『キャプテン翼』アニメ化から40年 いつの時代も「愛される」ための絶妙な工夫とは?
マグミクス / 2023年10月13日 6時10分
■そもそも「サッカー」を題材にしたワケは?
2023年10月13日は、1983年に『キャプテン翼』がTVアニメとして初めて放送開始した日です。原作マンガも高い人気を誇る作品でしたが、TVアニメ化されることでその人気はいっそう大きなものになりました。そして、その人気は国外にまでおよび、やがて時代をも超えた人気作品となります。
『キャプテン翼』がTVアニメになった時期は、原作マンガでは小学生編も終了して中学生編の静岡県予選決勝戦が描かれた時期でした。当時の「週刊少年ジャンプ」では『キン肉マン』に並ぶ看板作品で、ファンには待望のアニメ化と言えたでしょう。
しかし、実はこの時のTVアニメ化は当初はそれほど期待されたものではありませんでした。いわゆる「スポコンもの」はもう古いとという意見がTV局内にもあったそうです。ところが、ふたを開けてみれば最高視聴率は21.2%を記録、テレビ東京開局以来のヒット作とまで言われました。
背景には、作品の持つポテンシャルがあったと考えられます。もともと当時はサッカーを題材にしたマンガのヒット作はほとんどなく、男子のスポーツものと言えば野球がまだまだ王道だった時代でした。それを切り開いたのが、原作者である高橋陽一先生です。
高橋先生は王道だからこそ野球を題材にせず、あえてサッカーを題材にしました。そして野球マンガで描けないような展開を、サッカーマンガで描くことにしたわけです。その大胆なコマ割りを見れば、確かにサッカーマンガ独特のダイナミックな動きを巧みに描いていました。
このマンガならではの演出は、アニメにも生かされています。地平線の先に見えるゴールや、選手たちの驚異的なジャンプ力、さらに浮いているのではと思わせる滞空時間の長さ。すべてアニメならではの巧みな演出方法でした。
もともとサッカーは野球と違って、試合中は常に動き回っている競技です。そのアクティブな動きに、時間が止まっているのではないかと思わせるセリフの長さを加えて『キャプテン翼』は、マンガはもちろんアニメにも通用する作風を確立しました。
その人気はとどまることを知らず、全128話10クールにわたってTVアニメは放送されます。しかし連載中のTVアニメ最大の懸案事項である「原作に追いつく」ということになり、TV放送は残念ながら中学生編最後の全国大会で終了しました。しかし、その後のジュニアユース編は1989年から発売したOVA『新キャプテン翼』全13巻にて完結します。
「ジャンプ」での連載もジュニアユース編で完結し、最終回を迎えました。しかし、その後も『キャプテン翼』自身が生み出したサッカーブームに支えられて、何度となく続編が作られ、現在もなお原作マンガは掲載誌を変えて連載中。その人気はいまだに続いています。
この『キャプテン翼』で特筆する点は単なるブームだけにとどまらず、多くのコンテンツに影響を与えた点にあるのでした。
■国外はおろか時代をも超えて影響を与え続ける不朽の名作
2018年に放送された『キャプテン翼』を収録した、「キャプテン翼 Blu-ray BOX ~小学生編 上巻~」(ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント)
『キャプテン翼』の功績でよく言われるのが、日本サッカー界を大きく前進させた点です。かつてはメジャーとは言い難かったサッカーの競技人口を増やし、プロスポーツとなる「Jリーグ」誕生を後押ししたと分析する有識者も少なくありません。
当時、実際に『キャプテン翼』を見てサッカーを始めた子供の数は多く、その競技人口が2倍以上になったそうです。サッカー界の重鎮の人もこれにおどろき、個々のプレイヤーの強化よりも、競技人口を増やしてすそ野を広げた影響力を評価しました。
さらに有名なプロ選手のなかには、「『キャプテン翼』を見てサッカーを始めた」と語る人が多くいます。この『キャプテン翼』をきっかけにサッカーを始めた選手たちは国内だけにとどまらず、海外にも多く存在しました。そういった点からも単なるブームでなく、世界を動かした作品と言えるでしょう。
かつて、日本サッカーの得点力不足は『キャプテン翼』の影響だと言う説がありました。それは主人公である大空翼に憧れるばかりにMF(ミッドフィルダー)に優秀な人材が集まり、FW(フォワード)不足になるから……ということだそうです。
冗談のような話ですが、それほどまでに『キャプテン翼』が日本サッカーに影響を与えていると考えている人は少なくないのでしょう。
この『キャプテン翼』の影響力には、アニメとの相乗効果が大きく関係しています。第1作目にあたる1983年から放送されたTVアニメは、その後、50か国以上で放送される作品となりました。前述の世界のサッカー選手に与えた影響は、この作品によるところも大きいでしょう。
さらにJリーグ誕生でサッカー熱に盛り上がった時期に放送されたのが第2作にあたる『キャプテン翼J』(1994~1995年)です。そして日韓合同開催された「2002FIFAワールドカップ」の時期には、第3作にあたる『キャプテン翼』(2001~2002年)が放送されました。『キャプテン翼』は日本サッカー界の成長とともに歩んできたわけです。
第4作となる『キャプテン翼』(2018~2019年)では分割クール制となり、現在は『キャプテン翼シーズン2 ジュニアユース編』(2023年~)が放送中です。これらの作品の大きな特徴は、いずれも小学生時代から始まっており、時代ごとに新規の視聴者層に配慮している点です。つまり、放送される時代の子供たちを常にターゲットとしていることでしょう。
そう考えると、世代を超えて『キャプテン翼』がサッカー人気を支え続けていることがわかります。「世代を超えて共通認識が可能な作品」という強みがあるからこそ、『キャプテン翼』は古びることない作品に位置し続けているのでしょう。
この他にも『キャプテン翼』が大きな影響を与えた業界があります。それは同人誌界です。アニメ化による人気で、『キャプテン翼』を扱った二次創作同人誌は一大ジャンルを確立。「やおい」と呼ばれるジャンルをメジャーなものとしました。
これ以降、女性の「ジャンプ」に対する関心は急速に高まり、後の黄金時代では強力な支えとなります。その勢いは現在も続き、少年誌でありながらジャンプ作品を愛好する女性層が減ることはありません。
これからもサッカー界へ影響を与え続けるであろう『キャプテン翼』は、世代を超えた人気作として、いつの時代も「共通の話題」となっていくことでしょう。
(加々美利治)
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