「お値段異常!」パンダトレノ、RX-7…『頭文字D』登場のクルマ その中古相場は…?
マグミクス / 2023年12月30日 7時10分
■これが40年落ちの中古車価格? 「パンダトレノ」大人気
リアルな新型車のネーミングにまで影響を与えるほどとなった人気作『頭文字D(イニシャル・ディー)』(しげの秀一/講談社 ヤンマガKC)は、1995年から2013年にかけて講談社「週刊ヤングマガジン」にて連載された、峠を舞台とするモータースポーツコミックです。アニメやゲームなど、広くメディア展開もされました。
人気の理由のひとつに、次々と登場してくる主人公のライバルの存在があります。個性的で魅力的な面々、そして、彼らの駆る愛車も物語を盛り上げる重要なピースとなっています。
その『頭文字D』に登場したクルマは、どのようなモノなのでしょうか。また、いま手に入れようとしたらどれくらいの価格になるのかを見ていきます。なお中古車の価格は2023年12月現在のもので、リクルート社「カーセンサー」およびプロト社「グーネット」の掲載情報を基にしました。
●シンプルで若者に人気だった「ハチロク」
主人公である藤原拓海の愛車は通称「ハチロク」、正式にはトヨタの「AE86型」の「スプリンター・トレノ」です。「AE86型」というのは型式番号で、「エー・イー・ハチロク・ガタ」と読み、そして車名が「スプリンター・トレノ」になります。
『頭文字D』本編でもそうでしたが、車名だけでなくなぜ型式名が示されるのかといえば、クルマは同じ車名のまま世代交代を行うため、車名だけでは、どの時代のクルマかが分からないからです。そのため、より厳密に「この時代の、このモデル!」を特定するのに型式が使われているのです。
では、「AE86型」の「スプリンター・トレノ」は、どのようなクルマだったのでしょうか。
そもそも「スプリンター・トレノ」とは、「カローラ」の兄弟モデルである「スプリンター」の、2ドアクーペタイプを「トレノ」と称したものです。「スプリンター」は、初代が1968年に誕生しました。AE86型の「スプリンター・トレノ」は、1983年に誕生した第5世代となります。当時の兄弟車は「カローラ・レビン」であり、「スプリンター・トレノ」と「カローラ・レビン」の2台は、どちらも型式が「AE86型」でした。
実は、同時代の「カローラ」は、当時の最先端技術であった前輪駆動(FF)方式を採用し始めたところ。普及モデルであるセダンは前輪駆動になり、クーペの「AE86型」だけが従来通りの後輪駆動(FR)です。古い技術を踏襲したように「AE86型」のクーペは、メカニズム的にシンプルで、そして軽量、さらに手頃な価格であったのが魅力でした。
『頭文字D』の連載開始前夜にあたる1990年代初頭は、この「AE86型」の中古車が非常に安価に流通しており、若者にとって手に入れやすく、そして運転しやすいクルマと認識されていました。
ただし、漫画が大ヒットし、しかも生産終了(1987年)から36年が過ぎて、2023年現在では流通量が激減、それにともない中古車の相場は高騰しています。「AE86型」の「スプリンター・トレノ」と「カローラ・レビン」の中古車の価格は、250万円から600万円といった状況で、中心価格帯は300万円から500万円です。
■1000万超も…!? 高橋兄弟の「RX-7」
マツダ「RX-7」。左が3代目のFD型、右が2代目のFC型 (マツダ)
●誇り高くマニアックな存在「サバンナRX-7(FC型)」
物語の中で孤高のリーダーとして描かれたのが、地元ナンバー1のチーム「レッドサンズ」を作り上げた高橋涼介、その愛車はマツダの「RX-7(FC型)」です。
「RX-7」は、マツダを代表する本格スポーツカー。世界で唯一、本格量産化された「ロータリー・エンジン」を搭載するのが特徴です。高橋涼介の愛車は1985年から1991年に生産された第2世代モデルで、型式は「FC型」になります。当時の正式名称は「サバンナRX-7」です。
小さいのにパワフルで、スムーズにレスポンスよく回るロータリー・エンジンが特徴であり魅力となっていました。ロータリー・エンジンは世界中の自動車メーカーが取り組んだ中、マツダだけが実用化を成功させたという、誇りを感じさせるエンジンです。華美ではなく、スタイリッシュな車体デザインも特徴といえます。誇り高く、クールな高橋涼介の人物像とオーバーラップするスポーツカーです。
中古車の相場は、180万円から400万円といったところ。中心価格帯は250万円から350万円です。
●華やかでパワフルな「アンフィニRX-7(FD型)」
