意外と多い? 原作者が「激怒」したマンガの実写ドラマ 「作品を守る」行動を起こした作家も
マグミクス / 2024年2月2日 17時10分
■「クソみたいな会社」「最悪の年」……いったい何が?
マンガを原作にした映画やドラマは星の数ほど存在します。アメリカやヨーロッパや韓国やインドなどに比べても、日本の実写映画・ドラマはマンガの原作が多いように感じられます。それだけ日本のマンガが優れているということでしょう。
なかには成功作もありますが、作品完成の前後にトラブルが発生し、原作者が怒ってしまうケースも少なくありません。過去にどのようなトラブルがあったのか、あらためて振り返ってみましょう。
●『海猿』
佐藤秀峰先生の原作マンガ(原案・取材:小森陽一)を、NHKが二度ドラマ化した後、フジテレビが『海猿 ウミザル』(04年)として映画化、続いてドラマ『海猿 UMIZARU EVOLUTION』(06年)を制作しました。その後も映画化が続き、10年の3作目は興収80億円、11年の4作目は興収73.3億円のメガヒットを記録しています。
ところが、佐藤先生はフジテレビがアポイントもなく自身の事務所に突撃取材を行ったこと、抗議への対応が納得のいくものではなかったこと、さらに『海猿』関連書籍を契約の締結なしに販売していたことを理由に、同作の続編制作を許可しないことを発表しました。
佐藤先生は2017年に自身のTwitter(現:X)で、実写版に関するすべての契約が終わり、今後テレビやネットで放送・配信されることはないと報告しています。2024年2月2日にはnoteを更新し、出来上がった映画について「クソ映画でした。僕が漫画で描きたかったこととはまったく違いました」「しかし、当時はそうした感想を漏らすことはしませんでした」と綴り、「人間の醜い面を散々見せつけられた」「もう無理だな」と契約更新に応じなかったことを明かしています。
●『おせん』
きくち正太先生の『おせん』も、ドラマ化によって起こったトラブルが知られています。日本テレビによって2008年にドラマ化されましたが、きくち先生は「原作とのあまりの相違にショックを受けたために創作活動をおこなえない」として連載を中断してしまいました。最終巻となった第16巻には「2008年は最悪の年だった。」「おせんのドラマ化にかかわった様々な人達の中のごくごく一部の人間に心から言いたい。」「真っ当であって下さい。」と記しています。
おせん役の蒼井優さんがきくち先生のイメージと異なっていたこと、内博貴さん演じる江崎ヨシ夫の役柄が変更されてクローズアップされていたことなどが原因ではないかと推察されます。ドラマの現場も混乱していたのか、最終回は刺身にも何でもケチャップをかけてしまう子どもが登場しましたが、特に何もなく、そのまま終わってしまいました。
その後、きくち先生は2009年に『おせん 真っ当を受け継ぎ繋ぐ。』というタイトルで連載を再開。2022年からは『-おせん-和な女』というタイトルの続編が始まりました。作品自体が終わってしまわなかったのは、幸いだったと言えるでしょう。
●『いいひと。』
草なぎ剛さん主演でドラマ化された『いいひと。』(1997年)は、ドラマ化が原因で原作の連載が終了してしまいました。原作者の高橋しん先生は、「終了を決めた直接のきっかけは、テレビドラマ化でした」と明言しています。制作した関西テレビ・共同テレビに伝えたドラマ化の条件のなかに「ゆーじと妙子だけは変えないこと」という一文があったにもかかわらず、ゆーじの設定が変えられてしまったことが原因でした。当初、「原作」だったクレジットは途中から「原案」に変更されています。
「私は、もうこれ以上わたし以外の誰にも変えられずに、読者の方々の中の『いいひと。』を守ること、そして同時に多くの読者の方に悲しい思いをさせてしまった、その漫画家としての責任として私の生活の収入源を止めること、その二つを考え連載を終了させようと思いました」と記しています([しんプレ!]on the web. 平成10年11月20日)。自身の作品を守ろうとする行動だとわかります。
■超大御所たちも実写化に怒り心頭
原作者のクレジットが放送途中に「原作」から「原案」に変わった、ドラマ『生徒諸君!』DVD-BOX(TCエンタテインメント)
●『生徒諸君!』
庄司陽子先生の『生徒諸君!教師編』をテレビ朝日でドラマ化した『生徒諸君!』(2007年)も、第4話までは「原作」とクレジットされていましたが、第5話からは「原案」に変更されました。詳細はわかりませんが、何らかのトラブルがあったものと推察されます。
