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後追い世代は驚く『トトロ』と『火垂るの墓』の「同時上映」はなぜできた?

マグミクス / 2023年11月10日 18時10分

後追い世代は驚く『トトロ』と『火垂るの墓』の「同時上映」はなぜできた?

■高畑監督も「かわいそう」と語った『トトロ』『火垂るの墓』の同時上映

『となりのトトロ』(監督:宮崎駿)と『火垂るの墓』(監督:高畑 勲)は、ともにジブリ作品を代表する不朽の名作です。1988年に公開されてから現在に至るまで、両作品とも子供たちに大きな衝撃と感動を与え続けています。

 一方、このふたつの作品に関してリアルタイム世代以外からすれば、にわかに信じがたい事実があります。それはこの作品が「同時上映」作品だったということです。

 筆者も平成生まれであり、どちらの作品も幼い頃に視聴し大きな感動を覚えましたが、後年になってこの同時上映の事実を知ったときには下手すれば作品と同レベルの衝撃を受けました。

 何せ『トトロ』に『火垂るの墓』です。ファンタジー映画と戦争映画、味わいが全く違う上に、どちらもハイクオリティな作画が90分近く続く大作アニメーションではないですか。

 書籍『スタジオジブリ物語』(責任編集・鈴木敏夫)によると、この2本立てはスタジオジブリの当時の親会社・徳間書店が『となりのトトロ』の企画を地味だと難色を示した際に、鈴木敏夫プロデューサーが「別作品との2本立て興行であれば、徳間書店幹部を説得できるのではないか」と考えて生まれたものでした。そして、1986年1月から企画が進んでいた『火垂るの墓』との同時上映となったそうです。

 そんな事情で生まれた『となりのトトロ』と『火垂るの墓』の組み合わせですが、これを「同時上映」として立て続けに観るのは、果たしてどんな映画体験なのでしょう。相当な体力が必要だったのではないか。そもそもどちらが「先」だったのか。素朴な疑問が次々と浮かんできます。どうやらその答えは、「同時上映」に関する世代間ギャップのなかにありそうです。

 まず大前提として、上映システムが異なっています。この2作品が公開されていた当時、ほとんどの映画館は「入れ替えなし」でした。今も名画座などではこのシステムを採用しているところがありますが、チケットを購入すればずっと席に居ていいのです。複数のスクリーンを持つシネコン(シネマコンプレックス)が一般的となった今では、一作品の上映ごとにお客さんが全て交代する「入れ替え制」が主流です。

 これを踏まえると、なおさら「同時上映」がもつ意味合いも異なってきます。例えば毎年夏に公開されている劇場版『仮面ライダー/スーパー戦隊』などは一本ごとの上映時間が比較的少なく、合計で劇場映画一本分になるように作られています。

「入れ替え制」以降の世代がもつ「同時上映」のイメージは、おおよそこの時間感覚ではないでしょうか。そして、その感覚をそのまま『となりのトトロ』と『火垂るの墓』の「同時上映」に当て込むと、「そんなことが可能なのか?」となってしまうのです。

 当時の感覚からすれば当然ですが、「入れ替えなし」の場合の同時上映は、同じスクリーンで作品を交互に上映することを指します。したがって前述のような「どっちが先」という概念もありません。その人が映画館に入る時間によって異なります。

 この「『トトロ』『火垂るの墓』どちらが先か」問題については、2016年、長編アニメーション『Long Way North(邦題:ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん)』の上映会にゲストとして登場した高畑勲監督本人が

「あのトトロと同時上映だったんです。どちらを先に観るかという問題。『火垂るの墓』を先に観た人はかわいそうでしたね」

 と、語っています。ジブリ側からしても、相当に攻めた組み合わせだったことがうかがえます。

 制作側もかなり攻めた判断だった2本立てでしたが、実のところ『トトロ』『火垂るの墓』の観客動員数は約80万人と、ジブリ作品のなかでは比較的少数に終わりました(『千と千尋の神隠し』は2300万人超)。そのため、高畑監督のいうような「かわいそう」だった子供は、割と希少な存在だったことが分かります。

 世代によっては耳を疑う、この『となりのトトロ』と『火垂るの墓』の同時上映という事実。そこには映画興行システムの変遷の歴史もまた、含まれているのです。

(片野)

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