走り屋チーム「レッドサンズ」のナンバー2である高橋啓介は、イケメンかつ、明るい兄貴分肌の人気キャラです。その愛車が「アンフィニRX-7(FD型)」、兄となる高橋涼介の愛車「サバンナRX-7(FC型)」の次のモデルで、1991年から2002年まで生産されました。
バブルの絶頂期に開発されたモデルということで、ワイドで低く、そして流麗で華やかなデザインが採用されます。ロータリー・エンジンはシーケンシャル・ツインターボ化され、最高出力255馬力を達成。何度かの改良を経て、最終的には280馬力にまでパワーが高められています。華やかでパワフル、まさに高橋啓介のイメージに合致するスポーツカーです。
中古車は300万円から900万円といったところ。中心価格帯は350万円から800万円。有名ショップのチューニングカーになると1000万円を超えることもあります。映画『ワイルドスピード』シリーズに登場したのも高値の理由のひとつといえるでしょう。
■「最強」の名を冠する2台
WRCにて強さを見せたスバル「インプレッサ」 (スバル)
●伝統を最新技術で復活させた「スカイラインGT-R(R32型)」
主人公のライバルとして登場する中里毅、その愛車は1990年代当時、国内スポーツカーの最強モデルと目されていた日産「スカイラインGT-R(R32型)」です。
もともと日産の「スカイラインGT-R」は、国産スポーツカーとして伝説的な存在です。1969年に登場した初代「スカイラインGT-R」は、デビューわずか3年でレース50勝という偉業を達成、「GT-Rは速い! 強い!」というイメージを決定付けました。その後、オイルショックなどでモデルは消滅しますが、バブル期となる1989年に復活します。
当時の最高馬力となる280馬力の直列6気筒、RB26DETTエンジンを搭載し、パワーを余すことなく路面に伝えるため4WDを採用。最新技術を満載して復活した新世代「スカイラインGT-R(R32型)」は、レースやチューニングカー・ベースとして国内最強モデルの座に君臨しました。R32型の生産は、1989年より1994年までの5年間です。
中古車の相場価格は450万円から1700万円、中心価格帯は500万円から1000万円。「RX-7」の4倍から5倍の中古車が流通しています。
●ラリーで大活躍した「インプレッサWRX(GC8型)」
主人公の駆る「ハチロク」は、実のところ父親である藤原文太の愛車でした。しかし物語が進む中で、「ハチロク」は藤原拓海のものに。その代わりに文太が手に入れたのが、スバルの「インプレッサWRX(GC8型)」でした。
「インプレッサWRX(GC8型)」は、1992年に誕生したコンパクトセダンです。当時、スバルは「世界ラリー選手権(WRC)」に、それよりも大きな「レガシィ」で参戦していました。しかし、よりコンパクトで軽量な「インプレッサWRX(GC8型)」が登場すると、さっそくマシンをチェンジ。その後、スバルはWRCにおいて、この「インプレッサWRX(GC8型)」を駆り大活躍しました。1995年には念願の世界チャンピオンに輝いています。
そのようなWRCで活躍した「インプレッサWRX(GC8型)」は、見た目こそ地味なセダンですが、中身は高性能そのもの。最高出力240馬力を発揮する2リッター水平対向4気筒ターボ・エンジンにスバル得意のAWD(四輪駆動)を組み合わせ、ラリーで活躍したとおり、峠などでは無類の速さを見せました。その生産は2000年まで続きます。
ただし、文太の愛車は、「インプレッサWRX(GC8型)」の中でも特別なモデル「インプレッサWRX STIバージョンV クーペ」です。STIバージョンは、最高出力が280馬力に高められるなど、同モデルの中でも別格なまでに走りに振ったモデル。バージョンVは1998年モデルを意味します。
中古車は150万円から650万円。中心価格帯は200万円から600万円。流通量は、ここまで挙げてきたモデルの中では、最も少ないようです。
* * *
今回、紹介したのは、どれも20年以上も前のモデルばかり。通常、中古車は古くなるほど安くなりますが、人気モデルは逆に値段が上がる傾向にあり、特に2000年代よりも前のスポーツカーは、ネオクラシックカーとして人気が高くなっています。これは、2023年末現在、手ごろな価格のスポーツカーや、それに準ずる安価なスポーティカーが激減しているのも理由のひとつでしょう。希少であり、人気が高く、そして程度の良い中古車が高くなるのは、ある程度、仕方がないことかもしれません。
(鈴木ケンイチ)
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