意外なキャスティングで成功? マンガ原作映画の傑作『シティーハンター』ほか5選
マグミクス / 2019年11月26日 19時40分
■原作からは逸脱、でも憎めない実写映画
北条司氏の人気コミックを実写化したフランス映画『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』が、日本でも2019年11月29日(金)より劇場公開されます。
コメディ映画『世界の果てまでヒャッハー!』(2015年)の監督・脚本・出演を兼ねたフィリップ・ラショーは、小学生のころにフランスでテレビ放映されたアニメ版『シティーハンター』を観て以来の大ファン。原作愛たっぷりにラショーが書き上げた脚本を北条氏が気に入り、実写化が実現したものです。
腕利きの探偵であるリョウ(フィリップ・ラショー)は大の女好き。そんなリョウが秘密裡に開発された特殊な香水によって、まさかの事態に陥ってしまいます。ギャグ要素満載、でも相棒・カオリ(エロディ・フォンタン)との胸アツなエピソードも盛り込まれたフランス実写版は、とても完成度の高いアクションコメディとなっています。
そうなると原作ファンの脳裏に浮かぶのは、もうひとつの実写版。そう、ジャッキー・チェンが主演した香港版『シティーハンター』(1993年)です。ファンの間ではおそらくビミョーな扱いとなっているジャッキー版『シティーハンター』ですが、まだ30代だったジャッキーの軽快なアクションは見応え充分です。
当時18歳だった後藤久美子と『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』(1987年)で人気を博した台湾の美人女優ジョイ・ウォンがダブルヒロインとして、体を張ったアクションを披露し、なかなかの活躍ぶりを見せてくれます。クライマックスではジャッキーが人気格闘ゲーム「ストリート・ファイターII」の人気キャラ・春麗のコスプレ姿で闘うなど、ジャッキーの過剰なサービス精神が発揮された、憎めない(?)作品でした。
ジャッキー版『シティーハンター』のほか、意外なキャスティングだが、独特の味わいのあるマンガ原作の映画5本を紹介したいと思います。
■クールな主人公が、人間味たっぷりのキャラに
『ヒルコ 妖怪ハンター』
ビッグスターによる意外な実写化映画の一番手として挙げたいのが、沢田研二主演のホラー映画『ヒルコ 妖怪ハンター』(1991年)です。カルト的な人気を誇る孤高の漫画家・諸星大二郎の「妖怪ハンター」シリーズを、インディーズ映画『鉄男』(1989年)で国際的に注目を集めていた塚本晋也監督が実写化したものです。
異端の考古学者・稗田礼二郎は原作では非常にクールな主人公ですが、沢田研二は人間味のあるキャラクターとして稗田を演じており、原作ファンに新鮮な印象を与えました。襲い掛かる怪物に対し、稗田はビビりながらも殺虫剤で応戦するなど、コミカルなシーンが盛り込まれています。
奇想に富んだ諸星大二郎のコミックは、やはり「妖怪ハンター」を原作にした阿部寛主演作『奇談』(2005年)、堺雅人が主演した『壁男』(2007年)が実写映画化されています。壮大なスケール感ゆえに実写化が難しい諸星作品ですが、塚本監督が撮った『ヒルコ』は、ホロ苦い青春映画としての輝きも感じられる作品となっています。劇場公開時には興行結果が残せませんでしたが、再評価されていい映画でしょう。
■人気女優の幻のデビュー作
『1999年の夏休み』
“少女漫画界の巨星”、萩尾望都の代表作のひとつである『トーマの心臓』は、金子修介監督によって実写映画化されています。厳密には原作ではなく、原案的な扱いで、タイトルは『1999年の夏休み』(1988年)となっています。
『トーマの心臓』はドイツの寄宿学校を舞台に少年たちの危うい関係を描いたものですが、『1999年の夏休み』は夏休みを学生寮で過ごす4人の美少年たちを、デビュー間もない10代の新人女優たちが演じるという奇抜な配役となっていました。
原作の主人公・トーマにあたる悠役は、現在は声優としての活動が多い宮島依里が演じています。4人の美少年のなかで、より注目したいのは甘えん坊の則夫を演じた水原里絵です。この名前を聞いてもピンと来ない人が多いかもしれませんが、現在も演技派女優として活躍する深津絵里のデビュー時の芸名でした。深津絵里は撮影時13歳。ショートヘアに短パンというボーイッシュな姿なのに、なぜか太ももには黒いガーターベルトが巻かれ、倒錯的な匂いを感じさせます。
