2023年末で終わった「テレホーダイ」 若い世代は知らない?「つながる」ことの苦労と喜び
マグミクス / 2024年1月13日 21時40分
■夜23時。夢の世界への扉を開く「接続音」を鳴らした
2023年12月31日に、NTTが固定電話利用者に提供していた割引サービス「テレホーダイ」が終了しました。「完全定額の常時接続」が存在しなかったインターネット普及期に、多くのユーザーが利用していた「テレホーダイ」は、もちろん若い世代では知らない人が多いでしょうし、実際に利用していた方の多くも、つい最近「サービス終了」が報じられるまではその存在を忘れていたのではないでしょうか。
かつて「テレホーダイ」でインターネットを楽しんでいた方ならば、ダイヤルアップの独特な接続音を覚えているでしょう。電話回線でモデムを介してインターネットへと接続する時にPCから聞こえてきたぎこちない電子音は、あの時代を生きてきた人間たちだけが知っている、「夢の世界」への扉を開く魔法の呪文だったのです。
「ピポパポパ ピ~ピョロロロ… ガーーーッ」
このダイヤルアップ接続音には、それぞれの音に意味があります。「ピポパピパ」という音は電話番号を発している音で、次の「ピーピョロロロ」は、自宅のモデムとプロパイダのモデムがやりとりをしながら最適なプロトコル(通信規約)を探している音になります。
最適なプロトコルが見つかったら、双方のモデムは使用可能な変調方式をリストアップし、互いが認識できるものを選んでから回線に適した接続速度を決定、最後の「ガーー」という部分では、データを送信し合って、他に適した変調方式が存在しないか確認、接続へと至る流れでした。
NTTの「テレホーダイ」自体は、1995年8月22日から2023年12月31日まで提供されていました。深夜の23時から翌朝8時までの時間帯に、あらかじめ指定した電話番号(ふたつまで指定可能)に対し、通話時間に関わらず料金が月極の一定料金で済む……というものです。インターネットの爆発的な普及が進むきっかけとなった「Windows95」の発売日が1995年8月24日だったため、合わせてサービスを開始したと思われます。
こうした「テレホーダイ」などの割引サービスを使わない場合、インターネットを長時間使用すると高額の通話料金が請求されるという時代でした。
ただし、当時のインターネットは、現代ほど便利で快適なものではありませんでした。初期の回線速度は300bps~1200bpsしかなく、技術が向上しても理論値で56Kbps~128Kbps程度がせいぜいでした。現代広く普及している光回線は、戸建てなら下り100~300Mbp程度なので、数百万分の一くらいの早さしかなかったのです。ネットで動画を見るなど「夢物語」でした。
それでも、当時の人びとが新たに踏み入れたネットの世界には、今まで体験したことがない楽しさがあふれかえっていたのです。
■「文字ベース」のインターネット文化が開花
初期のインターネットで重要だったのが、電子メールです。当時は遠距離での連絡手段は電話が中心だったため、同時に複数の人間に連絡でき、海外のユーザーとも気軽にやりとりできる電子メールは画期的な存在でした。
テキストの書き込みができる電子掲示板サイトも非常に人気がありました。ただしさまざまな話題に関する議論はしばしば罵り合いに発展することもしばしばで、そのまま「荒らし行為」へと移行することも珍しくはありませんでした。
当初の掲示板は縦方向に長くなってしまう仕様で、古い記事が下に行って探しにくくなるのが当たり前でした。この常識を覆したレッド型掲示板を採用した「あめぞうリンク」の登場は、当時のインターネットにとって非常に画期的な出来事だったと言えるでしょう。テキストを使って絵を描く「アスキーアート」文化は19世紀のタイプライター時代から存在していましたが、この時期に大きな発展を遂げています。
個人で制作したホームページも膨大な数があり、イラストや小説など多くの投稿が行われていました。ホームページ制作ソフトの「ホームページビルダー」や「Dreamweaver」を使い、独自のデザインを制作していた方も多かったのではないでしょうか。「ジオシティーズ」などの無料個人ホームページ開設サービスも広く利用されていましたが、2019年に「ジオシティーズ」がサービスを終了し、個人サイトの多くが失われたことが非常に惜しまれます。
インターネット普及期の思い出を語ればキリがありませんが、テレホーダイには「失敗談」も少なくありませんでした。利用を申し込んでから割引が適用されるまでには時間がかかることを知らずにすぐに使い始める、あるいはネットに夢中になって割引適用が終わる朝8時を過ぎても続けてしまうなどして、高額の電話料金を請求されることもありました。
また、テレホーダイが始まる23時から接続しようとすると回線が混んでつながりにくくなることもありました。そのため、23時になる数分前から接続するという「フライングアタック」もしばしば行われていました。スマホひとつで遠くにいる人と簡単につながることができる現代からは想像もできないでしょうが、当時は「つながれる」こと自体に非常に高い価値と感動があったのです。
そんなテレホーダイも、ISDNやADSLの普及により急速に利用者が減少し、ついに役目を終えました。それでも、かつてテレホーダイがもたらしてくれた喜びが「かけがえのない思い出」になっている方は多いのではないでしょうか。
(早川清一朗)
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