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【インタビュー】巨匠・池上遼一氏の画集が刊行「格好のいい男、素晴らしい美女描きたい」

マグミクス / 2019年11月23日 14時30分

【インタビュー】巨匠・池上遼一氏の画集が刊行「格好のいい男、素晴らしい美女描きたい」

■「理想の日本人像」の造形に、ブルース・リーの影響も

 劇画界随一の画力」と名高いマンガ家の池上遼一さんが、50年をこえる画業の集大成となる画集『池上遼一 Art Works 男編&女編』(玄光社)を完成させました。2019年11月30日(土)に全国発売される同画集にも収録されている『クライングフリーマン』(原作/小池一夫)や『サンクチュアリ』(原作/史村 翔)など、自身の作品について語ってもらいました。

* * *

――集大成となる画集『池上遼一 Art Works 男編&女編』は、〈男編〉と〈女編〉の2冊組ですね。

池上遼一さん(以下、敬称略) 僕は「格好のいい男」、「素晴らしい美女」を描きたいと思い、劇画を描き続けてきました。この画集は、僕が今までに描いた作品を〈男編〉と〈女編〉の2冊に分けて掲載し、BOXに収めた特別仕様です。このBOXのデザインには、僕の代表作のひとつ『クライングフリーマン』(原作/小池一夫)の絵が使われています。

 この絵は、キャラクターの顔がよく描けていて、自分でもすごく気に入っているんです。特に、憂いを帯びた女の表情に注目してほしいですね。男の顔もそうです。何か悲しみを抱えている内面が表情に出てこないと、ただ男前というだけではウケないんですよ。

――「格好のいい男」を描くようになったきっかけをお聞かせ下さい。

池上 先日お亡くなりになられましたが、原作者の小池一夫先生との出会いが、僕のターニング・ポイントになりました。『I・餓男(アイウエオボーイ)』から始まって、『傷追い人』、『クライングフリーマン』(以上、原作/小池一夫)など、小池先生には多くの作品の原作をいただきましたが、特に僕の思い出に残っているのが『I・餓男(アイウエオボーイ)』です。

『I・餓男(アイウエオボーイ)』は、今までにないシリアスなストーリーのため、原作どおりに描くためには絵をリアルにしなければなりませんでした。同作の主人公、暮海猛夫(くれみたけお)は、「強い男」でありながら「知的な感じのする男」。僕が描く「いい男」のキャラクターが、自分の中で「決まった」と感じましたね。

 以降、『サンクチュアリ』原作者の史村翔先生をはじめ、さまざまな先生から原作をいただいて「いい男」を描いてきましたが、すべて『I・餓男(アイウエオボーイ)』からの流れだと思います。日本人として海外へ出ても遜色のない「大和の男」を、ずっと描き続けているんです。

――池上遼一さんが描く「いい男」は、男性読者が理想とするたくましい体型です。

池上 僕は、実際にはいないような理想の日本人像を描いています。人体のプロポーション(比率)は、アメリカン・コミックスの巨匠、ニール・アダムスの造形を参考にデフォルメ(誇張)し、そこに日本人らしさをプラスしているのです。ブルース・リーの影響も大きいですね。彼を初めて見た時、「東洋人に、こんな格好いい奴いたのか」という驚きがありました。ただ強いだけではなく、華やかな筋肉美を持つ男を描いています。

――キャラクターの筋肉を描くために、ボディービルダー向けの雑誌や解剖学の本まで読まれたそうですね。

池上 そうですね。でも、筋肉美を誇る男らしいキャラクターであっても、どこかにナイーブさを秘めた男の方が僕の感性に合うようです。『クライングフリーマン』は、殺人後に「涙」を流す暗殺者、フリーマンが主人公。鍛え上げた肉体と、ナイーブな性格というコントラストがいいんです。初めて原作を読んだ時、小池一夫先生のユニークな設定に惹かれました。

