ジャンプ人気作のアニメ化までに「必要な時間」とは? アニオリの配分が決まるワケ
マグミクス / 2023年10月23日 19時50分
■人気マンガがTVアニメ化される条件とは?
アニメ作品のなかでも、毎クール特に注目を集めることの多いのが「週刊少年ジャンプ」の作品です。数多くの連載マンガをヒットさせ、さらにアニメ化することでより大きな人気を得てきました。しかし、それは年代とともに少しずつ変化しています。
ジャンプ作品で最初にアニメ化されたのは、『男一匹ガキ大将』(1969年)です。当時は『ハレンチ学園』と合わせて、二大看板作品と言われていました。ちなみに一方の『ハレンチ学園』は、1970年に映画とTVで実写ドラマ化されています(一部で最初のアニメ化と言われている『紅三四郎』は、アニメ企画と連動した実質的コミカライズ作品でした)。
しかし、現在のようにジャンプアニメが本格的に動き出したのは『Dr.スランプ』(1981年)からでした。なぜなら、それまでのジャンプ編集部は、アニメ化には積極的ではなかったからです。その理由は、アニメになることで、マンガを読まなくていいと考える読者が多いと思ったからでした。
ところが、フジテレビ側からの強い要請に折れて『Dr.スランプ』のアニメ化に踏み切ったところ、連載マンガへの注目度が急速に上がり、さらには多大な版権収益があったことでジャンプ編集部は方針転換をします。そして、これ以降はアニメ化に対して、積極的なスタンスとなりました。
このアニメ化で問題となるのが、原作マンガの「ストック」です。コメディマンガはともかく、ストーリーマンガでは重要なことでした。なぜならTV作品1話で必要とする内容は、マンガ連載4話分前後に匹敵すると言われているからです。
単純計算で1年分のTVアニメの場合、マンガは4年の連載期間が必要となります。しかしながら、連載マンガの旬は数年程度が普通です。そのため、人気の高い時期にTVアニメ化し、足りない部分はオリジナルの展開を挟むというのが定番となりました。
このアニメオリジナルは作品によってさまざまな展開が用意され、時には高評価、時には批判の種を生むことになります。そこで「20世紀中のジャンプアニメ」を振り返って、TVアニメ化放送時に原作はどこまで進んでいたかを確認していきましょう。
どうして20世紀に限定するかと言えば、21世紀以降のTVアニメでは分割クール制が主流となり、過去のようにアニメオリジナル展開がほとんどないからです。もっとも、こちらの問題もないわけではありません。
例を挙げると、『ハイキュー!!』や『鬼滅の刃』のようにマンガ連載が終了して数年経っても、アニメで完結まで観られていないケースがあるからです。ファンにとっては悩ましい問題でしょうか。
■マンガ連載がどれくらい経過すればアニメ化される?
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最初に前述の『Dr.スランプ』です。連載期間は1980年1月から1984年9月でした。TVアニメは1981年4月から1986年2月まで放送されています。TVアニメが放送開始した時期の連載は特に大きな展開がなかったのですが、印象的なキャラとなるDr.マシリトがアニメ開始1か月ほどでマンガに初登場しています。
その次に1982年の映画『コブラ SPACE ADVENTURE』に続いて、アニメ化された『コブラ』は、TVアニメになる際に『スペースコブラ』に改題されました。アニメになっていくつかの改変がありましたが、オリジナルエピソードを挟むことなく終了しています。
それは『コブラ』の連載は1978年から始まっており、原作のストックが十分にあったからでしょう。実際、すでに完結していながらも、アニメ化されなかった長編エピソードもありました。
そして、1979年に連載を開始した『キン肉マン』がTVアニメ化されたのが1983年4月です。この時、原作マンガでは悪魔将軍との戦い直前くらいのストーリーでした。
原作のストックはそれなりに多かったのですが、原作者であるゆでたまご先生からの要望で、初期の「ギャグ編」を極力オミットして、人気のあった「超人オリンピック編」を早めに始めています。それによってアニメもヒットとなり、キンケシという人気商品の大ブームにもつながりました。
しかし、早すぎる原作ストックの消費でTVアニメ3年目の「夢の超人タッグ編」では原作の進行に追いつきそうになり、アニメではかなりのオリジナル展開を加えます。そして、次のシリーズ「キン肉星王位争奪編」は延期して、オリジナル編でアニメは最終回を迎えました。「キン肉星王位争奪編」は、原作終了後の1991年にTVアニメとして再スタートします。
この時期はとにかくTVアニメでのオリジナルが多く、原作に登場したレギュラーを減らした『キャッツ・アイ』(1983年)のような例もあれば、『ストップ!! ひばりくん!』(1983年)では別作品から原作を流用したこともありました。ともにマンガ連載とアニメ化は同時期で、2年弱のストックがあります。
また、『夢戦士ウイングマン』(1984年)に改題された『ウイングマン』は、アニメ放映開始時の連載マンガは桜瀬りろのエピソードが終盤を迎えた頃です。1年程度の連載ストックしかなかったことで、オリジナル展開が多くありました。
『北斗の拳』(1984年)も、連載から1年程度でアニメ化されたためストックがあまりなかったのですが、序盤のシンとの戦いをアニメでは半年ほどかけるオリジナル展開で引き延ばしています。ちなみにアニメ開始時の原作は、アミバとの決着がついてカサンドラに入る辺りでした。
そして、原作ストックがない時点のアニメ化と言えば、『聖闘士星矢』(1986年)が今でも語り草になっています。連載開始からアニメ放送までの期間は10か月でした。アニメ放映時の原作は白銀聖闘士との戦いが始まったころで、沙織がアテナだと告白する前です。教皇の悪事も露呈する前という、先の展開がまったく見えない状態でのアニメ化でした。
最後に、よくアニメオリジナル展開で話題になるのが『ドラゴンボール』です。実は早い段階でアニメ化が検討されていましたが、原作ストックの確保のため、前番組『Dr.スランプ アラレちゃん』の放送を延長していたという経緯がありました。
そのため、連載が1年2か月になったところで、アニメがスタートしています。この時点で原作マンガは、マッスルタワーでのレッドリボン軍のムラサキ曹長との戦いの辺りで、それなりに余裕がありました。しかし、長寿番組となったことで原作のストックはやがてゼロとなり、次シリーズ『ドラゴンボールZ』の頃には、マンガの下書きをもとにアニメを制作するほどの状態となったのです。
このように、たとえストックがあっても長期の放送によって尽きることは珍しくなく、現在のような分割クール制という安全策が重宝されているのは、アニメ制作の上での当然のリスク回避と言えるかもしれません。
(加々美利治)
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