『逆襲のシャア』あすBSで放映 何度も見た「謎多きラストシーン」 あなたはどう解釈する?
マグミクス / 2023年12月16日 19時10分
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■「宿命のライバル」アムロとシャアとの決着戦
「ニューガンダムは伊達じゃない!」
劇場アニメ『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(1988年)のクライマックス、宇宙世紀史上最強のパイロットであるアムロ・レイが口にする名ゼリフです。
富野由悠季監督によるオリジナルアニメ『逆襲のシャア』は、「宿命のライバル」アムロとシャア・アズナブルとの決着戦が描かれ、興収11億3000万円というスマッシュヒットを記録。ソフト化されて以降、ファンからますます愛されている人気作です。
2023年12月17日(日)のBS12では、19時からの「日曜アニメ劇場」にて『逆襲のシャア』が放映されます。結末がわかっていても、何度も観たくなる『逆襲のシャア』の魅力を探ります。
■ララァを忘れられない男たちの私闘
宇宙世紀0093年。『機動戦士ガンダム』(テレビ朝日系)で描かれた一年戦争から13年後の物語として、『逆襲のシャア』は進んでいきます。地球連邦政府の腐敗ぶりに失望したシャアは、ネオ・ジオンの総帥となり、地球に小惑星アクシズを落とし、地球人類の粛清を図ります。
地球連邦軍の独立部隊「ロンド・ベル」に所属するアムロは、ν(ニュー)ガンダムに乗り、シャアの計画を阻止するために奮闘します。シャアが乗る赤いモビルスーツ・サザビーとνガンダムとの死闘が描かれるだけでなく、ブライト艦長の息子・ハサウェイや「ニュータイプ」としての資質を持つ少女・クェスらも絡み、上映時間120分のなかに密度の濃い人間ドラマが繰り広げられていきます。
一年戦争時は15歳だったアムロは28歳に、シャアは32歳になっています。すっかり大人になった両雄は、それぞれが背負ってきた人生や信条を賭けて、最後の対決に臨みます。1979年にテレビ放送が始まった『機動戦士ガンダム』を多感な思春期に観て育ったガンダム世代は、自分たちの青春そのものが総決算されるような特別な気持ちで、シャアとアムロの戦いの行方を見守ったように思います。
シャアとアムロの戦いには、個人的な感情も関係しています。一年戦争で亡くなった少女・ララァのことが、シャアもアムロも忘れることができずにいるのです。アムロはララァの夢にたびたびうなされ、シャアも寝言でララァの名前をつぶやくことが語られています。
亡くなったララァをめぐり、シャアとアムロはぶつかり合います。しかし、ふたりの戦いを観ても、かつての『機動戦士ガンダム』のような、胸の高まりは感じられません。むしろ、心の喪失感を埋めるために私闘を繰り広げる男たちが、哀れにすら感じられます。
失ったものの大切さを知ったとき、人は大人になるのかもしれません。
■悲劇は『閃光のハサウェイ』に受け継がれることに
ブライトの息子ハサウェイはクェスに思いを寄せるが、作中で悲劇に巻き込まれることになる (C)創通・サンライズ
ブライト艦長とミライさんの息子であるハサウェイも、『逆襲のシャア』の重要キャラクターです。家族関係がうまくいっていない少女・クェスのことが、ハサウェイは気になってなりません。シャアのもとへ出奔したクェスを連れ戻したい一心で、ハサウェイは無謀にも戦場へと向かうのでした。
初めての戦場で、ハサウェイは生涯消えることのないトラウマを体験します。ハサウェイにとって、クェスは初恋の女性と言っていいでしょう。そのクェスが、ハサウェイの目の前で非業の最期を遂げてしまうのです。このとき、ハサウェイもクェスも、まだ13歳でした。
シャアの反乱から12年後、ハサウェイが成人した姿は劇場アニメ『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』(2021年)で描かれることになります。アムロとシャアがララァを失ったことで人生が大きく変わったように、ハサウェイの人生も大きな歪みを生じることになります。
ハサウェイのその後を知った上で、改めて『逆襲のシャア』を観ると、悲劇の歴史が繰り返されていることに胸が締め付けられるような感覚を覚えずにはいられません。
■いろんな解釈ができるラストシーン
何度も『逆襲のシャア』を見返してしまう要因に、いろんな解釈ができるラストシーンがあるように思います。アムロやブライトは懸命にあらがうものの、小惑星アクシズの半分が地球に落ちてしまうことに。νガンダムに乗るアムロは、地球への落下軌道上にあるアクシズを押し戻そうとします。冒頭のセリフは、この場面でアムロが口にするものです。
言葉を介さずともわかり合えるのが「ニュータイプ」のはずなのに、結局のところ、シャアとアムロは最後まで理解し合うことができません。でも、アムロに続き、地球連邦軍だけでなく、ネオ・ジオン軍のモビルスーツもアクシズに取り付き、身を挺して地球への落下を防ごうとします。このとき、アクシズは不思議な光に包まれ、奇跡が起きるのでした。
このラストシーン、アムロとシャアのサイコフレームが共鳴し、νガンダムの未知なる力が引き出された、ということに理屈上はなるわけですが、奇跡を呼び寄せたのはアムロひとりの力ではなく、地球連邦軍もネオ・ジオン軍も関係なく、名もなき大勢の兵士たちの母なる星・地球への愛情があったからでしょう。また、シャアがアムロ向けにサイコフレームに関する最新のデータを送っていたからこそ、この奇跡は起きています。言葉では否定していたシャアですが、最後の最後にシャアも人類の未知なる可能性を感じていたはずです。
おそらく、富野監督の頭のなかには、人間が持つ可能性に肯定的なアムロと否定的なシャアの両方が存在しているのだと思います。
人間は永遠にわかり合うことができない。いや、いつかはわかり合うことができる。観る人によって、また観るタイミングによって、どちらにも解釈できるのが『逆襲のシャア』の面白さではないでしょうか。あなたは、どう解釈しますか?
(長野辰次)
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