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【漫画】普通の生活から「まさか」の事態 他人事ではない心身の不調からの「お休み」の物語【作者インタビュー】

マグミクス / 2023年12月7日 20時50分

【漫画】普通の生活から「まさか」の事態 他人事ではない心身の不調からの「お休み」の物語【作者インタビュー】

■心と体はいつ悲鳴をあげるか分からない

 みぞグミ絵璃さん(@mizogumi)による『すってんてんちゃんお休み日記~休職したって休めません編~』の電子コミックスが、2023年11月に発売されました。本作は、講談社アフタヌーン編集部発のWebサイト「&Sofa」で連載されていたマンガです。作者のTwitter(現:X)アカウントでも、一部の話数が無料公開されています。

 主人公は、福祉の仕事に就き、パートナーのナギくんと一緒に暮らしている女性てんちゃんです。彼女が心と体の不調に陥り、休職を余儀なくされるまでの日々が描かれています。とはいえ、重苦しい過度な悲壮感はなく、随所にクスリと笑えるようなシーンが満載で、気楽に読み進めることもできるマンガです。

 今回の記事で紹介する第3話までは休職前の回想、導入部で、てんちゃんは順風満帆な生活を送っているように感じられます。しかし「毎日仕事終わりにフーッとなる」など、予兆ではないかと思われるリアルな描写も見られました。「まさか自分にこんなことが」という言葉に象徴されるように、この作品は「誰にでも起こるかもしれない」物語です。

 読者からは「ここからどう最初の病院につながるのか気になりすぎる」「すごくかわいいし等身大な感じがしてさくさく読める」「心臓がギュッとした」など、さまざまな視点からの感想が寄せられています。投稿に9000を超えるいいねがついた話題作です。

 作者のみぞグミ絵璃さんに、お話を聞きました。

ーーこのマンガは、どのようなきっかけで生まれましたか? ご自身の体験がもとになった部分もあるのでしょうか。

 本作の連載が始まる前、思うようにマンガが描けなくなってしまった期間が長くありました。身近な人に、「私はどうしてマンガが描けなくなっちゃったんだろう……」と弱音を吐いたら、「今の自分に描けないようなマンガを描こうとしているから、描けなくて苦しいんじゃないの」と言われました。そこから「今の自分に描けるマンガってどんなものなんだろう?」と考えるようになりました。

 肩の力を抜いて自然体で机に向かってみたら、てんちゃんとナギくんのエピソードが生まれました。ちょうど私自身も体調を崩しがちな日々が続いていて、働き方やお金のことについてよく考えていました。幸いにも私は、在宅で自由な時間割で働ける漫画家という仕事と出会えましたが、これは誰もが望める仕事環境ではないと思います。

 マンガを描きたいと思っていないタイプの人が元気に働けなくなってしまった時、どのような時間を過ごすのか、そしてどのような未来へ向かっていくのかを描いてみたくなり、そこではっきりと「てんちゃんとナギくんの物語を描きたい!」と思いました。

ーー「このようなときに読んでほしい」「このような人に読んでほしい」といったことは想定されていますか?

 どんな体調の時でも気軽に触れられる、読みやすくて面白いマンガを描きたいな、と思って描いていました。どんな方にも読んでほしいです!

ーー第3話の約束を守らないナギくんと、そこに感動して癒やされるてんちゃんが奇妙で仕方ありません。単行本ではこのあとにも似たような描写はしばしば見られ、そのような「周りからは理解しがたい関係性」についてメインで取り上げた回もあります。ナギくんへの想いを聞かせて下さい。

 主人公のてんちゃんは作中で、本人の実感としては突然、体調を崩してしまいます。そんな時、自分の助けになってくれるようなパートナーがいてくれたらとても心強いと思います。ですが、現実ってそんなにうまいこといくかなぁ、と思いました。私たちの生活のなかには、体調や職場の人間関係など、「自分ではコントロールがきかないもの」「ままならないこと」がたくさんあると思ったので、そういったものたちとどのように向き合っていくのかを描いてみたいという気持ちがありました。

 その延長線上に、大変な状況に陥った時に自分のそばにいるパートナーが、円滑なコミュニケーションが図りにくく、ままならないような人だった場合どうなるのか、という話もありえるよなぁと思い、ナギくんが生まれました。

 作者としては、ナギくんのことを「かわいいやつだな~」と思いながら描いています。ナギくんのように、生まれたてそのままのような状態で生きている人ってすごいですよね。「この険しい社会のなかに身を置きながら、これほど生まれたての状態でいられることってなかなかない! 素晴らしいぞ!」と感動します。

 一方で、ナギくんがそのような自分でいられることにはたくさんの理由があると思います。ナギくんを取り巻く社会環境やナギくんの属するジェンダー、そういったさまざまなものがナギくんをナギくんとして存在させているのだと思っています。そんなところもこれから描けたらいいなと思います。

 てんちゃんとナギくんの組み合わせって、すごく想像力がかき立てられるんです。この組み合わせが私にとってはすごく面白くて、描きがいがあると思っています。この作品において、ナギくんは欠かせない存在です。

ーー作品に対する読者からの反応では、どのような声が特に印象に残りましたか?

