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なぜ『スパイダーマン』は3人いる? 「大人の事情」をも逆手にとった「大成功」の裏側

マグミクス / 2023年11月3日 21時10分

なぜ『スパイダーマン』は3人いる? 「大人の事情」をも逆手にとった「大成功」の裏側

■ソニーとマーベルの複雑な権利事情が背景に

 2023年11月3日と11月10日に、『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』と『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』が2週続けて『金曜ロードショー』で放送されます。

 この2作は、トム・ホランドが主人公ピーター・パーカー(スパイダーマン)を演じたシリーズの2作目と3作目にあたり、「マルチバース」という平行世界が本格的に描かれます。特に、『ノー・ウェイ・ホーム』では、トム・ホランドの他、旧『スパイダーマン』映画シリーズで登場した、トビー・マグワイアとアンドリュー・ガーフィールドが演じる別の世界のピーター・パーカーも登場することで話題となりました。

 そもそも、スパイダーマンがどうして3人いるのか、不思議に思う人もいるかもしれません。それは、原作コミックにも存在する「マルチバース」という物語構造の魅力であり、同時に『スパイダーマン』の映画をめぐる「複雑な権利問題」という事情もあるのです。その事情を振り返りつつ、本シリーズの魅力に迫ってみたいと思います。

 数多くのスーパーヒーローを抱えるマーベルコミックにおいて、スパイダーマンは特に高い人気を誇ります。映画化された回数も突出していて、2002年に最初の『スパイダーマン(トビー・マグワイア主演)』が公開されてから21年で、10本も制作されているのです(アニメーション映画含む)。これほどのペースで量産されているのは、それだけスパイダーマンというキャラクターが愛されているのはもちろんですが、キャラクターの権利を保有するマーベルと、映画を製作しているソニー・ピクチャーズの間の契約が大きく関わっています。

 今では飛ぶ鳥を落とす勢いのマーベル・エンタテインメントですが、90年代には経営が行き詰まり、1997年には一度経営破綻しています。その後、1999年に企業再生家を迎え入れ再建をするなかでキャラクターIPを生かした事業へと転換をはかり、キャラクターの映画化権を切り売りする戦略を開始します。

 その時、マーベルから『スパイダーマン』の映画化権を買ったのがソニー。ピクチャーズで、2002年の映画『スパイダーマン』が大ヒットを記録します。サム・ライミ監督とトビー・マグワイア主演でシリーズ3作が製作され、いずれも高い興行収入を記録し、内容面でも高い評価を得ました。

 ソニーはこの時、今から考えるとかなりの好条件で映画化権を取得したと言われています。そういう意味ではマーベルはあまりに安売りして儲けるチャンスを逃したとも言えますが、当時は現在ほどスーパーヒーロー映画が大ヒットしていたわけではなく、むしろ2002年の『スパイダーマン』がその後のヒーロー映画のトレンドの礎になったとも言えます。

 実際、この成功を受けて、マーベルは自らスーパーヒーロー映画の製作に乗り出し、大成功を収めるようになったのはご存知の通りです。

 この時、マーベルとソニーの間に交わされた契約には、「5年9か月以内に『スパイダーマン』の新作映画を作らないと、権利がマーベルに戻る」という内容が含まれていました。ソニーとしてはドル箱タイトルを手放したくないため、5年以内に次々と新作を投入する必要があるので、マーク・ウェブ監督、アンドリュー・ガーフィールド主演で新シリーズ『アメイジング・スパイダーマン』を製作します。しかし、興行的に振るわない結果に終わり、本当は3作目も作る予定でしたが、2作で打ち切りとなってしまいました。

 一方その頃、マーベルは2008年の『アイアンマン』から始まった、「マーベル・シネマティック・ユニバース」(MCU)を大々的に展開して大成功を収めていました。

 しかし、最も人気の高いヒーローであるスパイダーマンの映画化権はソニーにあるので、MCU初期にはスパイダーマンを参加させることができませんでした。しかし、ソニーが同シリーズの立て直しを迫られた事情と、MCUにスパイダーマンを参戦させたいマーベル側の思惑が一致し、両社の事業提携によってMCUシリーズの一環として、ジョン・ワッツ監督、トム・ホランド主演で新たに『スパイダーマン』映画が作られることになったのです。

 トム・ホランド主演の『スパイダーマン』シリーズは、MCU参戦効果もあってかシリーズ歴代でも高い興行収入を記録しており、マーベル側にもソニー側にとっても良い結果をもたらしたと言えます。特に3作目『ノー・ウェイ・ホーム』は世界の映画興行収入ランクの歴代トップ10にも入るほどの成績を収めています。

 トム・ホランド主演で4作目のシリーズも計画されていますが、ソニーは今後も『スパイダーマン』映画を作り続けるでしょう。おそらく5年以内ごとに。

 すでにアニメーション映画も2本製作し、こちらも大きな成功を収めていますし、プレイステーション用のゲームも展開しています。『スパイダーマン』はソニーにとって、映画事業のみならずグループ全体で大きな存在になっているので、絶対に同キャラクターに関する権利を死守したいと考えているでしょう。

■「大人の事情」を逆手にとって見事な感動作に

過去の映画に登場した「スパイダーマン」たちも登場する、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』ポスタービジュアル(ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント)

 さて、このように「大人の事情」が垣間見える同シリーズですが、そのことに「萎える」人もいるかもしれません。「純粋にクリエイターの作りたいものではないんじゃないか」とか、「金儲けのためだけにやっているのではないか」とか、そんな風に思われる方もいるでしょう。

 しかし、異なるスパイダーマンが存在するというのは、マーベルシリーズの世界観の根幹をなすマルチバースの概念に基づいています。マルチバースは原作コミックにも存在する要素で、実際に3人どころかもっとたくさんの異なるスパイダーマンが描かれていますから、原作準拠でもあるのです。

 さらに、『スパイダーマン』の大きな特徴は、ティーンエイジャーのヒーローであるということです。これは等身大のティーンの葛藤を描く物語でもあるので、演じる俳優は若い方がいい、だから俳優を交代させながら描いていくのは、その時代ごとのティーンのリアルな実像を捉えていけるという点でメリットもあります。若者に支持され続けるということは、新たなファンを獲得し続けているということであり、こうした戦略でファン層拡大に成功しているとも言えます。

 そして、11月10日放送予定の『ノー・ウェイ・ホーム』では、過去にスパイダーマンを演じた3人の俳優が共演を果たしていますが、複雑な権利関係を背景に増えたスパイダーマンの世界を見事にひとつにまとめ上げ、感動的なストーリーを創出しています。そこには、ビジネス優先な匂いも感じさせず、ファンが見たかったものを見せた上で、作り手が強い意志で『スパイダーマン』の魅力を徹底してこだわって作っていると感じられるものになっています。

 そもそも、世に出る全ての作品には大なり小なり「大人の事情」があり、それを通過しているものです。そういう事情が強く出すぎてしまっている作品は、確かに世の中に存在しますが、今回放送される『スパイダーマン』の2作は、それを見事に乗り越えたと言えるでしょう。

(杉本穂高)

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