『ウィザードリィ』とメディアミックス 『隣り合わせの灰と青春』が果たした役割とは
マグミクス / 2023年10月24日 21時10分
■『隣り合わせの灰と青春』がもたらした衝撃
2023年現在、ゲームのコミカライズやアニメ化はごく当たり前に行われています。しかしながら家庭用ゲームの黎明期、ファミリーコンピューターの時代には当たり前のことではありませんでした。
それでも多くの人がゲームに可能性を見い出しており、1986年には『スターソルジャー』(ハドソン、現コナミデジタルエンタテインメント)が劇場アニメ化され、その後も『BUGってハニー』(ハドソン、当時)がTVアニメ化とゲームの両軸で展開されるなど、いまで言うメディアミックスの流れは徐々に生まれつつあったのです。
それらの動きの中でも後世に大きな影響を与えた作品といえば、1988年に情報誌『ファミコン必勝本』(JICC出版局、現宝島社)で連載された『小説ウィザードリィ 隣り合わせの灰と青春』になるでしょう。ちなみにファミコン版『ウィザードリィ』は、1987年12月22日にアスキー(当時)より発売されています。
コンピューターRPG『ウィザードリィ』を原作としてベニー松山氏が紡ぎあげた本作『隣り合わせの灰と青春』は、わずかな文字とドット絵、音楽で表されていた世界を、「意志を持った人間たちが住む世界」へと引き上げたエポックメーキング的な作品です。それまで「ピコピコ」などと揶揄されてきたビデオゲームが、本格的な文学作品となり得る可能性を知らしめた功績は計り知れません。
また、ベニー松山氏が「協力」でクレジットされている、石垣環氏の手によるコミカライズ『ウィザードリィ』(JICC出版局、当時)も、当時としては極めて珍しい事例です。迷宮に挑戦した若者たちがかつて悲劇を経験した大人たちに導かれて成長し、やがて自らの力で歩み始める物語は、ゲームの中では文字と数字で構成されていたはずのキャラクターが、人として生きている存在であることを克明に描き出していたのです。
それまでも「月刊コロコロコミック」(小学館)で連載された『ファミコンロッキー』(あさいもとゆき)のように、ゲームを題材としたマンガはありましたが、ゲームの世界観そのものを膨らませた作品となると、この両作品が最初期のものとなるでしょう。
その後、1990年には久美沙織氏の小説『ドラゴンクエスト 精霊ルビス伝説』(エニックス、現スクウェア・エニックス)が登場し、ゲームのノベライズは確固たる流れとして定着します。
マンガについてもやはり1990年にエニックス(当時)から「4コママンガ劇場」シリーズの刊行が始まり、シリーズの代表作である『ドラゴンクエスト 4コママンガ劇場』は特に大きな人気を獲得し、『南国少年パプワくん』の柴田亜美氏や『魔法陣グルグル』の衛藤ヒロユキ氏など後の有名作家を輩出するようになりました。
■いまなお続く『ウィザードリィ』の新たなメディア展開
リイド社ボーダーコミックス『魔境斬刻録 隣り合わせの灰と青春』第1巻 書影
1990年代に入ると、ファミコン情報誌などでゲーム原作の漫画が連載されるのは、ごく当たり前の状況となりました。
「ゲームのメディアミックス化」としては、たとえば1987年時点でも『アテナ』(SNK、当時)の付録として主題歌のカセットテープが同梱されるなど、多方面でさまざまな形の試行錯誤が繰り返されていたため、大きな流れは変わらなかったかもしれません。しかし「ゲーム原作の漫画や小説が成立する」ことを証明した『ウィザードリィ』の展開は、先駆者として大きな影響を与えたのではないでしょうか。
その『ウィザードリィ』は、実は近年、次々と新たな展開がなされています。
『隣り合わせの灰と青春』は2023年10月現在、『魔境斬刻録 隣り合わせの灰と青春』(原作:ベニー松山 /漫画:稲田晃司)とのタイトルでコミカライズされ、マンガ配信サイト「コミックボーダー」(リイド社)で連載されており、2023年10月25日(水)に単行本第1巻が発売される予定です。権利関係の問題で魔法の名前が変更されているものの、ストーリーは踏襲されており、かつて頭の中で光景を想像していた物語を絵で楽しむことができるようになっています。かつてのファンならば押さえておきたい作品でしょう。
また、新作小説として『ブレイド&バスタード』(著:蝸牛くも/イラスト:so-bin/ドリコム「DREノベルス」刊)も登場しており、2023年10月現在では第2巻まで発売されています。楓月誠氏によるコミカライズも、ドリコムのマンガ配信サイト「DREコミックス」で連載されています。10月から12月にかけて単行本も発売される予定なので、興味のある方は購入してみてはいかがでしょうか。
現在アーリィアクセスが行われているSteam版(PC用)ゲーム『ウィザードリィ外伝 五つの試練』(イード)も、2023年10月26日(木)の正式リリースが予告されています。
『ウィザードリィ』は令和の世になっても、まだまだ楽しませてくれそうです。
(早川清一朗)
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