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『北斗の拳』「天帝編」のファルコとアインを通して我々は何を見せられたのか?

マグミクス / 2024年1月19日 7時10分

『北斗の拳』「天帝編」のファルコとアインを通して我々は何を見せられたのか?

■武論尊先生も「覚えてない」という「天帝編」

 マンガ『北斗の拳』第136話「さらば強敵よ!の巻」において、最強の強敵(とも)である「拳王」こと「ラオウ」が、「ケンシロウ」との激闘を繰り広げた末に最期を迎えた場面は、多くの読者が最終回のような充実感と満足感を味わったことでしょう。しかし、物語は続きました。原作者の武論尊先生も「覚えてない」という「天帝編」で、我々は何を見せられたのでしょうか。

「天帝編」は、端的にいえば「アインとファルコの物語」でした。北斗神拳の伝承者であるケンシロウが成長する物語は、すでにラオウを倒した時点で終わっています。もはや最強の男になったケンシロウの物語を続けていくにはどうすればいいのか。そこで活躍したのが「アイン」と「ファルコ」だったのです。

 それまでケンシロウは、多くの強敵たちと激しく戦って「強さ」を競ってきました。強敵たちはいずれも印象的な死にざまを見せています。ケンシロウは彼らの死を背負って生き続けることで最強の存在になったといえるでしょう。そこに現れたのがアイン、そしてファルコです。彼らは、これまでの強敵たちとは異なる役割を与えられていました。

元斗皇拳伝承者のファルコ。第155話「地獄での再会!の巻」より

●いつも迷っている男・ファルコ

 ファルコは「天帝」に仕える将軍であり、「元斗皇拳」の伝承者です。北斗神拳も元斗皇拳も天帝を守護する拳法であり、元斗皇拳は北斗神拳を凌ぐともいわれていました。つまり、ファルコの格はケンシロウやラオウと互角、もしくは上となります。それはたとえばファルコがかつてラオウと遭遇した際、村を守るため片足を差し出したファルコに対し、ラオウは何もせず立ち去ったというエピソードからもうかがえるものです。

 しかし、ファルコは強さを誇るだけの男ではありませんでした。天帝の兵士たちと戦うケンシロウは、ファルコの部下たちが純粋な目をしているのに気がつきます。彼らはファルコを慕い、絶大な信頼を寄せていました。「おれたちはファルコ様のためならいつでも死ねる!!」の言葉どおり、兵士たちは身を挺して「ハーン兄弟」の決死の自爆からファルコを守ったほどです。部下からの信頼の厚さは『北斗の拳』随一といっていいでしょう。また、盟友である「ショウキ」、自分のために尽くしてくれる「ミュウ」にも優しさを見せています。

 ファルコは非情な決断のできない男でもありました。かつてラオウに「ジャコウ」を殺すよう言われていましたが、情によって殺すことができませんでした。同じように、天帝の双子の姉妹だった「リン」を殺すことができずに逃がしています。その結果、ジャコウは悪徳の限りを尽くし、リンは北斗の側について天帝側と対立を深めることになりました。ファルコの甘さが混乱と混沌を招いたのです。

 優しさがあって、人を思う気持ちがあって、いつも迷っている男、それがファルコでした。ケンシロウはファルコと戦ったとき、ラオウと戦ったときのような極限の技も出していなければ、怒りも燃やしていません。それどころか、ファルコと同じように自分の片足を封じて戦っていました。つまり、ケンシロウにとってファルコは倒さなければいけなかった相手ではありますが、強さを競う相手ではなかったということです。

 ファルコは拳法家としては強いはずなのに、人間らしい弱さを持った男だったと言えるでしょう。しかし、そんな男が、使命のために最強の男と戦おうとする。そこに「天帝編」の、ひとつのドラマがありました。

