下手すると「死ぬ」アニメ映画。プロデュースの成功者が凄いワケ【この業界の片隅で】
マグミクス / 2019年11月7日 19時40分
■実写映画より高い!? アニメ映画の映像制作費
アニメ映画は下手をすると死にます。比喩でも何でもなく。
いったい何が死ぬのか? お金を出して作った人たちのお財布が、です。だったら何でそんなハイリスクなものをたくさん作るのかという疑問は、まったくもってごもっともです。大きな理由として、業界の直面している構造的な問題があるのですが、それはまた別の機会があればお話しましょう。
ともあれ、アニメ映画の主にどこがハイリスクなのか? 当然ながら、まずは映像制作費の高さが挙げられます。映像制作費はさまざまな要因による差が大きく、一概にいくらとは言えないのですが、通常の劇場アニメですと数億円は当たり前にかかります。傾向として、実写映画よりアニメ映画の方がお高めでもあります。
また、聞き慣れない言葉かもしれませんが、「P&A費」というのもあります。Prints & Advertisingの略で、つまりは上映に使うフィルム代と広告宣伝費です。仮に100館の映画館で上映するとしたら、フィルム代は単価×100館分かかります。
宣伝を劇場内で行う場合、その費用も100館分。もちろん、劇場内だけでなく、ネットでテレビで街角でと、可能な限り多く効果的な宣伝を行わなければ、お客さんは劇場に足を運んでくれません。そういったプロモーションも、当然ながらタダではできません。
さあ、アニメ映画に明るい夢を見ていた皆さんの顔が、だんだん曇ってまいりました。性格の悪い私が、さらなる追い打ちをかけてまいりましょう。仮に映像制作費とP&A費で5億円かかったとします。それなら、興行収入が5億円に到達すれば赤字にはならないのでしょうか?
そんなことはありません。
劇場映画の場合、興行収入の約50%(この比率には変動があります)は、興行=映画館側の取り分となります。残った50%の中から、まずは実際の上映に至るまでを取り仕切ってくれた映画配給に手数料を支払う必要があるでしょう。原作者や監督、脚本家に対する印税もあります。
その他にも、さまざまな経費が発生しているはずです。それらを全て差し引いて残ったお金から映像制作費やP&A費を除いた額が、お金を出して作った人たちの「利益」ということになるわけです。
■『君の名は。』を大金をかけて作ったことの凄さ
2016年に大ヒットとなった、新海誠監督の『君の名は。』 (C)2016「君の名は。」製作委員会
これだけハイリスクなアニメ映画ですから、お金を出す人たちが、少しでもヒットにつながる根拠を求めるのは当然です。例えば、「すでに人気のある原作やテレビシリーズを映画にする」というのは、ひとつの材料になるでしょう。
クリエイターの知名度も同様で、「宮崎駿監督の作品なら」「細田守監督の新作なら」という理由で映画館に足を運ぶお客さんは、多数いらっしゃるはずです。
そのような大きな話題もなく、その時点で必ずしも有名ではない監督のオリジナルアニメ映画を大金をかけて作ることがいかに凄いか、お分かりいただけるかと思います。「あの人の作品ならいずれヒットすると思ってた」と、結果が出た後から語るのは簡単。お金を出す方は、結果が出る前に判断しなければならないのです。
2016年8月に公開され大ヒットした『君の名は。』の情報が解禁された時点では、新海誠監督に対する認識は、「一般的な知名度こそ高くないものの、アニメファンを中心に実力は認められている」といった感じだったはずです。主題歌を手がけられたRADWIMPSさんの人気はプラスになっていたと思いますが、ヒットの根拠としては弱いと考えるのが普通でしょう。
それでも大金をかけて映画を作り、超がつくほどの大ヒットをさせたわけですから、これはもう、畏敬の念を抱くほかありません。
いわゆる「原作付き」のアニメ映画であっても、宮崎駿監督や細田守監督を「その時点で」起用して大ヒット作を世に送り出した方々もまた、偉大だと思います。プロデュースという修羅の道の、まさに勝者とも言うべき存在です。
勝ち負けで語るのが良くないことは、もちろん私も承知しています。残念ながら「勝てなかった」作品のなかにも、心を動かされる傑作は数多く存在します。それでも、映画を含むアニメに関わるほとんどの人が、「勝ちたい」「売りたい」と、心のどこかでは思っているはずです。「売れる」ことは、より多くの人に自分の仕事を見てもらえることでもありますから。
(おふとん犬)
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