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「覇権アニメ」は意図的に作り出されたもの? 注目すべき「デザインされたヒット」

マグミクス / 2023年11月21日 12時10分

「覇権アニメ」は意図的に作り出されたもの? 注目すべき「デザインされたヒット」

■「覇権作品」が予測しやすくなっている?

 2023年11月、アニメ『進撃の巨人』がフィナーレを迎えました。2009年から「別冊少年マガジン」で連載開始し、2013年の初アニメ化の際には大きな社会的ムーブメントを巻き起こし、以降10年の間に原作全編がアニメ化されるという偉業を成し遂げました。

『進撃の巨人』ほど長期間にわたって人気を集める作品は、「ドラゴンボール」シリーズや『ONE PIECE』など、ごく一部の例外を除けばさほど多くはありません。それでも高い人気を獲得する作品は毎年複数登場しています。

 この2023年も、11月現在放送中の『葬送のフリーレン』や『薬屋のひとりごと』、春先には『【推しの子】』、2022年から引き続き話題を集めた『機動戦士ガンダム 水星の魔女』など、多くのアニメが覇権作品と呼ばれました。

 あまりにも膨大な数のアニメが放送されているなかで、全体的なクオリティも高まっているのは恐ろしさすら感じますが、『進撃の巨人』が最初に放送された10年前と比較すると、近年は人気を獲得する作品を(ある程度ですが)予想できるようになっています。その理由は簡単で、ヒットを期待されている作品の放送前プロモーションが非常に強力になっているからです。

 近年、アニメは海外配信の増加により経済規模が飛躍的に増大し、以前よりも大きな利益をあげるビジネスになりました。その結果、プロモーションも手が込んだものとなっています。

『進撃の巨人』では、最終回放送直前企画としてNHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」で番組史上初となるアニメ主人公へのインタビューとして「エレン・イェーガー スペシャル」が放送され、大きな話題となりました。

『葬送のフリーレン』も、1話が初回2時間スペシャルとして「金曜ロードショー」で放送され、『推しの子』も1話90分拡大版が全国劇場で先行上映されるなど、アニメ放送の新たな形を模索しつつ注目を集める動きが目立っています。

 言ってしまえば、「覇権作品を作り出す」形が出来上がりつつあるのです。

■覇権作品が「生み出される」流れとは?

2022年秋『ぼっち・ざ・ろっく』楽器を始める人が続出 TVアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』ビジュアル (C)はまじあき/芳文社・アニプレックス

 もちろん、覇権作品を作り出すのは口で言うほど楽ではありません。優れた原作やオリジナル企画、力あるアニメ制作スタッフ、熱意あるプロモーター、それにお金といった、貴重な資産や人材を潤沢に注ぎ込む必要があります。簡単に集められるものではありませんし、そこまでしても失敗する可能性が付きまといます。

 しかし、アニメビジネスの拡大を背景に、同様の動きは加速するでしょう。10月末に開催されたアジア最大級の映像コンテンツマーケット「TIFFCOM 2023」で東映アニメーションが開催したセミナーでは、同社の作品群が生み出す市場規模はすでに12兆円規模になるとみられていることが明らかになりました。

 東映アニメーションは『ドラゴンボール』や『ONE PIECE』といった世界規模で人気があるロングヒットコンテンツを抱えており、すでに海外の売り上げが全体の6割に達しているといいます。スタッフをそろえて高いクオリティの作品を生み出し、適切なIP管理を行い、大々的なプロモーションを打つことにより、ヒットを積み重ねる。そうしてあげた利益を原資として、さらに高いクオリティの作品を生み出す流れは、よほどのことがない限り止まることはないでしょう。

 もちろん上記のような「デザインされた大ヒット」作品だけが覇権となるわけではありません。一例を挙げれば、2022年に放送された『ぼっち・ざ・ろっく』は、事前のプロモーションはそれほど強力とは言えませんでしたが、極めて高いクオリティの作品として注目を集め、アメリカのメディア「Anime Trending」の年間最優秀賞であるANIME OF THE YEARを受賞するなど、国内外で高い人気を獲得しました。

 あまりに膨大な作品が送り出され続けている現在、良い作品を作れば必ずヒットする、というような甘い状況ではありません。それでも「デザインされたヒット作」と「自然発生的なヒット作」の双方が共存できている今の状況は、日本アニメの今後を占う上で、維持していかなければいけないものではないでしょうか。

(早川清一朗)

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