まさかの演出に「原作者ブチギレ」のアニメ いったい何が起きた?
マグミクス / 2023年10月3日 21時10分
![まさかの演出に「原作者ブチギレ」のアニメ いったい何が起きた?](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_187314_0-small.jpg)
■「パクリ」は言語道断?
自分が描いたマンガがアニメになるのは、漫画家の大きな夢でしょう。アニメ化が決定すると原作者はアニメ制作スタッフと話し合い、あとはお任せするのが普通だそうです。ただ、意思疎通が取れていなかったのか、アニメの出来で原作者が怒ってしまうケースもあります。
いくつか古い例を挙げてみます。
・アニメ『ハリスの旋風』(66~67年)で、主人公の石田国松がただの悪ガキとして扱われているのを見て「アニメはこんなに乱暴な作り方をするのか!?」と、ちばてつや先生が製作スタッフに抗議した
・現在のテレビ朝日版ではなく日本テレビで放送されたアニメ『ドラえもん』(73年)で、藤子・F・不二雄(当時・藤本弘)先生が「原作とは似て非なるアニメ」と憤っていた
・『超電動ロボ 鉄人28号FX』(92~93年)で横山光輝先生がロボットのデザインを見て「ガンダムじゃないんだよ」と嘆いた
など偉大な先生方がぼやいたとされる逸話はたくさんあります。
上記は「逸話」ですが、今回は原作者自身がブログやSNSを通じてはっきりと苦言を呈した、近年の事例を紹介します。
●「失望に値する、最低な演出」アニメ『あひるの空』(19~20年)
こちらは身長149cmの主人公が不良だらけのバスケットボール部に入部して、母親と誓った「高校最初の大会で優勝」をめざすスポーツマンガのアニメ化作品です。
事件は第37話で起こります。バスケ試合中の人物の目から、光が波のように走る映像がありました。目の肥えた視聴者は「パクリじゃないの!?」と驚いたはずです。
こちらは、同じバスケを題材にしたアニメ『黒子のバスケ』で、登場人物が「ゾーン」に入ると目の光が走る、という演出と似ていたのです。もちろん、原作マンガにこのような描写はありません。原作者の日向武史先生は責任を感じたのか、放送から2日後、当時のTwitter(現:X)でこのようにつぶやきました。
「その作品のファン達を不快にさせてしまったなら申し訳ないです。純粋なあひるの空の読者にもね。失望に値する、最低な演出だと思います。重ねてお詫びを。(一部抜粋)」
この演出はアニメ制作側が勝手に行ったもので、現状その意図や狙いも分かりません。
■リスペクトが感じられないオリジナル
●「DVDは売った」アニメ『HELLSING(ヘルシング)』(01年)
OVA版は好評だった『HELLSING』1巻(少年画報社)
主に20世紀イギリスを舞台に、吸血鬼と吸血鬼ハンターの戦いを描いたダークなアクションマンガ『HELLSING』は、アニメ化時にファンの期待の声も高かった作品です。ところが、スタートするとすぐに原作から脱線しはじめ、後半はオリジナルキャラが主役を食うレベルの存在になっていました。つまり、原作とは「別の作品」というレベルにまで変えられたわけです。
ただ、その展開は目に見えていたともいえます。これは「ナチス関連の描写ができなかったこと」が最大の欠点でした。原作では、ナチス残党組織のリーダーである少佐がいます。この少佐が物語にエッジを効かせる存在として人気が高いのですが、「ナチス」要素を排除したためアニメには登場しません。
その理由は、アニメが海外へ輸出・配給が決まっていたためでした。少佐が出ない時点で『HELLSING』の面白さはごっそり削がれるので、ファンからのブーイングは目に見えていたはずです。素人意見ですが、そもそも、その時点でアニメ化をやめる勇気も必要だったのでは? とも思ってしまいます。
2000年当時、漫画の連載にアニメが追いつきそう、などといった理由でオリジナルの展開を創作する作品は多少ありましたが、この『ヘルシング』はちょっと行き過ぎた例かもしれません。
