」は『Wiz』の魅力に憑りつかれた筆者の生活必需品となりました。
ダンジョン1Fの「マーフィーズゴースト」でレベルを上げ、4Fにエレベーターで乗り込み、「ブルーリボン」をゲットして9Fのピットから最終階層10Fへと乗り込む。この攻略法を知ってからは、その先が筆者の主戦場となりました。ボスのワードナ撃破? いえいえ、ワードナを倒し魔除けを6人分隠匿してから、「レアアイテム集め」という本当のスタートが切られたのです。
筆者は「むらまさ」「せいなるよろい」「しゅりけん」、この3つのレアアイテムを探し求めながら、必死になって「ぎんのこて」を集めました。「どうのこて」よりもAC(アーマークラス;数値が低いほど相手の攻撃成功率が下がる)を2下げられるこのアイテムは、少しでもキャラクターを強化したい筆者にとって必須のアイテムに思えたのです。
なお、ファミコン版『Wiz』のACは、バグによって何の効果もないと知ったのはつい先日のことです。
「俺の時間と情熱を返して!」
と叫んでも何も帰ってこないのが、悲しいところです。
さてその後も『ウィザードリィ』シリーズは続々と発売され、多くのファンを獲得していきました。『Wiz』の想像力をかき立てられる世界観は多くのクリエイターたちに刺激を与え、多くの作品が生み出されています。近年筆者が読んだ作品の中では、マンガ『ダンジョン飯』(著:九井諒子)や小説『ゴブリンスレイヤー外伝2鍔鳴の太刀《ダイ・カタナ》』(著:蝸牛くも)などがWizの世界観を色濃く受け継いでいるように思えます。
それにしても、石垣環先生のマンガ版『ウィザードリィ』、電子化されませんかねえ……。外伝のエピローグ的なエピソードが1話だけ単行本化されていないので、ぜひまた読んでみたいものです。
(早川清一朗)
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