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『ボトムズ』主人公「キリコ」の名前の元ネタは『ブラック・ジャック』という誤解 ホントの由来は?

マグミクス / 2023年11月23日 7時10分

『ボトムズ』主人公「キリコ」の名前の元ネタは『ブラック・ジャック』という誤解 ホントの由来は?

■キリコの名前の「意外な由来」

 本年が放映から40周年となる『装甲騎兵ボトムズ』。さまざまな記念イベントが開催されるほど、アニメファンだけでなく、立体モデル、メカニック、ミリタリー、SFなど、多様な分野のファンが今でも高い評価をつける作品です。

 ご存じの方は『ボトムズ』と言うと、作品に登場する人型兵器「アーマードトルーパー」通称「AT」を思い浮かべることと思います。確かにこの作品の中核を担うATの人気は、40年経った今でも次々と新たに発売される立体モデルなどでも証明されています。

 とはいえ、当然、登場人物も人気です。キリコ・キュービィーというAT戦闘に特化した主人公には、熱い男性ファンのみならず、実は女性ファンも多いのです。

 このキリコという名前ですが、「手塚治虫の名作マンガ『ブラック・ジャック』に登場するライバル医師「キリコ」が元ネタ」といった噂をしている方々がいるようですね。しかし残念ながらそれは不正解です。『ボトムズ』の生みの親のひとりであり、メインライターでもある鈴木良武さんから直接うかがっていますので、これ以上、正しい答えはないと断言します。

「『ブラック・ジャック』にキリコなんてキャラがいるの?」

 こちらの問いに対して鈴木良武さんの最初の反応はこれでした。鈴木さんは、こちらがお尋ねするまで『ブラック・ジャック』のキリコの存在をご存じではありませんでした。そして、こう答えてくださいました。

「画家のキリコからもらったんです。キュービィーはキュビズムから」

 ジョルジョ・デ・キリコ。シュルレアリスムに多大な影響をもたらしたイタリアの芸術家です。不思議な遠近感の中を輪を転がしている少女の絵「通りの神秘と憂愁」は、多くの方が一度はどこかで見たことのある絵画でしょう。シュルレアリスムは、夢と現実が入り交じった状態、という意味だそうです。

 一方、キュビズムとは、描く対象物を幾何学的図形にしてとらえ表現する美術運動のひとつで、あのピカソなどの特徴的な絵がこれに当たります。

 キリコの名前は意外なところからついていたのです。ではキリコと行動をともにする名脇役、バニラ、ココナ、ゴウトは?

 バニラとココナは明白です。バニラエッセンスとココナッツ。脚本家さんたちが仕事場のように使っている飲食店のメニューがヒントです。

 ただゴウトは未確認。「ゴート羊」もしくは「強盗」かもしれないし、キャラクターの衣装から「コート(上着)」の可能性も?

 気になるのはキリコの恋人フィアナですが、これが謎なのです。それまで「素体」などと呼ばれていた彼女を、キリコは突然「フィアナ!」と呼びます。でもなぜフィアナなのか、実は監督すらも知らないそうです。まさに「謎の美女」といったところです。

 でも、以下は確かな情報です。

『ボトムズ』シリーズが展開される舞台「アストラギウス銀河」の「アストラギウス」。これは、かつてサンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)があった東京都杉並区上井草駅前商店街にあるレストラン「アストラーザ」です。盛りのいいパスタ料理はサンライズズスタッフにも人気で、私もここの「和風スパゲティー」が大好きでした。

「惑星サンサ」は、これまた上井草で脚本家さんたちと監督などが打ち合わせに毎度使っていた小さな喫茶店「サンサン」(残念ながらもうありません)から。ジャングルのような世界が広がる「クメン」はカンボジアの「クメール文明」から。ちょうど映画の『地獄の黙示録』や『ランボー(ONE)』などが映像界を騒がせていた時代だったからです。

■オリジナルアニメのキャラの名前は、どう付けられる?

主人公のキリコが大きく描かれる、「装甲騎兵ボトムズ Blu-ray Perfect Soldier Box」(バンダイナムコアーツ)

 そのほか、登場する異星生物「キモブト」は「ともぶき」というスタッフの名前の入れ替え、「エウノイ」は設定制作担当の「井上」の逆読み、「アセカ」は演出家の「加瀬充子」から。

「なぁんだ」と思われた方も多いでしょう。しかしサンライズアニメに限らず、オリジナル系作品に登場する固有名詞には、たいがい何らかの元ネタがあるものです。特にTVシリーズのアニメは、日常的に星の数ほどの造語命名が必要です。すべてに思い入れやこだわりを持つのは残念ながら無理な話なのです。

 前述の鈴木良武さんや監督の高橋良輔さんもおっしゃっていますが『ボトムズ』は「キリコという若者のリハビリ」を描いた作品です。戦闘マシンのように育った若者が、ひとりの女性に出会い、仲間というものを知り、人としての心を取り戻してゆく……それが『ボトムズ』です。

 幾何学的な無機質の世界から、夢と現実という矛盾を抱えた人間に戻ってゆく主人公。そんな作り手の想いが、あの名前には込められているのかもしれません。

【著者プロフィール】
風間洋(河原よしえ)
1975年よりアニメ制作会社サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)の『勇者ライディーン』(東北新社)制作スタジオに学生バイトで所属。卒業後、正規スタッフとして『無敵超人ザンボット3』等の設定助手、『最強ロボ ダイオージャ』『戦闘メカ ザブングル』『聖戦士ダンバイン』『巨神ゴーグ』等の文芸設定制作、『重戦機エルガイム』では「河原よしえ」名で脚本参加。『機甲戦記ドラグナー』『魔神英雄伝ワタル』『鎧伝 サムライトルーパー』等々の企画開発等に携わる。1989年より著述家として独立。同社作品のノベライズ、オリジナル小説、脚本、ムック関係やコラム等も手掛けている。

(風間洋(河原よしえ))

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