『ダンバイン』テコ入れで生まれた名エピソード「東京上空」 自衛隊も全面協力?
マグミクス / 2023年10月28日 6時10分
![『ダンバイン』テコ入れで生まれた名エピソード「東京上空」 自衛隊も全面協力?](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_191714_0-small.jpg)
■名エピソード誕生秘話
早いもので、私が文芸や設定制作を担当した『聖戦士ダンバイン』も、早くも四十周年。サンライズ(現バンダイナムコフィルムワークス)も、渋谷で記念イベントを開くなど、40年を経た今になっても、そんな話題がいただけることに感謝するばかりです。
ファンのみなさんの間には「ダンバインならここが好き」というポイントがそれぞれあるでしょうが、自分のなかで思い出深く、また、ひとつのターニングポイントになったな、と思うのは、ダンバインたちオーラバトラーが、バイストン・ウェルというファンタジー世界から、現実の東京の街に現れる話です。
実際の物語は、本編を見てくださいと申し上げておきますが、そもそも、ファンタジー仕立ての物語であったはずなのに、どうして現実世界をも巻き込むという展開になったのでしょう。
『ダンバイン』では、まず基本の物語の流れは、「プロット」と呼ぶ一種のアイデアのような数行の文章を富野監督が書きます。そして、実際にシナリオを担当する脚本家さんたちは、それを基本において、自分自身のアイデアと物語運びで物語を紡いでくださいます。
では、どうして富野監督がプロットを書くかというと、それは必ずしも、自分の思った物語を脚本家に書かせたいからなのではなく、当時のサンライズの監督というのは、作品内容だけでなく、外部、たとえばスポンサーや代理店、テレビ局などから出てくる要望や疑問にも、なにがしかの対処をしなくてはならないという宿命があったからでもあります。
『ダンバイン』は、それまでのTVアニメ、特に「ロボットもの」と言われるジャンルでは行われていなかった新たな試みや革新的なチャレンジをしていますが、そのために、視聴者の理解、特に、人気と直結する商品の売り上げにはなかなか繋がらないという側面をもっていました。
それをなんとかしようと富野監督は、ある日、こういう意味のことを言います。
「実物をらしく作るのがプラモデルの基本。でもオーラバトラーはバイストン・ウェルという架空世界にあるので、すごさや実在感が伝わり難いんじゃないか。一度現実世界に出せば、対比ですごさを実感させられるかもしれない」
ということは、描く現実世界は出来るだけリアルであるべきだろうと我々は考えました。もし、本当にオーラバトラーが東京の街に現れたらどうなるのか……。もちろん人々は驚くだろうし、壊れる建物も出てくる。警察は大慌てだろうし、空を飛ぶオーラバトラー相手となれば自衛隊も動くだろう……。
そこで、航空自衛隊の某基地の広報に電話で理由を説明し、取材を申し込むと快諾をいただきました。
■自衛隊への取材、驚きの事実も?
「ROBOT魂 聖戦士ダンバイン [SIDE AB]ダンバイン」(BANDAI SPIRITS)
基地のゲートには、当然ながら受付と警備のための自衛官がいるのですが、こちらが「取材を申し込んだサンライズですが」と伝えると目を丸くされ「あの、ガンダムのサンライズさんですか!?」。そうです。実は当時の自衛隊のなかでも、サンライズ作品は有名だったようで、なんでも、陸上自衛隊内で演習をやるときには、各部隊に「ガンダム隊」とか「ザク隊」とか、そういう仮称を付けていた……なんて話も、ホントなのか嘘なのか定かではありませんが、聞いたことがあります。
取材の相手をしてくださった広報官も兼ねておいでの二等空佐殿は、普段はファントムに乗っているとのことで、思わず目をハート型にしつつ、大まかに基地内の案内と、不測の事態が起こったときの自衛隊の立ち位置や行動などをお教えいただきました。
また、その後、世界各地が戦いに巻き込まれてゆく流れの時には、当時は市ヶ谷にあった海上自衛隊の本部にも取材に伺い、資料をいただいたりしましたが、番組の紹介もかねて、番組宣伝用のポスターをお持ちしたところ、あっという間に通りかかった自衛官さんたちの人だかりが出来ました。
「これ、見ていますよ」
「わー、カッコいいですね!」
「私も欲しいです~」
思わず、自衛官も人の子なんだなあ……と口元がゆるんでしまうような歓迎ぶりでした。
しかし、そうしたおかげもあって、当時のTVアニメにしては、そこそこリアルな「非常時」が画面にも反映できたのではないかと思いますし、制作側のもくろみがどこまで成功したかは解りませんが、こうして今もファンの方々に評価をいただける作品になる一端を担えたことは確かでしょう。
ある時、ご報告にと、相手をしてくださった二等空佐殿に電話をしたところ「ああ、○○空佐は、今、飛んでまして」と言われ、またまた脳内にハート型が飛び交ったことは、今も楽しい思い出です。
【著者プロフィール】
風間洋(河原よしえ)
1975年よりアニメ制作会社サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)の『勇者ライディーン』(東北新社)制作スタジオに学生バイトで所属。卒業後、正規スタッフとして『無敵超人ザンボット3』等の設定助手、『最強ロボ ダイオージャ』『戦闘メカ ザブングル』『聖戦士ダンバイン』『巨神ゴーグ』等の文芸設定制作、『重戦機エルガイム』では「河原よしえ」名で脚本参加。『機甲戦記ドラグナー』『魔神英雄伝ワタル』『鎧伝 サムライトルーパー』等々の企画開発等に携わる。1989年より著述家として独立。同社作品のノベライズ、オリジナル小説、脚本、ムック関係やコラム等も手掛けている。
(風間洋(河原よしえ))
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