のちに藤原竜也&松山ケンイチ主演映画『デスノート』(2006年)を大ヒットさせることになる金子監督ですが、『1999年の夏休み』の企画は大学時代に映画サークルの先輩・押井守監督から勧められて『トーマの心臓』を読んだことがきっかけだったそうです。萩尾望都の短編マンガ『マリーン』も参考にしているように思えます。閉鎖的な学校空間が舞台、繰り返される物語などの特殊な設定は、押井監督の人気作『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(1984年)にも通じるのではないでしょうか。
■実写ならではの官能&格闘シーン
映画『空気人形』 (C)業田良家 / 小学館 / 『空気人形』製作委員会
韓国の人気女優ペ・ドゥナが主演したのは、業田良家原作コミックの実写映画化『空気人形』(2009年)です。『万引き家族』(2018年)などの社会派映画で知られる是枝裕和監督が、日本語のたどたどしいペ・ドゥナ主演作として考えた企画で、ラブドール役のペ・ドゥナは官能シーンも瑞々しく演じており、実写映画ならではの魅力を堪能させてくれます。
ラブドールの「のぞみ」はある日意思を持つようになり、アルバイト先のレンタルビデオ店の店員・純一(井浦新)らと出逢うことで、生きることの喜びと儚さを知ることになります。中身が空っぽの「のぞみ」の肌が破けて体が萎んでいく様子を、ペ・ドゥナは巧みに演じてみせています。原作コミックの知名度に頼った安易な実写化企画はファンから批判の対象となりがちですが、『空気人形』の場合は原作コミックとキャストとの幸福なマリアージュだったといえそうです。
欧米でも人気の高い三池崇史監督は、これまでもマンガ原作の実写化を手掛けてきましたが、いちばんの成功例は、バイオレンス描写満載の山本英夫原作のコミックを浅野忠信主演で実写化した『殺し屋1』(2001年)でしょう。浅野忠信演じる、死への憧れを抱く金髪ヤクザの垣原と、歪んだ性癖の持ち主である殺し屋1(大森南朋)が激突するクライマックスは、ぞくぞくさせるものがあります。
■時代の変化を描いた珠玉の音楽映画
『アイデン&ティティ』
原作ファンからも愛されている実写化映画の1本として、峯田和伸と麻生久美子が主演した映画『アイデン&ティティ』(2003年)も挙げられます。みうらじゅんの半自伝的コミックを、みうらじゅんと親交の深い個性派俳優の田口トモロヲが初監督したもので、ミニシアター系で公開され、ロングランヒットを記録しました。
最近ではNHK朝ドラ『ひよっこ』や大河ドラマ『いだてん』などでクセのあるキャラを演じている峯田にとって、『アイデン&ティティ』は俳優デビュー作となった記念すべき作品です。峯田は本職がロックミュージシャンで、彼が演じる主人公・中島がステージで劇中曲「大人の悩みに子供の涙」や「アイデン&ティティ」を熱唱するシーンには、圧倒されるものがあります。
悩み多き中島の彼女を演じるのは麻生久美子です。みうらじゅんが実在の女性たちから投げ掛けられた言葉が麻生久美子の口を通して語られることで、とてもリアルなものとして観る者の心に突き刺さります。アナログからデジタルの時代へと社会構造が大きく変わっていった1990年代の空気感が生々しく感じられる、忘れがたい作品となっています。
■異次元の壁との向き合い方
近年の人気コミックの実写化映画は、原作の世界観を壊さないように脚本が慎重に練られるようになり、またキャスティングされた俳優たちが原作のキャラクターのイメージと合っているかどうかが話題になることが多いようです。ですが、今回取り上げた実写化作品は、原作の持つメッセージ性こそ尊重していますが、実写映画としての個性がより強く打ち出されているように感じられます。
例えば、『空気人形』ならラブドールの「のぞみ」にペ・ドゥナが身体性を持たせることで、『アイデン&ティティ』なら峯田和伸にオリジナル曲を熱唱させることで、コミック(二次元)と実写映画(三次元)との間にある壁を乗り越えることに成功したのではないでしょうか。
時代によって、また監督によって、原作へのアプローチ方法はずいぶんと異なるようです。味わい深い実写化作品はまだまだあるので、また改めてご紹介したいと思います。
●映画『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』
2019年11月29日(金)より全国ロードショー。
・原作/北条司 監督・脚本/フィリップ・ラショー
・出演/フィリップ・ラショー、エロディ・フォンタン
・吹替版/山寺宏一、沢城みゆき、玄田哲章、田中秀幸、一龍斎春水、浪川大輔、多田野曜平、土師孝也、恒松あゆみ、三上哲、伊倉一恵、神谷明
・配給/アルバトロス・フィルム
(C) AXEL FILMS PRODUCTION – BAF PROD – M6 FILMS
(長野辰次)
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