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アニメーターの二次創作は著作権侵害? 漫画家の苦言で議論勃発…アニメ業界の版権事情

マグミクス / 2023年10月30日 17時10分

アニメーターの二次創作は著作権侵害? 漫画家の苦言で議論勃発…アニメ業界の版権事情

■複雑なアニメの著作権

 先日、漫画家とアニメーターの権利を巡る議論が巻き起こっていました。

 とある有名漫画家が、海外のファンから自身の作品のコレクションを撮影した写真を見せられ、そのなかにご本人のものではないキャラクターイラスト色紙を発見。それはかつて、当該作品のアニメ制作に関わったアニメーターが描いたもので、サインもそのアニメーターのサインが入っていたと言います。

 それを「絵描きのルール」に反するとX(旧:Twitter)に投稿。SNSではさまざまな立場から意見が噴出。アニメに参加したアニメーターは、自分が手掛けたアニメ作品の絵を描いてファンにプレゼント(有償か無償かは第三者からわからないのでここでは問わないことにします。本当は重要な論点ですが)してはいけないのか、これを取り締まると二次創作にも影響するのではないか、一方で、漫画家が自身の作品とキャラクターの権利を主張するのは当然だなど、大きな議論となっています。

 漫画家ご本人は、(発言は)該当するアニメーター個人に向けてのものだとしており、後日、当事者同士での話し合いで謝罪もあったようで、この件そのものは落着していると言えます。とはいえ、日本のマンガ・アニメとその周辺に拡がる二次創作含めた創作文化に少なからず波及効果のある発言となりました。

 この議論を整理して、何が課題であるのかを確認してみたいと思います。

●アニメーターに著作権がない理由

 まず漫画家がキャラクターに関する権利を主張されたことは、法的には正しいことです。マンガの著作権は作家個人が所有するものであり、他人が許諾なく描いて公表していいものではありません。

 では、アニメの著作権はどうなっているのでしょう。アニメは映像作品であり、個人で作られることは稀です。そのため著作権法でも特殊な扱いとなっています。具体的には著作権法16条で、「小説、脚本、音楽その他の著作物の著作者を除き、制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする」と規定されています。この規定に沿うと、監督、キャラクターデザイナー、美術監督、撮影監督などがアニメ作品の著作者となると思われます。

 ただ、16条には「ただし、前条の規定の適用がある場合は、この限りではない」ともあります。これは15条「職務上作成する著作物の著作者」を指していて、これは法人が企画して作られる映像作品に職務で参加した場合、16条で定める人たちではなく法人が著作者となることを定めています。この条文の適用によって多くの実写映画もアニメも、参加スタッフには著作権がなく、お金を出した会社が権利を持つことがほとんどです。

 なので、アニメの著作権は、原画を描くアニメーターどころか監督も持っていないことがあります。これは実写映画も同様です。

 ちなみに、会社が著作権を持つことは必ずしも悪いことばかりではありません。基本的に著作権の運用は権利を持つ全員の許諾が必要となるため、スタッフが著作権を所有している場合、その全員がOKを出さないと権利の運用ができなくなります。スピーディな意思決定ができなくなるので、結局ビジネスチャンスを逃してみんなが損をするということもあります。

 そして、マンガや小説などを原作とするアニメの場合、原作者はどんな権利を持つかというと、これは27条と28条で規定されていて、原作者はアニメ制作を許諾するのみならず、そのアニメ作品についても、アニメの著作者と同一の権利を有するとなっています。原作者は極めて強い権利を有しているわけですね(実際には出版社がその権利を運用している場合が多いと思われますが、これは漫画家と出版社の契約内容にもよるので、今回は割愛)。

 なので、原作者の漫画家がサイン色紙ひとつに対しても自己の権利を主張するのは、法的には正当なものです。権利を持たないアニメーターが、契約上の職務外でキャラクターの絵を描いてはいけないのは、著作権の観点からは正しいと言えます(該当のサイン色紙は海外のコンベンションなどで描かれた可能性が指摘されていて、それが職務の範囲だったかどうかは第三者からはわからないので、その可能性は今回追求しません)。

※参照:アニメの著作権 https://jpaa-patent.info/patents_files_old/200808/jpaapatent200808_011-047.pdf

■なぜアニメーターは傷ついているのか?

