まさに大収穫! 「油断してたらめちゃくちゃ良かった」23年のアニメ映画
マグミクス / 2023年12月26日 12時10分
■「音楽が聞こえてくるマンガ」から「音楽が見えるアニメ映画」に!
2023年に公開されたアニメ映画はヒットを記録した作品が多く、いつになく「豊作」と呼べる年でした。宮﨑駿監督作の『君たちはどう生きるか』が宣伝一切ナシで公開されるなど話題にも事欠かず、SNSで評判になっているのを見て劇場に足を運んだ人も多いのではないでしょうか? そこで今回は、「油断していたらめちゃくちゃ良かった」2023年公開のアニメ映画をご紹介します。
●『BLUE GIANT』
劇場で映画を鑑賞するということは、自宅での鑑賞以上に音響や音楽を楽しむことでもあります。そういった意味では、ロングヒットを記録した立川譲監督の『BLUE GIANT』は2023年を代表する極上の音楽映画といえる作品です。
「音が聞こえてくる」と話題を呼んだ石塚真一先生の同名マンガを原作に、物語を牽引するメインキャラクター3人のボイスキャストとして山田裕貴さん・間宮祥太朗さん・岡山天音さんが起用されました。
主人公の宮本大(山田さん)はジャズに憧れてテナーサックスを始め、高校卒業を機に東京へ。ライブハウスで凄腕のピアニスト・沢辺雪祈(間宮さん)と出会い、高校の同級生・玉田俊二(岡山さん)も誘ってスリーピースバンド「JASS」を結成します。ジャズの名門クラブ「So Blue」に立つべく奮闘する3人の想いを音楽とともに浴びる一方、クライマックス直前に起きる衝撃展開に息を呑んだ人も多いのではないでしょうか。
本作は物語もさることながら、ひとつひとつの楽器の音色とJASSが生む音楽も主役といえます。劇中音楽と雪祈のピアノ演奏を世界的ジャズピアニスト・上原ひろみさんが担当し、サックス奏者・馬場智章さんとドラムマーの石若駿さんが、大と俊二の演奏を担っているのもポイントです。映像表現も相まって「音楽が見える」、激アツなライブパフォーマンスにぜひ注目してください。
●『北極百貨店のコンシェルジュさん』
「お客様は全員動物」の百貨店が舞台、という設定を聞いてそれだけで「面白そう」と鑑賞を決めた人は少なくないかもしれません。もしくは西村ツチカ先生の原作マンガが好きで劇場に足を運んだファンも多いと思います。
TVアニメ『ボールルームへようこそ』の板津匡覧監督にとって初の長編劇場アニメであり、川井田夏海さんを筆頭に大塚剛央さん・中村悠一さん・入野自由さん・花澤香菜さん・津田健次郎さんら、豪華声優陣が名を連ねました。
本作は幼い少女・秋乃が動物たちの集まる「北極百貨店」を訪れ、コンシェルジュさんと出会う場面から始まります。やがて秋乃自身も北極百貨店のコンシェルジュになりますが、新人の彼女は失敗ばかりです。それでも周囲のアドバイスをもとに、動物たちの目線に立とうと努力を重ね、コンシェルジュとして成長していきます。
あらすじを見れば「お仕事映画」だとすぐに気付きますが、本作の魅力はさらに奥深いテーマにあります。なぜ北極百貨店が存在するのか。なぜ動物が集まるのか。とくに「VIA(絶滅動物)」たちが持つ意味は、各キャラクターや背景のタッチとは裏腹に重いものを感じさせます。
その視点とは別に、津田さんが声を担当した造形作家でケナガマンモスのウーリーをめぐる、「愛」の物語も大きな魅力です。北極百貨店の意外な立地環境が判明するエンドロールまで、目が離せません。
■期待を大きく上回る感動と興奮!
●『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』
『屋根裏のラジャー』ポスタービジュアル (C)2023 Ponoc
11月17日に公開された『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』は、2023年アニメ映画界のダークホースといっても過言ではないかもしれません。本来なら公開後は徐々に落ちていくはずの観客動員数が右肩上がりに上昇していき、口コミを伴って興収10億円を楽々と超えるヒット街道を突き進んでいます。まさかここまで話題になるとは……。
物語はとある雑誌記者が深い山中で鬼太郎とねこ娘に遭遇するところから始まり、時代がさかのぼって東京の血液銀行に勤める水木へと語り部がスイッチします。哭倉(なぐら)村の龍賀家を訪ねた水木は財政界を牛耳る龍賀一族の跡継ぎ争いに巻き込まれ、そのさなか行方不明の妻を探すゲゲ郎と出会うことになりました。やがて龍賀一族の忌まわしき「秘密」が明らかになり、事態は思わぬ方向へ突き進んでいきます。
昭和の山村を舞台に横溝正史的な殺人事件が描かれており、その凄惨ぶりはPG12指定止まりでいいのかと心配になるほどです。とくに本作の「黒幕」は近年類を見ない胸糞キャラで、その目的も行動も一切同情の余地はありません。
一方で、深い愛情を内に秘めるゲゲ郎&水木コンビが多くの観客を魅了することになりました。「鬼太郎」というビッグコンテンツを根底に敷きつつ、妖怪譚、サスペンス、ホラー、バトルアクションへとジャンルを越境する物語は必見です。
●『屋根裏のラジャー』
『メアリと魔女の花』に続くスタジオポノックの長編アニメーション『屋根裏のラジャー』(2023年12月15日公開)は、子供が作り上げる「空想上の友達(イマジナリーフレンド)」を題材にした作品です。イギリスの作家・詩人のA.F.ハロルドによる小説『The Imaginary(ぼくが消えないうちに)』を原作に、高畑勲監督作品への参加で腕を磨いてきたアニメーター・百瀬義行氏が監督を務めました。
物語の主人公・ラジャーは母親と暮らす少女・アマンダの想像が生み出した「イマジナリ」であり、アマンダ以外の誰の目にも姿は見えません。アマンダの見ている世界で現実と空想が交錯するなか、謎の男「ミスター・バンティング」の出現によって、ふたりの運命は大きく変わることになりました。ラジャーは猫のジンザンに導かれ人間に忘れられてしまったイマジナリが暮らす「イマジナリの町」にたどり着き、そこで出会った少女・エミリの協力を得て未来を懸けた「最期の冒険」へと旅立ちます。
現実と空想を行き交う作品だけに「よくある子供向けのファンタジー」と思われるかもしれませんが、本作は子供の想像力の豊かさや、拠り所にしていた愛を失いながらも子供なりに懸命に生きていく力を描いた作品です。また大人になることで忘れられ消えていくイマジナリの「記憶」もテーマのひとつにあるため、大人になって時間が経った人ほど胸に迫り大きな余韻が残るのではないでしょうか。
2023年のアニメ映画では、他にも『金の国 水の国』や『SAND LAND』、最近では『駒田蒸留所へようこそ』、映画『窓ぎわのトットちゃん』といった作品が高い評価を受けています。既にソフト化・配信済みのものもあるので、年末年始にぜひその目で各作品の魅力を確かめてみてください。
(葦見川和哉)
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