『銀河漂流バイファム』放送から40年 打ち切りを回避した「意外な要因」とは?
マグミクス / 2023年10月25日 7時10分
■派手なメカアクションよりも印象的だった人間ドラマ
今年2023年は、1983年に『銀河漂流バイファム』が放送開始してから40年の節目にあたります。ロボットアニメが隆盛を極めた時期に製作されながらも、他のロボットアニメ作品とは一線を画していた本作について振り返ってみましょう。
1983年10月21日に放送開始した『バイファム』は、「バンダイ」からの打診で「日本サンライズ」が企画したロボットアニメです。バンダイをメインスポンサーとする作品はサンライズとしては初めてで、これまでにない番組枠の開拓という意味合いもあったそうです。
同作の「原案」に富野由悠季さんの名前があるのは、あの『機動戦士ガンダム』の監督というネームバリューを利用する意図からでした。実際、この当時の富野さんは『聖戦士ダンバイン』の総監督をしていたのですから、本作に関わる余裕はなかったでしょう。
そこで監督となったのが、原作にもクレジットされている神田武幸監督です。前年には『太陽の牙ダグラム』を高橋良輔さんと一緒に監督していました。ちなみに高橋さんは、この時期は後番組『装甲騎兵ボトムズ』の監督をしています。こういった事情から、本作のクレジットでは「原案」と「原作」という、違いの分かりにくい形になりました。
物語は冒険小説『十五少年漂流記』がベースとなっています。これはバンダイ側からの「次のガンダムになるような作品を作ってほしい」という要望があったからとも言われています。もっとも『十五少年漂流記』をベースにしたサンライズ作品は多く、『蒼き流星SPTレイズナー』(1985年)や『無限のリヴァイアス』(1999年)など、影響下にある作品は他にもありました。
しかし、そのなかでも『バイファム』はもっとも『十五少年漂流記』のドラマを色濃く受け継いだ作品と言えるかもしれません。なぜなら本作はロボットアニメでありながら、巨大ロボットに対するヒーロー性は薄く、あくまでも子供たちのサバイバルに焦点を当てているからです。
この点は、初期の展開を見ると一目瞭然でした。なにしろ主役メカであるバイファムは量産機です。それゆえに1話で撃墜されたカットがあります。そして主人公となるロディ・シャッフルがバイファムに乗るのは数話先の話でした。
こんな風に書くと、メカを商品として売るスポンサーが困りそうな展開ですが、本作のセールスは好調だったそうです。メイン商品であるプラモデルの実績は黒字でした。もっとも味方側メカだけが売れて、敵側メカの在庫はかなりありました。そのため、敵側メカの多くは商品化されていません。
これは、本作の人気はメカというよりもレギュラーとなる13人の少年少女たちキャラクターによるところが多かったことが一因でしょう。何せ敵側のククトニアンは当初はアストロゲーターと呼ばれる謎の異星人で、あえて敵側のドラマを描かない構成となっていました。
それゆえキャラ人気は当時として大ヒットしたと言えるほど高いものだったと思います。アニメ雑誌ではたびたび表紙を飾り、その誌面では大きく扱われることもよくありました。ムック本も各社から出版され、主題歌やサウンドトラックは好調なセールスを記録しています。
ちなみに主題歌『HELLO, VIFAM』は、当時としては異例の歌詞がすべて英語の曲でした。当時は今ほどカラオケがポピュラーでなかったため、アニメファンが集まると大合唱になることが多かったのですが、本曲は「すべて歌詞が英語だから歌えない」と、よくネタにされていたことを記憶しています。
■強力な「裏番組」に苦戦するも、意外な要因で「打ち切り」回避
登場メカよりも主要人物である少年たちを大きく描いている、「銀河漂流バイファム DVD-BOX 2」(タキ・コーポレーション)
当時は大ヒットした作品でしたが、後年での評価はそれほどでもありません。それはどうしてでしょうか?
本作を語るうえでよく言われることが、視聴率が低くて時間帯を飛ばされた作品。……そういったレッテル付けで語られることが多くあります。これに関しては、実際その通りでした。なぜならば、ほとんどの放送局の裏番組が人気絶頂期の『ドラえもん』だったからです。それでも7%ほどの視聴率がありました。
逆を言えば、本作で『ドラえもん』の牙城を切り崩したいというTV局の意図があったのでしょう。当時のアニメ雑誌での扱いから紐解けば、アニメファンの多くは『バイファム』を視聴しているように思えるので、この試み自体は成功しているのでしょう。つまりアニメファンとファミリー層の数の多さが、そのまま結果に出たと考えれば納得です。
そういった経緯から、局側は2クールでの打ち切りを通達しました。しかし、スポンサーであるバンダイはプラモのセールスが不調ではなかったことから4クールを望んでいたそうです。
この時、サンライズは打ち切り用と4クール用、ふたつのシナリオを用意しました。ここで契機となったのがファン活動です。打ち切りのうわさを聞いたファンが署名活動を展開し、TV局に提出しました。こういったファン活動が実を結んだのか、本作の2クール打ち切りは回避されます。
こうして時間枠を移動して放送が続くことになりましたが、前半の作風から若干の修正が加えられることになりました。簡単に言えば、従来のロボットアニメ路線への角度修正です。味方側のメカのパワーアップ、敵側にライバル的キャラを置くなどのテコ入れでした。
しかし、それでも本作の魅力であった13人の少年少女の物語という部分はブレることなく貫いています。脚本家から低視聴率へのテコ入れで子供たちに死亡者が出るという従来のロボットアニメでありがちな展開を提案されたそうですが、神田監督は最後まで子供たちを生きのびさせることを決定しました。
その結果、従来なら殺伐とした展開が多かったロボットアニメにあって、異色作とも言うべき作風を貫いて、大団円で最終回を迎えることになります。最終回を迎えても人気が急速に衰えることなく、翌1984年にはサンライズ初となる続編のOVA作品がリリースされました。
1998年には外伝となる『銀河漂流バイファム13』が制作されています。この外伝は旧作内の第23話から第26話の中間エピソードに該当する話で、ふたたびTVシリーズをこういった形で制作するのは異例なこと。キャラのその後ではなく、当時のキャラをもう一度見せるという展開は、キャラ人気の高かった本作ならではの続編でしょう。
ロボットアニメでありながら、巨大ロボの魅力よりも少年少女のドラマに注力した『バイファム』は、ロボットアニメが全盛だった時期だからこそ、それとは違うものを模索した結果、生まれた名作だったと思います。
(加々美利治)
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