 今回の画集のBOXには、ナイフを手にしたフリーマンが描かれています。鋭く光るナイフの描写によって、フリーマンの心象をうまく表現できる。こうした小物の設定まで、小池先生は緻密に考えていらしたんですね。

■社会や時代に抗うような、強い女性に惹かれていた

近松門左衛門の浄瑠璃『心中天の網島』原画。紙屋の治兵衛とその妻/おさん、遊女/小春の三角関係。『池上遼一 Art Works』(玄光社)〈女編〉より (C)池上遼一

――男前のキャラクターの存在を引き立ててくれるのが、美しい女性たちです。可憐な少女から妖艶な大人の女まで、さまざまな女性を描く池上遼一さんは「劇画界一の絵師」と呼ばれています。

池上 実は、僕自身は「絵師」と言われるのはあまり好きではありません。僕が描きたいのは、ストーリーの中で活躍する女性たち。美人画の名手、竹久夢二が描くような、たおやかな女性にはあまり興味がないんです。気性の強い、自意識をしっかり持った女性に惹かれて描いてきました。

 画集の〈女編〉には、近松門左衛門の浄瑠璃『心中天の網島』にインスパイアされて描いた作品が掲載されています。紙屋の治兵衛と遊女/小春は、不義密通の果てに道行になっていきます。ふたりの想いを成就するために、あえて社会に反していく強さがある。愛を貫き通して死んでいくわけですから、それも「女の強さ」だと言えるのではないでしょうか。

――「強い女」といえば、画集の〈女編〉には『修羅雪姫 外伝』のために描かれた原画も収録されています。小池一夫さんが原作を、上村一夫さんが作画を手掛けた劇画の名作を描き継いだ作品です。

池上 上村一夫先生の『修羅雪姫』のキャラクターに憧れて、僕も雪を描きました。舞台は明治時代の日本。生まれながらにして「復讐」という定めを負い、監獄で育った雪。彼女が母の仇を討った「その後」を描いています。

 明治から昭和初期までの時代を振り返ると、世間からは妖婦・毒婦と言われるような「気性の強い女性」が起こした事件が多い。まだ、女性の存在がないがしろにされていた時代ですから、男性社会への抵抗だったのかもしれませんね。こういう劇的な時代を舞台にした、強い女性の物語にも魅力を感じます。

『修羅雪姫 外伝』(原作/小池一夫)原画。明治時代を舞台に、女刺客人/雪が歩む修羅の道を描く。『池上遼一 Art Works』(玄光社)〈女編〉より (C)池上遼一、(C)小池一夫

――最後に、画集の見どころを教えてください。

池上 大型サイズで、全ページカラー印刷の画集です。コミックスではわからない、絵具や墨ベタの濃淡、ペンタッチまで楽しんでいただけます。通常は、製本時に裁断されてしまう塗り足し部分や鉛筆線まで、あえて掲載しているページもあります。

 近年はパソコンでの作画が中心となっている僕ですが、絵具を塗り重ねた風合いはアナログならではの魅力です。デジタルで制作している若い人たちにも、描き方の参考になるのではないでしょうか。ぜひ、画集を楽しんでいただきたいと思います。

※文中一部敬称略
(取材:メモリーバンク)

●『池上遼一 Art Works 男編&女編』(玄光社)
2019年11月30日(土)全国発売予定、東京・銀座 蔦屋書店のみ、11月22日(金)より先行販売。
A4変型判、〈男編〉〈女編〉各144ページ、定価4500円+税
https://www.genkosha.co.jp/gmook/?p=20389

●東京・銀座 蔦屋書店『池上遼一 Art Works 男編&女編』画集刊行記念トークショー&サイン会
2019年11月29日(金) 19:00~21:00、銀座蔦屋書店 BOOK EVENT SPACEにて開催。定員60名。

※イベントの内容は変更になる可能性もあります。詳細は銀座蔦屋書店公式サイトをご確認下さい。
https://store.tsite.jp/ginza/event/humanities/10820-1821101103.html

(メモリーバンク)

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