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劇場アニメ『幸福路のチー』のソン監督、人生に向き合い「台湾の日々」を映像化

マグミクス / 2019年11月28日 17時40分

劇場アニメ『幸福路のチー』のソン監督、人生に向き合い「台湾の日々」を映像化

■「自分は特別な人生体験をしていない」と思っていたが…

 台湾発の劇場アニメ『幸福路のチー』が、まもなく2019年11月29日(金)に公開されます。アニメ不毛の地とさえ呼ばれていた台湾映画界に突如誕生した傑作アニメーションは、世界中の映画祭で観客の共感を集めています。

 本作は日本公開を盛り上げソン監督を応援しようと、日本国内でクラウドファンディングが実施されました。その参加者を招待したクローズドな先行上映会が11月9日(土)に開催され、同作を手掛けたソン・シンイン監督がティーチインに登壇しました。

 1975年に台北で生まれたソン監督。『幸福路のチー』の主人公、チーも1975年生まれなので、まさにチーの物語は、監督自身の半生がモデルになっているといえます。

 ソン監督は京都大学で映画理論を学び、その後2007年からアメリカのコロンビア・カレッジ・シカゴで脚本や監督の勉強を重ねました。当時フィクションが専攻だった監督は、「ストーリーは妄想で作るものだ」と思っていましたが、当時の先生に「優れた物語を書きたいのなら、自分の声を聞きなさい。自分の体験を書いてみなさい。」と言われます。

イベント上映で発言するソン・シンイン監督(2019年11月9日、筆者撮影)

 先生の言葉に応えるように、自分の人生をつづり始めた監督。当初は「私は特別な人生体験をしてきたわけではない」と思っていましたが、当時クラスメイトの間で話題になっていた、イランのマルジャン・サトラピ監督の『ペルセポリス』(イランの歴史に翻弄された、少女の物語)を観て、「私が過ごした台湾の日々も、もしかしたら人びとを感動させられるかもしれない」と考えたそうです。

 2010年に台湾に帰国後、完成した脚本を実写映画で制作するために奔走しました。しかし、ある知人からのアドバイスと、アニメーションの手法にインスパイアされた監督は、初めてのアニメーション制作に踏み切ることに。独自のアニメーション産業がない台湾での制作は、多くの人びとからの反対意見もありました。

 2013年に前身となる短編アニメーション『幸福路上』が完成。「毎日熱い議論を交わした関係で、今でも友人として交流を続けています」と、ソン監督は言います。本作は第15回台北電影節(台北映画祭)の台北電影奨で、最優秀アニメーション賞を受賞しました。

■人間は時間とともに「幸せの定義」を変化させていく

物語で重要な役割を果たす、おばあちゃんとチーのシーン。劇場アニメ『幸福路のチー』 より

『幸福路上』からさらに4年の歳月を経て、長編アニメーションとなる『幸福路のチー』が完成しました。

 長編アニメの制作では、ふたつの奇跡がありました。主人公・チーのボイスキャストを演じたルイ・グンメイさんの参加。第55回アジア太平洋映画祭で最優秀主演女優賞もした、台湾を代表する女優です。

「第15回台北電影節」の審査員を務めていたルイさんに脚本を送ったところ、シナリオに感銘を受けた彼女はボイスキャストを買って出てくれました。ティーチインでは、彼女の寄せたビデオメッセージも公開されました。

 もうひとつは、テーマソングを歌うジョリン・ツァイさんの参加。世界的に知られる台湾の歌姫で、日本では安室奈美恵さんとコラボしたことでも有名です。「彼女にテーマソングを頼みたい」と言ったら、周りは呆れてしまったといいますが、ジョリンさんもまた、チーの人生に強い共感を覚えて快諾したといいます。

 イベントでは、映画監督(『ちえりとチェリー』)の中村誠さんが演出を務めた日本語吹き替え版の一部も上映され、チーの人生に大きな影響を与えたおばあちゃんを演じるLiLiCoさんをはじめ、日本のキャスト陣による共演を観たソン監督は涙ぐんでいました。

 監督は、『幸福路のチー』には、ふたつの意味があると言います。ひとつは、幸福路で生きるチーたち家族の物語。そしてもうひとつは、「人間は時間と年齢の変化とともに、幸せの定義を変化させていくこと」です。

 台湾社会への思い。亡き祖母に感じた不快感と謝罪。留学への憧れ。自分は特別な人生を送っていないと思ったソン・シンイン監督が、人生に向き合い完成させた『幸福路のチー』は、国境を越えて人びとの共感を集めています。

 ユーモラスなタッチとコミカルな描写、それでいてリアリティのある人生観が詰まった本作を観て、筆者もふわふわとした幸福感に包まれました。2019年を締めくくる映画体験として、劇場へ足を運んでいただきたい作品です。

●映画『幸福路のチー』
2019年11月29(金)より、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、京都シネマほか全国順次公開。提供:竹書房、フロンティアワークス / 配給:クレストインターナショナル http://onhappinessroad.net

(C)Happiness Road Productions Co., Ltd. ALL RIGHTS RESERVED.

(サトートモロー)

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