アナハイムが「ガンダム」を開発するワケ 連邦の秘密兵器はなぜ民間企業に託された?
マグミクス / 2024年1月24日 6時10分
![アナハイムが「ガンダム」を開発するワケ 連邦の秘密兵器はなぜ民間企業に託された?](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_209011_0-small.jpg)
■「一年戦争」時はガンダム開発に参加していなかったって知ってた?
「アナハイム・エレクトロニクス」とは、アニメ『機動戦士Zガンダム』より登場した超巨大企業で、化粧品や自転車といった民需品から、巨大なスペースコロニーや宇宙艦艇まで幅広く手掛けています。
もちろん、物語の主役メカというべき、巨大人型兵器「モビルスーツ(MS)」も多数、開発および製造してきました。『Zガンダム』での初登場以降、アナハイムは「Zガンダム」「ZZガンダム」「ν(ニュー)ガンダム」など、「ガンダム」タイプのMSを多数、開発しています。
『Z』より後に発表されたアニメ『機動戦士ガンダム0083』では、宇宙世紀0087年を舞台とする『Z』より前の、宇宙世紀0083年ごろに開発された「試作ガンダム」たちもアナハイムの設計ということになっており、アナハイムの代表的なMSは「ガンダム」といえるほど「ガンダム」開発に深く関わっている企業といえるでしょう。
しかし、初代「ガンダム」である「RX-78」は、実はアナハイム製ではありません(パラレルワールドである『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』では、テム・レイがアナハイムの技術者という設定なので、そちらでは初代「ガンダム」もアナハイム製である可能性があります)。
初代「ガンダム」は、地球連邦軍の最高機密兵器開発計画「V作戦」で開発された白兵戦用MSであり、その開発は地球連邦軍内で行われています。V作戦のMS母艦である「ホワイトベース」も、地球上の南米に位置する地球連邦軍本部「ジャブロー」で建造されていますから、月の大企業であるアナハイムは関与していないと考えるのが自然です。
初代「ガンダム」の開発者であるテム・レイも、設計作業をスペースコロニー群「サイド7」で行っている描写があります。「サイド7」は、地球から見て月の真反対(のラグランジュポイント)に位置しており、つまり月から一番遠い位置にありますから、そこでアナハイムが関わっている可能性は低いでしょう。
なお「機動戦士ガンダム公式設定集 アナハイム・ジャーナル U.C.0083-0099」(メディアミックス書籍部 著、KADOKAWA)には、「アナハイムのMS開発は宇宙世紀0079年ごろから始まり、当初はジオン軍にも連邦軍のジムにも遅れを取っていた」「一年戦争が終わると、アナハイムのボスであるメラニー・ヒュー・カーバインが、ジオンのMS開発を主導するジオニック社と、V作戦に関わったハービック社を買収し、連邦とジオンの技術の双方を入手した」旨が書かれています。
マンガ『機動戦士ガンダム MSV-R ジョニー・ライデンの帰還』(著:Ark Performance/メカニックデザイン:大河原邦男/原作:富野由悠季/原案:矢立肇/角川コミックス・エース)では、連邦政府とアナハイムが半分ずつ「ジオニック」社を買収したともあり、いずれにせよ宇宙世紀0080年ごろにアナハイムが「ガンダム」を開発できるほどの技術力を取得したのは間違いなさそうです。
そして「アナハイム・ジャーナル」には、アナハイムの技術者「カイリー・ジョンソン」による「MSは人体に近いほど、その真価を発揮でき、初代ガンダムは理想的なMSとして敬意を持ち、目標とした」との記述があり、それが「アナハイムが『ガンダム』を開発したい理由」といえるでしょう。
一方、地球連邦軍は宇宙世紀0080年ごろから、「コーウェン」将軍による「ガンダム開発計画」で、アナハイムに「ガンダム」を開発させようとします。
軍事機密である「ガンダム」を、それまで開発に携わってもいない民間企業、しかも元ジオニック社の、旧ジオン公国出身技術者が多数在籍しており、ジオン側に「ガンダム」の技術が流出する可能性も考えられるアナハイムに任せるというのは、かなり思い切った決断です。
これには、いくつも理由があると考えられます。
■なぜ連邦はアナハイムに「ガンダム」開発を任せたのか?
BANDAI SPIRITS「HG 1/144 RX-93 ニューガンダム」 (C)創通・サンライズ
連邦がアナハイムに「ガンダム」開発を任せた、考えられる理由のひとつは、「地球連邦政府にお金がなかったこと」が考えられるでしょう。「一年戦争」は甚大な被害を出しており、ジオン残党が脅威といっても、「新型ガンダムとその母艦」の開発にかかるであろう莫大な予算や人員を、連邦単独でまかなうことは難しかったのではないでしょうか。
もうひとつは「アナハイムを監視するいい口実となる」ということが挙げられます。「ガンダム」開発計画である以上、連邦側から多くの人員や資料がアナハイムに送られます。それらは、ジオニック社(とハービック社)を吸収したアナハイムが、ジオン側と癒着していないかチェックする役目も負っていたのでしょう。
そして、アナハイムがプレゼンテーションしてきた、「新型ガンダム」の性能は、連邦軍単独で開発した「ガンダム」タイプのMS(例えば「ガンダムNT-1 アレックス」)と比較しても優位性が認められた、という辺りもあるのだと思われます。
また「アナハイムを無視してのシステム開発が難しい」という現実もあったのでしょう。アニメ『機動戦士ガンダム0080』の中で、ジオン公国軍のパイロット「バーニィ」は、撃墜された連邦軍の量産型MS「ジム」の部品で、ジオン公国軍の同じく量産型MS「ザクII」を修理していました。両者の使用部品にはある程度の互換性があるということですし、両軍のMSを含めて、この時代で量産される工業製品に「化粧品からスペース・コロニーまで手掛ける」巨大企業アナハイムの規格や製品が関わっていないとは考えられません。
ただこうした利点を考えても、連邦にとってアナハイムに「ガンダム」の開発をさせることは、安全保障上のリスクが大きいことではあります。
そうした理由からか、ティターンズは宇宙世紀0085年に「連邦系技術者だけで、新型『ガンダム』を開発する計画」を立て、それが「ガンダムMk-II」となります。
この「ガンダムMk-II」は、恐らくは『機動戦士ガンダム0083』に登場した各種試作ガンダムの開発データもフィードバックされているのでしょう。アナハイムから技術を取得できることは「アナハイムと組んだメリット」であるけれども、安全保障上、自主開発したいということだと思われます。
なお、開発者であるカミーユの父「フランクリン・ビダン」は「ガンダムMk-II」の性能に満足しておらず、アナハイムの技術で「γ(ガンマ)ガンダム」として作られた「リック・ディアス」に強い興味を示していました。実際、「ガンダムMk-II」の性能は、同時期に木星帰りの天才である「シロッコ」が設計した可変MS「メッサーラ」と比べてもかなり劣っていましたから、「連邦系だけの技術」でのMS開発には限度があると、現場では認識していたのでしょう。
それが、ジオン系MSにしか見えない外見の「マラサイ」を、ジオン狩り部隊であるティターンズが新鋭機として導入するという、不思議な事象に繋がったのかもしれません。
(安藤昌季)
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