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『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』BS12で放送 シャアが最も輝き、堕ちていく物語へ

マグミクス / 2023年10月5日 6時10分

『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』BS12で放送 シャアが最も輝き、堕ちていく物語へ

■安彦良和総監督による全13話のアニメシリーズ

 悪役、敵役たちがこんなにも輝いているアニメ作品は、そうそうないでしょう。安彦良和総監督による『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 前夜 赤い彗星』が、2023年10月5日(木)の深夜2時よりBS12にて放送されます。

 1979年にテレビ放送され、再放送や劇場版三部作の公開で爆発的人気を呼んだ『機動戦士ガンダム』(テレビ朝日系)の前日談を描いたシリーズです。『機動戦士ガンダム』の主人公アムロ・レイの最大のライバルとなるシャア・アズナブルと、その妹セイラ・マスの生い立ちから始まる物語となっています。

 2015年~2018年にイベント上映された「青い瞳のキャスバル」から「誕生 赤い彗星」までの全6作品は、2019年にNHK総合で全13話のアニメシリーズに再構成されて放映されました。今回のBS12での放映は、NHK版と同じものになるそうです。

■ハイスペック男子のシャアは、なぜ悪のヒーローに?

 富野由悠季監督が生み出し、安彦監督がキャラクターデザインと作画監督を務めた『機動戦士ガンダム』は、放送から40年以上経った現在も絶大な人気を誇っています。人気の要因として、どこまでも掘り下げることができるディープな「世界観」、シリーズごとに変わっていくアムロとシャアの関係性などが挙げられます。『機動戦士Zガンダム』(テレビ朝日系)や劇場アニメ『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(1988年)の人気が高いのも、シャアの存在あってでしょう。

 ルックスがよく、育ちもよく、頭脳明晰で、モビルスーツの操縦にも優れているシャア。すべてにおいてハイスペックの持ち主である彼が、なぜ悪のヒーローとなっていくのかが本シリーズで明かされます。

 シャアの本名は、キャスバル・レム・ダイクンです。金髪碧眼のかわいい少年でしたが、父親のジオン・ズム・ダイクンが急死したことで運命が激変します。政治家だった父親は暗殺されたのだと幼いキャスバルは教え込まれ、父に代わって権力を握ったザビ家を憎むようになります。さらに最愛の母親アストライアも非業の死を遂げたため、キャスバルはザビ家への復讐を誓うのでした。

 復讐のためには手段を選ばないキャスバルは、顔のそっくりな若者シャア・アズナブルと入れ替わり、ザビ家が運営する士官学校へと入学。ザビ家の末っ子であるガルマ・ザビと親しくなります。アラン・ドロン主演の犯罪映画『太陽がいっぱい』(1960年)を思わせる、サスペンスフルな展開となっています。

 シャアになりすまし、冷酷にザビ家への復讐の布石を打っていくキャスバル。かたき討ちのためだけに情熱を燃やす、キャスバルの歪んだ青春はゾクゾクさせられるものがあります。

■「ガンダム」シリーズは、シャアが堕ちていく物語

ザビ家への復讐のため、シャアはザビ家の御曹司であるガルマ・ザビに近づいていく (C)創通・サンライズ

 ゴーグルで瞳を隠すようになったシャアことキャスバルは、本音は胸の奥に秘め、いつも穏やかな口調でしゃべります。まっすぐに育っていれば、優秀な軍人か政治家になっていたことでしょう。人を惹きつけるカリスマ性の持ち主でした。それゆえシャアのその後の人生を振り返ると悲しさを覚えます。

 ザビ家への復讐を『機動戦士ガンダム』の最終話で果たしたシャアは、続編『Z ガンダム』ではライバルだったアムロと共闘することになります。復讐という人生の目標を終えてしまい、シャアの迷走が続きます。『逆襲のシャア』では、地球人類を滅亡させようという凶行に至ります。

 富野監督が描く「ガンダム」シリーズは、ハイスペック男子のシャアがどこまでも堕ちていく物語だとも言えます。でも、そんなシャアを周囲の女性たちは放っておくことができず、彼女たちもまた悲劇に呑み込まれてしまいます。「ガンダム」の世界には、暗い魅力が秘められています。

 シャアの青春を描いた『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』は、シャアがいちばん輝いていた時代の物語です。パイロットとしてシャアの能力を凌駕するようになるアムロはまだ幼く、ニュータイプには目覚めていません。シリーズ後半には、シャアの孤独さを癒してくれる唯一の少女ララァ・スンとの出会いも待っています。復讐や戦い以外に生きる喜びを見つけることができていたら、シャアの人生はまったく違うものになっていたことでしょう。

■戦場にしか居場所を見出せないオールドタイプの哀しみ

 シャア以外にも、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』には陰影の深いキャラクターが次々と登場します。その筆頭と言えるのが、『機動戦士ガンダム』でアムロに戦いの厳しさを教える、ジオン軍きっての猛将ランバ・ラルです。若き日のランバ・ラルが、シリーズ前半は大いに活躍します。酒場の歌姫だったハモンが惚れるのも分かる、男っぷりのよさです。人格面でも優れたランバ・ラルが、敵対していたザビ家の軍門に降るいきさつは、せつないものがあります。

 策略大好きなザビ家のなかにあって、三男のドズル・ザビだけは曲がったことが大嫌いな男気のある人物です。士官学校の生徒だったゼナとの間にミネバが生まれるエピソードなどは、ドズルの人間味を感じさせます。

 惜しむべきは、コロニー落としがどんなに非道な行為であるかを認識できないまま、遂行してしまったことでしょう。自分が犯した罪を正当化するために、ドズルもまた戦いの世界に盲進することになります。

 中国の奇書『三国志』もそうですが、悪役や敵役が魅力的な物語ほど、多くの人たちに深く、長く愛され続けます。シャア、ランバ・ラル、ドズルらの知られざる一面にスポットライトを当てた『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』を観ることで、『機動戦士ガンダム』がより面白く感じられるのではないでしょうか。

(長野辰次)

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