映画『ミステリと言う勿れ』なぜ大ヒット? 背景に「TV局の事業転換」 ドラマに活路見出す
マグミクス / 2023年11月12日 6時10分
![映画『ミステリと言う勿れ』なぜ大ヒット? 背景に「TV局の事業転換」 ドラマに活路見出す](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_194660_0-small.jpg)
■放送「外」収入を稼げる「アニメ」と「ドラマ」
映画『ミステリと言う勿れ』が大ヒット中です。
2023年9月15日に公開され、11月に入ってもその勢いは衰えず、観客動員数300万人、興収40億円を突破している本作は、田村由美さんの同名マンガを原作にしたテレビドラマの劇場版という位置づけです。テレビドラマ放送時も大きな話題となっており、映画のヒットも有力視されていました。
このヒットは、原作とドラマの内容の面白さは当然の前提として、テレビ局が再び「ドラマの劇場版」に力を入れ始めていることが背景要因となっていると考えられます。それはなぜなのでしょうか?
2023年10月期のテレビアニメは、75本近くあるようです。アニメファンの方々は何を観ようか、正直言って決めきれないと悩んでいるのではないでしょうか。
しかし、増えているのはアニメだけではありません。今期はテレビドラマの放送本数も一週間で50本を超えています。これは再放送を除外した新作だけの数字です。
テレビ局は今、アニメだけではなくドラマにも非常に力を入れているのです。アニメは今、世間で大人気なのでわかりやすいと思いますが、ドラマは昔ほど視聴率が取れているというわけではありません。なぜドラマにも力を入れているのでしょうか。
それは、テレビ局がビジネスモデルの転換を迫られているからです。
テレビの主な収入源はCM枠の販売です。この枠は視聴率によって値段が決まり、「放送収入」と呼ばれています。近年、この放送収入が各局とも右肩下がりです。そのため、放送以外で稼げるコンテンツを作り、「放送外収入」を増やす必要があるのです。
これで白羽の矢が立ったのがアニメとドラマです。アニメは製作委員会に加わりヒットすれば大きな利益還元があり、グローバル市場からも利益を見込めます。今期は『葬送のフリーレン』や『七つの大罪 黙示録の四騎士』が、新たに設けられたアニメ放送枠で放送中です。人気が出れば、劇場版も作って映画館からも利益を出せるでしょう。
そして、ドラマも放送外収入を稼げるコンテンツです。ドラマは「TVer」などの無料配信サービスのキラーコンテンツとなっており、配信からの広告収入が見込め、人気が出ればアニメ同様に劇場版から利益をあげることができます。
実際に、2022年度の在京キー局の決算では、前年比で放送収入は全局マイナスとなっています。しかし、アニメに強いテレビ東京とドラマに強いTBSだけは、放送外収入の増加によって全体ではプラスになっています。
今年は、TBSドラマの劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~』も40億円を突破しており、『ミステリと言う勿れ』とあわせてドラマ発の映画が2本40億円超えの大ヒットを記録しています。これは実写邦画では『キングダム 運命の炎』に続く2と3位の記録です。そのほか、いくつもドラマの劇場版が今年は公開されており、今後もこの傾向は続くと思われます。
■配信とSNSに強い「考察系」ドラマ
原作マンガの最新刊となる『ミステリと言う勿れ』13巻(小学館)
そんなテレビドラマのなかで主流のジャンルのひとつとなりつつあるのが、「考察系」と呼ばれるものです。
物語の中に謎やトリビア的な要素をちりばめ、観た人が作品世界を考察できるようなタイプの作品で、今年の作品で例を出すと、製作費1話1億円の大型ドラマとして話題になった『VIVANT』などが該当します。
こうした作品の特徴は、謎が謎を呼ぶ先読みできない展開にあり、SNSで真相の考察合戦が展開されることにあります。それゆえに、ネットで話題になりやすく、作品の人気を押し上げることにつながっているのです。ある意味で考察系ドラマは、これまで一方通行だったテレビのコンテンツに、インタラクティブな楽しみ方を追加したと言えるかもしれません。
そして、考察系のメリットは配信で視聴数を伸ばしやすい点にもあります。考察のために何度も観る人がいるわけです。近年、見逃し配信の広告取引が好調に成長しているので、テレビ局も配信視聴数を重要視するようになってきていますが、考察系は配信市場でも有意な点があるのです。
『ミステリと言う勿れ』も謎解き要素の多い作品であり、主人公の久能整(くのう・ととのう)も謎の存在です。劇場版で描かれた「広島編」は、そんな久能の出自に関するヒントが出る内容でもあり、それを知りたい観客は劇場にまで足を運んだでしょう。久能についてもっと知りたい人は、原作マンガを購入するでしょうし、テレビドラマか劇場版で続編を作ってほしいと考えるでしょう。考察系には、継続視聴を促しやすいという強みもあると思います。
■キャラ立ちした主人公を菅田将暉が公演
こうした背景要因もあって『ミステリと言う勿れ』は大ヒットを記録していますが、もちろん最も大事なのは作品そのものの魅力です。
本作は、何といっても主人公のキャラクターが立っています。天然パーマでいつもマフラーを巻いている独特の愛嬌ある風貌で、鋭い推理を展開するだけでなく、社会の理不尽を鋭く突く名セリフの数々。いわゆる「キャラ立ち」している存在です。
そのキャラ立ちした主人公を演じる菅田将暉が素晴らしくて、原作の主人公の魅力を生身の身体で自然に引き出す好演を見せています。
本作で描かれる広島編は原作でも人気あるエピソードですが、実写で作られたことで広島の風光明媚なロケが巧みに活かされているのも非常に良いポイントですし、遺産相続から始まる血塗られた一族の因縁も、原作以上におどろおどろしく演出されて強烈な印象を与えています。特に、劇中に出てくる朗読劇『鬼の集い』は、映像と音声がついたことで不気味さが増しています。
そして、事件の解決も見事に感動的です。一本の映画として完成度が高く、その上、ドラマ版を未見の人でも楽しめるように作られています。
おそらく劇場版のヒットで『ミステリと言う勿れ』は、さらに新たなファンを獲得したでしょう。フジテレビとしては継続して展開できるIPを獲得したとも言えるでしょう。本作の続編製作の発表はありませんが、原作エピソードのストックは充分にあるので、可能性は高いのではないかと思います。
(杉本穂高)
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