 てんちゃんに共感する声が多く聞かれ、少し心配な気持ちになりました……。てんちゃんを通して、「楽しく休む」「適切な休息をとることが常識になる」社会づくりを模索していきたいです。

 あとは、ナギくんに対する声が二極化しているところも面白く感じています。「身近な人に似ている」「かわいい」という声もあれば、「一体どういうつもりなのか」「てんちゃんはこいつの何がいいのか」という声もあり、非常に興味深いです。

『すってんてんちゃんお休み日記~休職したって休めません編~』 (C)みぞグミ絵璃/講談社

ーーみぞグミ絵璃さんがマンガを描き始めたきっかけと、デビューまでの経緯も教えて下さい。

 きっかけは、小学生の頃に毎月おこづかいで買っていた月刊誌「りぼん」です。そこに載っているマンガが面白かったので、自分も真似をしたくなったのだと思います。「りぼん」の影響を受け、当時は少女マンガやショートマンガを描いていました。

 高校3年生の時の進路選択で漫画家になることを決め、卒業をする前に「花とゆめ」にマンガを投稿しました。これが初投稿でした。結果は振るわなかったのですが、3000円をもらってうれしかった記憶があります。そこからいろいろな出版社に持ち込みに行くようになりましたが、アルバイトが忙しくてなかなかマンガを完成させることができず、時間だけが流れていきました。

 ある年に、雪が降った日の翌日に凍結した道で滑って転んで左ひじを骨折したことがありました。骨がくっつくまでアルバイトに行けなかったので、「今がチャンス!」と思ってその期間にマンガを完成させました。左腕はギプスで固定されていたので、すごく描きにくかった気がします。でも、「こんなに自由時間があるのは今だけだ!」と思ったんです。

 その時に描き上げたのが『早川さんとのプロローグ』という作品です。徳間書店「COMICリュウ」の新人賞に投稿し、そこでデビューをさせてもらえることになりました。

ーー今回、電子書籍でご自身初のコミックスが発売された感想はいかがでしたか?

 電子コミックスのみでの発売ではありますが、奥付ページや販売ページを見るときちんと本の体裁を成していて、すごくうれしかったです。ですが、てんちゃんの物語の続きを描かせてもらえるかどうかはコミックスの売れ行き次第で決まるので、発売してからずっとそわそわとした気持ちがあります。

ーー初連載が決まってから公開が開始されるまでの様子は、自主制作の『新生活』という日記本にもまとめられています。そのなかで「表記ゆれ」に関する記述がとても興味深かったです。これについても少し詳しくお聞かせ下さい。

 マンガ原稿は、Webに掲載される前に校了者(最終チェックの担当者)の方が誤字脱字などを確認して下さっています。その際に、私が「食べたい」という言葉を「食べたい」と漢字表記にしているところもあれば「たべたい」とひらがな表記にしているところもあるので、「これはどちらが正しいですか?」と尋ねられたことがあったんです。

 私のなかではどちらも正しくて、その時しゃべっている人の声色で「食べたい」表記がしっくりくる時もあれば「たべたい」表記が適切だ、と感じる時もあるんです。「この違いをみんなにも分かってほしい! 伝わってほしい!」というふうには全然思っていなくて、完全に自己満足の話なんです。てんちゃんが「たべたい」としゃべったのに吹き出しのなかに「食べたい」と書かれていると、違和感を覚えてしまうんです。

 つまり、てんちゃんは、「食べたい」と言う時もあるし、「たべたい」という時もあるため、その時その時によって表記がゆれてしまう、という話です。……面倒くさいですよね。私しか気にしていないニュアンスなのに、編集者さんと校了者さんはこれに対応して下さっていて、本当にありがたいです。

ーー今後発表される作品については、どのように活動していきたいとお考えでしょうか?

 読んだ後に「うーん。いろいろあるけど自分もなんとかやっていくかー!」という気分になれる作品が作れたらすごくうれしいな、と思っています。読み終わった後、「私も何か新しいこと始めてみようかな」とか「ずっと面倒だったお風呂場の掃除をやろうかな」とか、重い腰を上げる最後のひと押しになるようなマンガを描きたいです。

(マグミクス編集部)

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