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プロデューサーの逆鱗に触れてクビ? 『サザエさん』「三谷幸喜脚本」回はどんな話?

マグミクス / 2023年10月29日 18時40分

プロデューサーの逆鱗に触れてクビ? 『サザエさん』「三谷幸喜脚本」回はどんな話?

■ゴミ箱に投げ捨てられた三谷脚本

 大河ドラマ『鎌倉殿の13人』や『警部補・古畑任三郎』シリーズをはじめ、数々の作品を手掛け日本を代表する脚本家として知られる三谷幸喜さんは、若かりし頃に国民的人気アニメ『サザエさん』の脚本も書いたことがあります。

『サザエさん』に関するエピソードは三谷さんご本人もテレビやラジオなどで語っているので、ご存知の方も多いでしょう。『サザエさん』公式サイトにある「サザエさん50年の歴史」にも、三谷さんがシナリオを4本執筆したことが明記されています。

 三谷さんが執筆したのは、「ワカメの大変身」(1985年4月7日放送)、「波平つり指南」(同8月4日)、「妹思い、兄思い」(同8月11日)、「タラちゃん成長期」(同8月18日)の4本です。かなり短いスパンで書いていることが分かります。

 公式サイトには「4本」と記されていますが、このうち「タラちゃん成長期」はボツになったことが三谷さん本人から語られていました。

「僕が書いた4本中、3本は作品になってオンエアされたけど、最後の1本は、タラちゃんが筋肉増強剤を使用して筋肉モリモリになってオリンピックに出る、という話。『タラちゃん成長期』ってタイトルだけど、それがプロデューサーの逆鱗に触れて、僕の目の前で台本をバシッ!とゴミ箱に投げ捨てられました。「君は『サザエさん』」の心がわかってない! もう来なくていい」と。ラストはタラちゃんが見た“夢オチ”にしたんですけど……」(『三谷幸喜 創作を語る』講談社)

 ただし、「タラちゃん成長期」は放送されているので、大幅に書き直されて制作されたのでしょう。三谷バージョンを見てみたいものです。

 84年に大学を卒業した三谷さんでしたが、在学中に立ち上げた劇団「東京サンシャインボーイズ」がなかなか軌道に乗らず、バラエティ番組の放送作家や、「コント山口君と竹田君」のコント作家などをしていました。

 一方、『サザエさん』は85年3月に広告代理店の宣弘社が撤退、放送開始時からのプロデューサーだった松本美樹さんが降板するのと同時に、それまでのメインライターだった辻真先さん、城山昇さん、雪室俊一さんも一斉に降板します(後にそれぞれ復帰)。

 レギュラーだったノリスケ一家、お隣の浜さん一家、三河屋の三平さんが姿を消したのもこの時期です(ノリスケ一家は後に復帰)。85年には、多くの脚本家が『サザエさん』に投入されました。三谷さんもそのひとりだったというわけです。

■「妹思い、兄思い」は実は異色回?

『アニメサザエさん公式大図鑑 サザエでございま~す!』(扶桑社)

 三谷さんが執筆した作品のなかでは、「妹思い、兄思い」が2010年に再放送されています。いったいどのような作品だったのでしょうか。

 ある夏の日、カツオと中島が友達の橋本くんをプールに誘いますが、橋本くんは妹の面倒を見なければいけないため来ることができません。「橋本って妹思いだなぁ」と、カツオは素直に感心します。そこへカオリちゃん、早川さん、花沢さんがやってきて、カツオと中島、橋本をハイキングに誘いました。カツオたちは大喜びで約束します。

 一方、家ではフネとサザエが立て続けに風邪を引き、熱を出して寝込んでしまいました。カツオが浮かない顔をしているので波平が理由を聞くと、カツオは「母さんたちが寝てるのに、僕だけ遊びに行くわけには……」と言います。波平とマスオは優しくカツオにハイキングに行くよう促しますが、お弁当を作る人がいません。そこで手を挙げたのがワカメでした。

 翌朝、ワカメは4時30分(!)に起きて、お弁当を作り始めます。微笑みながらおにぎりを握るワカメを、気になって早起きした波平とマスオが見守っていました。「お兄ちゃん 気をつけて行ってきてね」というワカメの手紙を見たカツオは、家を出ると帽子を取って「ありがとう、ワカメ」と一礼。お弁当を持って、喜び勇んでハイキングに出かけます。

 ハイキングを満喫するカツオたちでしたが、お昼はカオリちゃんたちがみんなの分まで作った豪華なお弁当が出されました。男たち3人はなんとか完食しますが、持ってきたお弁当は手つかずのままです。「うちに持って帰って謝るよ」と苦笑いする中島くんですが、カツオは困り顔。お弁当を手つかずのまま持って帰ったら、ワカメが泣いてしまうんじゃないかとカツオは想像します。

 夜8時になっても家に帰らないカツオを波平たちは心配しますが、カツオは近所の公園でワカメのお弁当を食べていました。心配顔のワカメと、「ワカメ、ごちそうさま」と言うカツオの笑顔でこのエピソードは終わります。

 兄のためにお弁当を作るワカメ、妹のためにお弁当を残さず食べるカツオはもちろん、子供たちを優しく見守る波平とマスオをはじめ、登場人物全員の優しさが印象に残るエピソードです。誰も怒ったり泣いたりせず、ギャグらしいギャグも皆無なので、ある意味、珍しいエピソードかもしれません。とてもいい話なのですが、三谷さんの持ち味が出ているとは言えない回です。

「タラちゃん成長期」でプロデューサーの逆鱗に触れて『サザエさん』をクビになった三谷さんですが、後にカムバックを遂げています。それが、94年に上演された『音楽劇 サザエさん』です。榊原郁恵さんがサザエ、久本雅美さんがカツオを演じた舞台で、三谷さんは脚本のほか、劇中歌すべての作詞を手がけました。メインテーマ「歩いて帰ろう」は、松任谷由実さん作曲という豪華版です。また、2010年に放送された観月ありささん主演のドラマ『サザエさん』では、三谷さんが伊佐坂難物を演じています。

 一度はクビになった三谷さんですが、結果的に非常に『サザエさん』と深い縁で結びついていたことになります。後に三谷さんは自作の『鎌倉殿の13人』について、「サザエ(政子)とカツオ(義時)が手を組んで、マスオ(頼朝)の死後に、波平(初代執権・時政)を磯野家から追い出す。しかも義時はタラちゃん(3代将軍・源実朝)を滅ぼしてしまう。フグ田(源)家が滅亡して、磯野(北条)家の鎌倉時代ができるというすごいドラマ」と説明していました(朝日新聞デジタル 2020年1月8日)。

 きっと三谷さんは『サザエさん』への思い入れが深いのでしょう。ぜひまた、『サザエさん』本編の脚本を書いてもらいたいものです。

(大山くまお)

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