存在感がますます高まる「TVアニメ」 ネット配信が全盛でも「放送枠」が増加するワケ
マグミクス / 2023年10月27日 7時10分
![存在感がますます高まる「TVアニメ」 ネット配信が全盛でも「放送枠」が増加するワケ](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_191671_0-small.jpg)
■日テレ、フジテレビが新たな「アニメ枠」を新設
近年、アニメの存在感は際立つものがあります。10月にスタートした『葬送のフリーレン』は日本テレビが31年ぶりに新設したアニメ枠「FRIDAY ANIME NIGHT」で放送されており、1話は金曜ロードショーの枠が使われたことも話題となりました。
また、フジテレビも中国の動画配信サービス「bilibili(ビリビリ)」とパートナーシップを結び、新たな深夜アニメ枠「B8station(ビーハチステーション)」を新設しています。
フジテレビの決断に驚かされるのは、既に「ノイタミナ」「+Ultra(プラスウルトラ)」という、ふたつの深夜枠がすでにあるにもかかわらず、さらに枠を追加した点にあります。中国市場を重視した決断なのは明白ですが、それだけTV局がアニメを重要なコンテンツとして認識していることが証明されたと言えるでしょう。
それにしても、アニメの配信視聴が幅広く楽しまれるようになった今の時代に、なぜTV局はアニメの放送枠を拡大するのでしょうか。
ひとつには単純にアニメの影響力が非常に強くなったことが挙げられます。近年でも『鬼滅の刃』が大ヒットして社会現象となり、劇場版『鬼滅の刃 無限列車編』は国内での興収が400億円を突破するなど圧倒的な数字を残しています。2022年は『ONE PIECE FILM RED』『劇場版 呪術廻戦 0』『すずめの戸締まり』と、3つの劇場作品が興収100億円を突破し、『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』も97.8億円とあと一歩のところまで迫りました。
しかし、「新海誠」「宮崎駿」といった、名前だけで多くの観客が劇場に足を運ぶほどのクリエイターは少ないため、多くの劇場アニメはTVアニメ化され人気を獲得した作品のなかから制作されることが多くなっています。TV局がヒット作の恩恵にあずかるには、「自社が関わる枠」、すなわち作品数を増やす選択が重要となっているのではないでしょうか。
また、アニメ作品が「独占配信」されるケースでは、なかなか作品が話題になりにくいという現象もたびたび起きています。作品のヒットを狙うコンテンツホルダーにとっても、同じ時間に多くの人が視聴し、SNSで話題が盛り上がるという点で、TV放送は重要な存在となっています。
■音楽産業までも活性化させる(?)計り知れない可能性
YOASOBIが歌う、TVアニメ「【推しの子】」主題歌「アイドル」は、国内のみならず世界的なヒットとなった
また、近年は邦楽のヒット作の多くがアニメの主題歌から生まれています。2022年には『ONE PIECE FILM RED』の主題歌「新時代」がApple Musicで日本の楽曲として初めてデイリーチャート「トップ100:グローバル」の1位を獲得。2023年に入ってからも『推しの子』の主題歌「アイドル」がYouTubeの世界楽曲チャートであるmusic charts TOP 100 songs Globalで世界1位を獲得するなど、邦楽のヒットという点でも、アニメは大きな影響力を持つ存在となりました。
思えば、1970年代から1980年代にかけては多くのアニメ作品が「本放送」と「再放送」で公開され、子供たちはTVの前に釘づけになりました。しかし1990年代に入ると徐々に夕方や夜の放送枠が減少し、家庭用ゲーム機の普及もあって、子供たちがアニメを見る機会は徐々に減っていきました。近年のTVでのアニメ放送枠の拡大は、「子供たちにTVを見る習慣をつけて欲しい」という目論見もあるのかもしれません。
かつてはスポンサー商品やおもちゃを売るCMを見せることでビジネスが成立していたTVアニメは、1995年の『新世紀エヴァンゲリオン』の登場により、映像とキャラクターの商品化により利益をあげられることが示され、DVDの販売や関連グッズの販売へと大きな方向転換が行われました。今では海外への配信を中心としてアニメーション関連の事業規模は年々拡大を続けており、日本の主力産業のひとつとみなされるようにもなっています。TV局が海外市場の開拓を見据えるのであれば、アニメは有力な選択肢のひとつとなるでしょう。
しかしながら、日本のアニメ産業はクリエイターへの利益配分の少なさや、そもそもの人員不足など、多くの問題をはらんでいるのも事実です。それでもなお、TVアニメが「子供向け番組」として低い扱いを受けていた時代を知る者としては、現在ははるかに前向きな側面が見えてきていると断言できます。
アニメ産業に関わる人びとが、それぞれの立場でできることをやり続けてきた結果、アニメは今のような重要な存在へと変化してきました。ならばこれからも、アニメに携わる人びとが話し合いや行動を続けて問題を解決していき、少しずつ状況を変えていくことが、アニメの存在感をより加速させていくことにつながるのではないでしょうか。
(早川清一朗)
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