宇宙人の声「ワレワレハ…」のルーツ? 50~60年代SF邦画で築かれたそのイメージ
マグミクス / 2019年11月24日 8時30分
■岡本太郎がデザインした宇宙人 『宇宙人東京に現わる』
広大な宇宙にはいまだに多くの謎が存在しています。宇宙の謎のなかでもやはり一番気になるのが、「地球以外の星にも生物が存在するかどうか」ではないでしょうか。我々の宇宙人に対する好奇心を表すように、マンガや小説、『スター・ウォーズ』をはじめとする映画には独創的な宇宙人や宇宙生物が多数登場します。
今回は、日本の特撮作品に登場する宇宙人の基礎となった、2つの映画を紹介します。
最初に紹介したいのが、1956年に大映(現:KADOKAWA)が製作・公開した日本初のカラーSF映画『宇宙人東京に現わる』です。
この映画に登場した宇宙人が“パイラ人”です。彼らの目的は地球侵略ではなく、原水爆実験を繰り返す人類に核兵器廃絶を訴えるというもの。本作は第1作目の『ゴジラ』(1954)と同じメッセージを持った作品なのです。パイラ人の姿はヒトデに似た体に大きな目玉が1つあるというもので、『ゴジラ』などの怪獣と同様に、人が中に入って演じる「ぬいぐるみ」によって表現されました。
このパイラ人のデザイン(「色彩指導」とクレジット)を担当したのが芸術家の岡本太郎氏です。パイラ人の両手を広げた立ち姿はどこか「太陽の塔」に似ていなくもありません。また彼らのトレードマークの大きな目ですが、岡本太郎氏は「目玉」をモチーフにした作品を数多く残しています。シンプルで特異なデザインのパイラ人ですが、やはり岡本太郎氏の芸術作品と共通点があるように思えます。
パイラ人はその姿を地球人に怖がられたため、地球人の美女の姿となり人間社会へ潜入していきます。「姿の異なる宇宙人が地球人の姿に化けて人類の中に入り込む」というシチュエーションは、“ウルトラシリーズ”をはじめ本作以後の特撮作品でも描かれることになります。
■「ワレワレハ宇宙人ダ」の大いなる元ネタ、『地球防衛軍』
『地球防衛軍』メインビジュアルの下側に描かれるヘルメット姿のキャラクターが、宇宙人「ミステリアン」。画像は「地球防衛軍」DVD(東宝)
『宇宙人東京に現わる』の翌年、東宝が製作した映画が『地球防衛軍』(1957年)です。パイラ人が人類に友好的な宇宙人であったのに対し、本作『地球防衛軍』に登場する宇宙人“ミステリアン”は侵略者。またミステリアンはぬいぐるみではなく、顔のほとんどを覆うヘルメットとマントの衣裳によって表現されています。
みなさんが宇宙人のモノマネをする際、のどを震わせながら「ワレワレハ宇宙人ダ……」と言う方が多いのではないでしょうか。落語家の林家木久扇師匠も『笑点』で時おりこの宇宙人のモノマネを披露していますが、これは本作に登場するミステリアンの統領の話し方が元ネタなのです。
劇中でミステリアン統領は「チ・キュ・ウ・ノ・ミ・ナ・サ・ン」と平坦な発音で人類に話しかけます。この声は翻訳機から発せられた音声という設定で、機械を通したように加工されています。さらに翻訳機からの音声とは別に、フランス語とドイツ語、芥川龍之介の短編小説『河童』に登場する河童語を混ぜた“宇宙語”も小さく重ねられており、作品のリアリティを高めます。
ミステリアン統領を演じたのが、東宝特撮映画や黒澤明監督作品の常連キャストとして知られる俳優の土屋嘉男さん。この翻訳機の音声というアイディアも宇宙語も、土屋さんがご自身で考案されたものです。
後に土屋さんは本作での宇宙人演技をさらに発展させ、ゴジラシリーズ第6作目『怪獣大戦争』(1965)で地球侵略を企む宇宙人“X星人”の統制官を演じました。こちらでは「ヤッズマザゥ」などの土屋さんによる宇宙語をよりはっきりと聞き取ることができます。
1960年代に入ると、円谷プロダクションによる“ウルトラシリーズ”の放送が開始されます。宇宙からの侵略者との戦いを中心に描いた『ウルトラセブン』(1967~68年)も製作され、映像作品に登場する宇宙人の姿かたちのバリエーションも広がっていきました。映像作品に登場する宇宙人というと、今日ではバルタン星人などのウルトラシリーズの宇宙人をイメージする方も多いかと思われます。
しかし加工した音声やぬいぐるみを用いるなどの宇宙人の表現方法の原型は、『宇宙人東京に現わる』と『地球防衛軍』の2作品ですでに完成されていたと言えるでしょう。『地球防衛軍』の特技監督を務めた円谷英二さんは円谷プロダクションの創業者。『宇宙人東京に現わる』の特撮を手掛けた的場徹さんもウルトラシリーズのメインスタッフでした。この2作で培われた技術は確実にウルトラシリーズに受け継がれているでしょう。パイラ人とミステリアンは、その後の特撮作品に登場する宇宙人たちの偉大なるパイオニアなのです。
(森谷秀)
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