そして、怒ったのは原作者の平野耕太先生です。SNSに「第一話見て期待してた俺が馬鹿だった。水曜は遅くまで起きている意味無し」などと投稿し、第3話くらいから酷評の度を高めていきました。
平野先生の怒りは相当で、DVD第1巻初回特典パッケージのイラストの依頼は断り、出来上がったDVDは受け取ったあと「まんだらけに売った」とのことです。また先生のサイン会で「アニメを見てファンになった」という男性の色紙に、「一生アニメを見てろ」と書き添えたエピソードが残るほどです。ちなみに、作品はのちに、原作に近い内容でOVA版が制作されて高評価を受けています。
●「原作者を凌駕すんなァー!」――― 『理系が恋に落ちたので証明してみた。』(20年)
『理系が恋に落ちたので証明してみた。』は同じ研究室に通う大学生の男女が、恋愛感情とは何かを理論的に解き明かそうとするラブコメディです。同作のアニメ版には、原作者の山本アリフレッド先生はとても不満だったようです。しかし、こちらは不満の理由が他の事例と違っており、「原作を超えるほどのクオリティーが不満」でした。
山本先生は、作品のアニメ化が決まって制作陣と会議をした際、メインスタッフに理系の人間がほぼいなかったので不安になり「理系ってこんな感じだろう、という想像ではなくて、キチンと調べ、徹底的に追求して作ってほしいです!」と要望したそうです。ところがスタートしたアニメを見て驚きます。高度な数学の概念を画面に表すなど、普通の人は分からないような部分も補って視聴者を置き去りにしない、そのシステムが完璧だったのです。
山本先生はその他にも、「原作で後半がわかっているからこそできる伏線の張り方が不満」「アニメのクオリティーが高すぎて、これではあとから原作漫画を読んだ人が「原作ショボッ」って思われる」といった具合に、「不満」をつづったマンガを描いて自分のInstagramにアップしました(とても笑えます)。
アニメスタッフからすると、原作者の指示通り、正確で繊細な裏取りと表現力で期待を上回るハイレベルな作品を打ち出したわけです。うれしい不満だったに違いありません。
以上、「原作者がキレたアニメ」を3例挙げましたが、他に有名なところでは……『くまみこ』(吉本ますみ先生)、『しろくまカフェ』(ヒガアロハ先生)、『ガンスリンガー・ガール』(相田裕先生)、『るろうに剣心』(和月伸宏先生)、『鋼の錬金術師』(荒川弘先生)、『ドラゴンボール超(スーパー)』(鳥山明先生)などがあります。「ブチギレ」か、「ちょいギレ」かは分かりませんが……。
もちろん、『鬼滅の刃』の吾峠呼世晴先生や『推しの子』の赤坂アカ&横槍メンゴ先生など、自身のアニメを大絶賛する方も少なくありません。
原作者は作品の生みの親ですから、アニメ制作側はリスペクトして意向は尊重する必要があります。ただし、原作の要望ばかり飲むと、アニメ制作チームは「道具」でしかなくなります。アニメ側も個性を出したいのは当然です。
アニメ制作は基本的に、原作に沿って映像化するよう努めるものですが、口で言うほど簡単ではありません。マンガでは聞こえない声(声優)やBGMといった音、マンガのコマとは違う動きと色彩といった表現、脚本においてもアニメ用に変更する部分がたくさん出てきます。
また、TVは話数と時間に制限があるので、マンガとの進行具合を調整したり、地上波なら視聴率も気にしたりしなくてはなりません。たとえば主題歌が人気になるなど、予想もしないポイントが話題になることもあり、人気を上げるためにオリジナルの改変を余儀なくされるケースも出てきます。
すべては作品のための努力なのですが、かといって原作の世界観を見失わず、視聴者が好みそうなことと、原作者や原作ファンがいぶかしく感じないことのバランスが取れた演出で魅力的に見せるのが、アニメのプロとして腕の見せどころ、と言えます。
(石原久稔)
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