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なぜ「京アニ作品」は愛されるのか 『ユーフォニアム3期』へ続く職人集団の歴史

マグミクス / 2023年12月31日 10時50分

なぜ「京アニ作品」は愛されるのか 『ユーフォニアム3期』へ続く職人集団の歴史

■それは団地の一室から始まった

 2024年放送予定のTVアニメに、春スタート予定の『響け!ユーフォニアム3』(NHK Eテレ)があります。15年第1期、16年第2期に続く注目の人気シリーズ第3期にあたり、制作は引き続き、あの「京都アニメーション」(以下、京アニ)が担当します。

 このニュースに歓喜したファンは多かったでしょう。そこには「作品の続きが観られるから」という理由はもちろんのことですが、「制作が京アニだから」という理由も多分に含まれるはずです。なぜそういえるのか、ひいては「なぜ『京アニ』は愛される=ブランディングに成功したのか」という点について、その歴史を振り返りつつ初歩的なところからおさらいしていきましょう。

●いまへ続く「主婦たちの繊細な手作業」

 2019年7月、京都府宇治市にある京都アニメーション本社で発生した放火殺人事件で、不本意ながらアニメファン以外にも、その社名は広く知られることになりました。

 同社の「はじまり」は、ひとりの主婦と団地の一室です。

 手塚治虫氏が創設したアニメ制作会社「虫プロダクション」の制作スタッフだった八田陽子(旧姓・杉山)さんが、京都で結婚したのち、1981年に近所の主婦たちから請われ、団地の一室でアニメ制作教室を開きます。これをきっかけに、「タツノコプロ」「サンライズ」といった大手アニメ制作会社から、主に「仕上げ」という工程の仕事を受け持つようになりました。これが「丁寧でキレイ」と業界で評判となり、仕事の依頼が増えていきます。

 90年代に入ると、「京アニは、絵がキレイ」という評が浸透します。「キレイ」のひと言で表現するのは雑に思われるかも知れませんが、この一語に、人物や背景などの「動き」「色彩」等々アニメーション映像に関したすべての要素についての、繊細、精巧、緻密、巧緻、といった「美」を形容するあらゆる単語が集約されている、と理解してください。

 それが群を抜いているというのは、素人目にも歴然でしょう。特に90年代の作品においては顕著かもしれません。不自然さのない人体の動き、目の輝き、表情のしわ、髪の毛一本一本、ほとばしる汗や頬をつたう涙のひとしずく。太陽や海や空の輝きと影の陰影、風に揺れる草木の一葉まで、細部までが「キレイ」です。「京アニ」の素晴らしいところは、どのシーンのどの場面を切り取って観ても「キレイ」の手を抜いていないことです。

■伝説の天才クリエーターが築いた「基礎」

「『涼宮ハルヒの憂鬱』第一期シリーズ BD-BOX」 (C)2006 谷川流・いとうのいぢ/SOS団

「京アニ」の原動力となり、ハイクオリティーを求めるスピリッツを植え付けたのが、1991年に入社した木上益治(きがみよしじ)さんでした。映画『ドラえもん』シリーズや『火垂の墓』『AKIRA』など数々の作品で作画を担当し、「天才クリエーター」と称された職人で、先の事件により残念ながら亡くなられた今なお「京アニの師匠」と呼ばれています。

 自身、作画や演出を手がけつつ、後進の指導にも精力的でした。とにかく絵がうまくて、しかも描くのが早かったといいます。人に教えるときは、描いてある絵に木上さんが線を描き足して違いを見せるなどし、そして一貫して、妥協を許さず、細部まで丁寧に描くことを伝えてこられたそうです。CGが主流になっても京アニでは、特に細かい部分は今でも手描きで行っているとか。それは「木上イズム」の伝承かもしれません。

 そうした技術を遺憾なく発揮する「環境」面の構築にも、京アニはいち早く取り組んでいます。

 アニメ界は描き手不足で、「1枚いくら」という出来高制度の報酬システムによる過酷な労働が問題となった時期もありました。しかし「京アニ」は早くから社員の最低賃金を保障し、福利厚生も整備しています。

 そのような環境でクリエイターは育ち、そして生まれたのが、『涼宮ハルヒの憂鬱』『らき☆すた』『けいおん』、そして『響け!ユーフォニアム』といった数々のヒット作ということになるのでしょう。

 京アニ作品の多くはそうした、おもに若者の日常を描いたものです。これが同年代のファンを惹き付けます。繊細で美しい作画を最大の武器とし、外部に制作を発注することをほぼせず、自社スタッフで作品を作り続けてきました。「京アニ」はアニメ制作会社の見本です。

* * *

『響け!ユーフォニアム3』キービジュアル (C)武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

「京アニ」の歴史を追いながら、愛される理由の初歩をおさらいしました。コアなファンは「これだけじゃ伝わらないぞ」と思うでしょう。ですから、とにかく何でも良いから「京アニ」作品をひとつ観てパッションを感じて欲しいと心から思います。繰り返します、何でもよいから観てください。

 2023年大みそかから2024年お正月にかけての年末年始、NHK Eテレでは、『響け!ユーフォニアム』シリーズの劇場4作品が4日連続で放送されます。各日午前11時5分より、地上波では初放送です。

 そして冒頭で触れたように、2024年4月には同局にて、ファン待望のTVシリーズ『響け!ユーフォニアム3』の放送が控えています。早くも、主人公「久美子」の「キレイ」な笑顔が目に浮かびます。

(石原久稔)

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