ただの「使い回し」じゃなかった? 富野監督も多用…アニメ制作を支えた「バンクシステム」
マグミクス / 2023年11月7日 7時10分
![ただの「使い回し」じゃなかった? 富野監督も多用…アニメ制作を支えた「バンクシステム」](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_193628_0-small.jpg)
■ロボットアニメでよく見た?
日本のアニメーションに興味を持ちの方のなかには「バンク」もしくは「バンクシステム」という言葉をご存じの方もいるかもしれません。
TVアニメーション、特にアナログ時代の作品を見ていると、以前にも同じような画面を見たことがあるなあ……と思ったことがある方は多いでしょう。たとえば、ガンダムがビームライフルを構えて撃つ、ビームサーベルで切りかかる、主人公のアムロがガンダムのコックピット内で、照準用のスコープを顔面に引き寄せる……こんなシーン、よく見かけたのではないでしょうか。
これが、アニメ制作の世界で俗に「バンクカット」と言われるものです。
ざっくりとした説明になりますが、30分番組のTVアニメーションを作る場合、動きを作る「動画」は、おおよそ一話につき3000枚~5000枚が必要です。アナログ時代には、この動画をセルという透明のシートに写し取り、専用の絵の具を筆で一枚一枚塗るという作業が必要でした。
当然ですが、何人ものスタッフがたずさわる作業とはいえ、これが大変な手間であることはお分かりかと思います。つまり、それだけ時間もかかるということです。それを週間ペースで半年なり一年なり作り続けるのがTVアニメーションというわけです。その上、動画にも色塗りにも、一枚いくら、という費用が発生し、それが制作予算をどんどん削ってゆくということになります。
そこで、なんとかこの費用と手間を減らし、時間的なロスも減らせないかということで、日本のTVアニメの草分け、1963年から放送された『鉄腕アトム』の制作中に、原作者で制作プロダクション「虫プロダクション」(当時)の代表でもあった手塚治虫さんが、自ら発案したのが、この「バンクシステム」でした。
バンクはふつう「銀行」のことですよね。お金を預けておくのが銀行。一方、手塚治虫さんが考えたのが、すでに出来上がって使用したセル画や動画などから、再利用出来そうなものを選び出し、保管しておくというシステムです。
たとえば、アトムが空を飛んでいる、道を歩いている、というような場面であれば、以前に作ったものが再利用出来るかもしれません。ただ、それが右から左に飛んでいるのか、別の場所を飛んでいるか、など、必ずしも全く同じとは限りません。しかし透明なセル版に描かれるセルなら、背景を変えたり、動画は同じでも裏側からトレスしたりなどの工夫をすれば、全部を作り直す必要はありません。
手塚治虫さんはとても記憶力がよく、それまでに作った、どの話数のどこに再利用出来るものがあったかを覚えていて、スタッフに再利用指示をしたそうですが、これを誰でもが利用できるよう、分類保管をシステム化したのが「バンクシステム」なのです。
■『ガンダム』富野監督も多用
『無敵超人ザンボット3』DVDメモリアルボックス(バンダイビジュアル)
『ガンダム』を作ったサンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)は、もともと虫プロダクションから独立したスタッフたちが作った制作会社です。たとえば、あの富野由悠季監督も虫プロ出身。バンクの有用性をよく知っている彼は、常にバンクを活用し、制作作業や費用の軽減をはかり、またその活用法が飛び抜けて上手であるというのは、業界内でも有名です。
やがて制作スタジオ側も、監督の要望なども加味して、この作品ではどの場面(厳密には同じではありませんが、現場ではカットと呼びます)がバンクとして利用されるか考えながら、全カットから要不要をより分けて保管し、どんなバンクカットがあるかを表にして演出家等に伝える「バンク係」という専任の担当者をスタジオに置くようになったのです。
また、ロボットの合体シーンなど、毎回確実に使うようなものには「DN(デュープネガ)」と呼ばれる、フィルム(アナログアニメはフィルムに撮影されています)そのものを保存して複製するという手法が使われるのが通例でした。
現代のように、クリックひとつで同じものがいくらでもコピー&ペーストできるわけではないのがアナログアニメの時代です。とにかく手間のかかる製作作業を、いかにして少しでも早く楽に出来るようにするか……それが、私のような世代のスタッフたちが常に直面していた課題でもあったのです。
制作者たちの知恵と工夫から生まれた「バンクシステム」。こんな豆知識を頭の片隅におきながら観賞するアナログ時代のアニメも、また「オツ」かもしれません。
【著者プロフィール】
風間洋(河原よしえ)
1975年よりアニメ制作会社サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)の『勇者ライディーン』(東北新社)制作スタジオに学生バイトで所属。卒業後、正規スタッフとして『無敵超人ザンボット3』等の設定助手、『最強ロボ ダイオージャ』『戦闘メカ ザブングル』『聖戦士ダンバイン』『巨神ゴーグ』等の文芸設定制作、『重戦機エルガイム』では「河原よしえ」名で脚本参加。『機甲戦記ドラグナー』『魔神英雄伝ワタル』『鎧伝 サムライトルーパー』等々の企画開発等に携わる。1989年より著述家として独立。同社作品のノベライズ、オリジナル小説、脚本、ムック関係やコラム等も手掛けている。
(風間洋(河原よしえ))
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