■「おれも男になりたくなったのさ 語りつがれる男にな!!」

『北斗』の世界の「その後」を切り拓いた、アイン渾身の一撃。第158話「アスカとの約束!の巻」より

●成長していく男・アイン

 もうひとりの男、賞金稼ぎのアインは、いわゆる拳法家ではありません。彼が信じているのは己の拳のみ。得意なのはステゴロ(素手でケンカをする、の意)のケンカ殺法です。チンピラなどには無類の強さを発揮しましたが、ラオウを倒して最強の男になったケンシロウの敵ではありません。戦いを挑むも、あっという間に敗れ去りました。

 ケンシロウがアインにとどめを刺さなかったのは、彼に大切な「女」がいることを知ったからです。その女、「アスカ」は幼いアインの“娘”でした(アニメ版では恩人の娘という設定になっていました)。

 ケンシロウに敗北した後、アインの内面が大きく変化していきます。きっかけは「バット」との出会いでした。バットの「自分の好きなやつのために世の中を変えてやる」という言葉が、刹那的な生き方をしていたアインの胸に強く響いたのです。「おれも男になりたくなったのさ 語りつがれる男にな!!」と口にするアインは、バットたち北斗の軍と共闘するようになります。いつしかふたりには友情のようなものが芽生えていました。

 天帝軍との最後の戦いの中で、バットと行動をともにしたアインは天帝「ルイ」を発見します。そして崩落してきた巨大な岩をひとりで支えて、バットやリン、ルイたちを救いました。さらに瀕死になりながらも得意のゲンコツで岩盤を砕き、地下水を噴出させて窮地を脱し、これが結果的にジャコウの攻撃を阻止しケンシロウとファルコも助けることになりましたが、ここでアイン自身は絶命してしまいます。文字通りアインがいなければ、『北斗の拳』の世界はどうなっていたかわかりません。それほどの大活躍ぶりでした。

 アインに関するエピソードでは、バットとの友情、仲間を救おうとする努力、仲間の救出に成功するという勝利、そしてアスカへの愛が描かれています。「友情・努力・勝利」は『少年ジャンプ』の三大原則として知られていますが、アインはそれらをすべて備えていました。

 なによりも大切なのは、アインの成長が描かれていたことです。最初はアスカのためだけに戦っていた男が、いつしか世の中全体のため、未来のために戦うようになっていました。これは大きな人間的成長です。ラオウとの決着まではケンシロウの成長が描かれていましたが、天帝編はアインの成長を描く物語だったといえるでしょう。

 血湧き肉躍るそれまでの拳法家たちとはひと味違うキャラクターだったファルコとアインの登場によって、『北斗の拳』の世界は少しだけ奥行きを増したのです。

アインは最期まで「コレ(アスカ)」のために生きた。第159話「武人の涙!!の巻」より

 ちなみにファルコのモデルは映画『ロッキー4』でドルフ・ラングレンが演じたソ連のボクサー「ドラコ」だと、原哲夫先生が認めています。ならばアインのモデルは同作でシルベスター・スタローンが演じた「ロッキー」でしょう(顔はエルヴィス・プレスリーでしたが、拳が武器なのと星条旗をあしらった服装はロッキー風です)。ドラコは戦いの中で迷いが生じる男、ロッキーはシリーズを通じて成長していく男として描かれていました。

* * *

 2024年1月19日(金)、『北斗の拳』40周年を記念しコアミックスより刊行が開始されたコミックス『新装版』の、第11巻と第12巻が発売されました。毎月20日に2冊ずつ発売される予定で、各巻の収録話は10年前に刊行された「究極版」と同じです。

 またコアミックスのマンガ配信サイト「WEBゼノン編集部」の『金曜ドラマ 北斗の拳』にて、その刊行にあわせ、一介の賞金稼ぎであったアインが「漢」となる一歩を踏み出す第143話「反逆の蒼き狼たち!の巻」と第144話「あえて賞金首に!の巻」を、2024年1月19日(金)0時から同年2月1日(木)23時59分までの期間、無料で公開しています。

(C)武論尊・原哲夫/コアミックス 1983

(大山くまお)

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