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『ガンダム』劇場版で省略された14話「時間よ、とまれ」 富野監督自ら書いた「真理」とは

マグミクス / 2023年12月8日 6時10分

『ガンダム』劇場版で省略された14話「時間よ、とまれ」 富野監督自ら書いた「真理」とは

■退屈しているジオン軍の兵士たち

『機動戦士ガンダム』第14話「時間よ、とまれ」は、富野喜幸(現:由悠季)監督自身が脚本を手掛けた唯一の回であり、最前線のジオン兵士がほぼ生身でガンダムを倒そうとする衝撃的な展開が描かれます。なお、絵コンテの斧谷稔は富野監督のペンネームであり、純度の高い富野監督回と言えるでしょう。

 劇場化の際にはマチルダ隊による補給シーンのみが反映され、本編はカットされていますがガンダムに仕掛けられた爆弾を外そうとするアムロをジオン兵がいつの間にか応援し始めるなど、兵士もただの人間であることが強調された回として、印象深いエピソードとなっています。

 エピソードの冒頭では、最前線に張り付いているジオン軍兵士たちを、マジシャンが慰問するシーンから始まります。つまらないマジックに兵士たちは罵声を浴びせていますが、実はこのシーンで登場したマジシャンは『無敵鋼人ダイターン3』第27話「遠い日の、エース」に登場したコマンダー・エドウィンにそっくりなのです。

 よくよく見ればジオン兵たちのなかにはダイターン3の主人公である波嵐万丈や執事のギャリソン時田に見えるキャラクターが混じっています。他作品のキャラクターやロボットをこっそり登場させる、当時はよく見られたクリエイターによるお遊びなのでしょう。

 続くシーンで丁寧に描写されるのが、最前線の兵士たちが置かれた状況です。部隊に1機しかないザクを磨くくらいしかやることがなく、コロニーにはいない虫にも悩まされる日々。慣れない環境に鬱屈したその姿からは、士気の低下が見て取れます。

 慣れない土地での慣れない生活、いつ終わるのかもわからない戦い。このような状況に置かれた兵士たちが故郷に帰りたがるのも無理はありません。

そんな状況で地球連邦軍の新型モビルスーツが近くにいることを知ってしまえば、興味が湧くのは当然です。そしてジオンの若い兵たちは、モビルスーツを倒せば褒美としてジオン本国へ帰してもらえるのではないかと考え、攻撃を仕掛けようと考えたのです。

■アムロを応援するジオン兵?

劇場版『ガンダム』では、TV版14話で描かれたドラマの大部分はカットされている。画像は『機動戦士ガンダムI』DVD(バンダイビジュアル)

 このとき、ホワイトベースにはマチルダ中尉のミデアが補給のために来訪していましたが、離脱した際にジオンに発見されてしまいました。ミデアの援護のために出撃したガンダムに対し、ジオンの兵たちはワッパと呼ばれる小型のホバー・バイクで接近し、時限爆弾を仕掛けてガンダムを破壊するという無謀極まる作戦を実行に移しました。

 森の中でザクを発見したアムロでしたが、木々が邪魔で撃破することができません。そこにワッパが襲来しますが、アムロは出会い頭にバズーカを放ち、1機を撃墜します。しかしほぼ生身の兵士を殺してしまったことに気付いたアムロの手は震えだしてしまうのです。

 ひとつ前の話である第13話「再会、母よ…」で、アムロは追い詰められた挙句にジオン兵を拳銃で射殺しただけではなく、地上に降りてからは自分の戦っている相手が生身の人間であることを事あるごとに思い知らされていました。おそらく心も体も殺人行為を拒否し始めていたのではないでしょうか。

 アムロの戸惑いを知ってか知らずか、ジオン兵たちはワッパでガンダムに接近して爆弾を設置し続けます。アムロもバルカン砲で応戦しますがまったく当たりません。

 やがて爆弾の設置を終えたジオン兵たちは、爆弾をめがけて射撃を開始します。シールドに設置された爆弾を爆破され、ようやくガンダムに爆弾を設置されたことに気付いたアムロは、破壊されたシールドを振り回し、風圧でジオン兵たちを追い払います。

 しかし問題はここからでした。いつ爆発するかわからない爆弾を取り外すため、技術力のあるアムロがただひとりで作業を行う羽目に陥りました。万一の場合の犠牲を少なくするためとはいえ、あまりにも厳しい状況です。

 このときジオン兵は遠く離れた場所から爆弾が爆発する瞬間に備えていました。アムロがひとりで爆弾処理を行う光景を最初は笑いながら見ていた兵士たちですが、作業が進むにつれ、なぜか徐々にアムロを応援するような言葉を口にし始めます。やがてすべての爆弾が処理され、離れた場所で爆発したのを見届けた彼らは、アムロの顔を一目見ようと、地元の青年団に扮してガンダムに接近、軽くあいさつを交わしてその場を後にしたのでした。

 連邦の兵士もジオンの兵士も、お互い命がけで生き延びている。「時間よ、とまれ」は、そんな単純な事実を「ガンダム」と「爆弾」、「ジオン兵」を使って見事に表現した傑作回ではないでしょうか。

(早川清一朗)

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