 では、原作者が法的に正しいことを言ったのに、どうして議論となったのでしょうか。

 アニメ関係者から「非常に攻撃的な指摘だ」という言葉があったようですが、少なからずアニメ業界の方が傷ついているのはどうしてか。

 それは簡単にまとめれば、アニメーターもまた、多くの情熱を注いで日々作品作りに貢献していて、原作者ではなくても、自分の関わった作品に誇りも愛着も少なからずある、頑張った結果として海外のファンにも喜んでもらえた、サイン色紙をお願いされて描くのは権利的に不適切だとしても、「これくらいはグレーな対応で許容してほしい」ということだと考えられます。

 当該のサイン色紙が無償か有償かわかりませんが、著作権の項で確認したように原作者の持つ力は、法的にかなり強いです。ご本人は企図していないことは重々承知ですが、どうしても強者が強権を振るったような構図に見えてしまったのでしょう。

 権利のないアニメーターは時に悔しい想いをし、活動も制限されることがあります。アニメーターに著作権がないことの例として、実力あるベテランのアニメーターであっても、自身が関わった作品をインタビューで紹介したり、個展を開催したりするといったことも難しいそうで、「存在が消されるような現状がショック」なんだと訴える方もいるのです(映画予告に「スタッフクレジットない」有名監督が憤慨 アニメ制作現場の本音トーク…「職業を軽視している」の声も: J-CAST ニュース https://www.j-cast.com/2023/08/12466938.html)。

●二次創作文化への波及効果

 同時に、今回の発言は漫画家とアニメーターの権利の問題だけに留まらない部分がありました。権利を持たない人がキャラクターの絵を職務以外で描くというのは、一種の二次創作に近いので、二次創作文化全般への影響も危惧されることになりました。

 そこまで企図しての発言ではなかったはずですが、ご本人の意図にかかわらず現著作者からの指摘は、どうしても二次創作への影響は、副作用として出てしまいます。

 実際にこういうものは完全にシロではなく、いわゆるグレーゾーンになるわけです。法的な著作権の定義にあてはめればアウトだけど、親告罪ゆえに権利者が訴えなければ罪に問われないため、金銭的損害や著しくイメージを損なうと権利者側が判断しない限りは黙認していく。そのグレーさが日本の二次創作文化を支えているという議論は、過去何年にもわたってなされ、例えばTPP加入で著作権の非親告罪化議論でも大きな関心の的となった部分です。

●グローバル社会とSNS文化とグレー対応は相性が良くない

 しかし、現在のグレーな運用を含むバランスのあり方は、現代社会では難しくなってきているのも確かです。

 まず世界的なSNSのシェア文化は、グレーな対応と必ずしも相性が良くないです。二次創作は、権利者の目に触れにくい水面下でこそ許容されてきた面がありますが、SNSはあけすけに表に出してシェアしてしまう文化です。

 さらに社会全体でコンプライアンスが強化される傾向が強まっています。特に企業活動となると、グレーには触れず、法令遵守のゾーンだけで活動せよという企業もたくさんあります。こういう企業にとっては、むしろシロとクロがはっきりしている方が活動しやすいわけです。

 コンプライアンス強化と同時に進行しているのが社会のグローバル化です(このふたつは一体となって進んでいると言えます)。日本では常識的な対応も他国では異なりますし、とりわけSNSには国境がないですから、常識も法律も異なる者同士が交流することになります。

 難しいのは、我々は日本社会に属していながら、同時にグローバル社会に半ば強制的に所属させられている状態にあるということです。今回のケースの場合、海外のコンベンションで絵描きがイラストを描くのは当然の対応だという話も出ていますが(これも海外と日本の法や常識の違いの一例です)、件のファンも原作者のイラストではないことが問題になるとは思っていなかったかもしれません。

 ファンの方のコレクション写真がSNSを通じて届けられたのかどうかわからないですが、グローバルに簡単に誰とでも繋がれシェアできることで、元々個人が所有するだけなら水面下状態だったものが広く周知されてしまうという事態になったわけです。グローバル化とSNS化の合わせ技で起きた事態と言えるでしょうか。

 さらに、ネット社会は「後に残る」ものです。今現在はグレーで許容されても、何年後にクロだと言われるリスクがずっとつきまとうのが実情です。今回のサイン色紙もいつ描かれたものか第三者には確認できませんが、最近じゃない可能性の方が高そうです。

 こういう事例が積み重なると、個人でも「グレーには触れない方がいいかも」と考える人が増加するかもしれない、そうなるとグレーゾーンが広いことがかえって創作活動の委縮につながる恐れもあるかもしれません。

 こうなってくると、むしろ契約によって何が許容されるかのグラデーションをはっきりさせた方が、かえって安心して活動できるかもしれません。実際、タイトルによっては二次創作ガイドラインを作る動きも広がっていますし、アニメの現場でもそうした内容を契約に盛り込んだ経験があると語る方もいらっしゃいました(https://twitter.com/NaoyukiKatoh/status/1714836903906971926。)

 アニメーターにどの程度の権利を認めるのかは、原作者や出版社によってさまざまあって良いと思います。そうした条件も含めてアニメーターは仕事を選ぶようになっていけばいい、ライツの管理は企業にとっても大変なので、外野から言うのは簡単で恐縮ですが、豊かな二次創作を支える契約文化のあり方は今後模索されることになるのではないでしょうか。

(杉本穂高)

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