原因として、ドラマの雰囲気が全体的に暗かったこと、生徒役の堀北真希さんが性加害を受ける場面があるなど、原作より設定がハードになっていたことなどが挙げられていますが、真相は不明です。本作には生徒役でブレイク前の岡田将生さん、本郷奏多さん、仲野太賀さんらが出演していました。
●『八神くんの家庭の事情』
楠桂先生の『八神くんの家庭の事情』が1994年に国分太一さん主演、テレビ朝日でドラマ化されたときも、楠先生のクレジットは「原作」から「原案」に変えられています。
原作では体質のせいで息子より年下に見える母親を、ドラマでは年相応のルックスの夏木マリさんが演じ、しかも魔女という設定が付け加えられていました。楠先生はX(旧:Twitter)に「途中で観るのもやめたから最終回も知らない」と投稿しています(2024年1月27日)。
●『のだめカンタービレ』
二ノ宮知子先生の『のだめカンタービレ』は、上野樹里さんと玉木宏さんが主演したフジテレビ版(2006年)がよく知られていますが、実は2005年にTBSで放送される予定でした。しかし、主人公を岡田准一さん演じる千秋に改変し、主題歌をクラシックではなく岡田さんが所属するV6の曲にする予定でした。このことに二ノ宮先生が難色を示し、撮影直前にドラマ化が白紙撤回されたそうです。脚本も原作とはかけ離れた内容だったと言われています(『サイゾー』2005年11月号)。
二ノ宮先生は1999年に『天才ファミリー・カンパニー』がテレビ朝日でドラマ化されたことがあります。ジャニーズJr.時代の二宮和也さんと渋谷すばるさんが主演、『あぶない放課後』というタイトルに変えられた上、登場人物の設定もストーリーも変えられていました(大阪出身の渋谷さんに合わせて関西弁を話す設定になっていました)。二ノ宮先生は、このときの経験を生かして自作を守ったのかもしれません。
●『orange』
高野苺先生の『orange』が映画化されたのは2015年のこと。主演は土屋太鳳さんと山崎賢人さんでした。ところが高野先生は公開直前、「orangeの実写映画ですが、私は観ないことにしました…色々辛いことがあり、観る勇気が出ないので。観たら感想言うと言ったけど申し訳ないです」とTwitterで告白します。高野先生はそれ以前にも「自分が納得するまではOKは出さないという思いなので、もし映画が読者の皆さんに納得いかない場合は私の責任だとそんな心構えでいます」と記していました。
後にキャストには不満がないとした上で、「みんなキャラにピッタリで観るのを楽しみにしていたけど、こんな苦しい選択をしてしまうことになり、すごく申し訳ない気持ちでいっぱいです」と記し、アカウントを削除してしまいます(東スポWEB 2015年11月23日)。具体的にどのようなことがあったのかはわからないものの、文面からは制作過程で苦しい経験をしてきたことがうかがい知れます。
■半世紀前にもあった「原作者激怒」
高野苺先生の原作マンガを映画化した『orange』DVD(東映)は、経緯は明らかではないが原作者が複雑な心中を吐露しており、制作過程でのトラブルが推測されている
●『ワタリ』
マンガ家が実写化に対して怒るのは最近のことだけではありません。今から58年前の1966年、『大忍術映画ワタリ』を試写で観た原作者の白土三平先生は、「こんな映画を上映させるわけにはいかねぇ!!」と激昂し、席を立ってしまいました。
白土先生は自作に込めたメッセージが蔑ろにされ、子ども向けの忍者映画にされたことが許せなかったようです。映画はそのまま公開されましたが、白土先生は東映と縁を切ってしまいました。
●『ゴルゴ13』
大御所の男性マンガ家も実写化には腹を立てています。さいとうたかを先生は1973年に『ゴルゴ13』が映画化される際、「オール海外ロケ」「主演は高倉健」という要求を出して受け入れられましたが、自身が綿密に書いた脚本はまったく使われませんでした。後にインタビューで不満を漏らしています。
●『YAWARA!』
浦沢直樹先生の『YAWARA!』が1989年に実写映画化されるときにもトラブルがありました。浦沢先生は出来上がった脚本に異を唱え、3日も徹夜して自分で全部書き直してしまいました。
プロデューサーは「これ、使わせていただきます!」と脚本を持っていきましたが、浦沢先生が試写会で完成した作品を観たところ、自分で書いた脚本は1行も使われていませんでした。浦沢先生は「怒り心頭に発しまして、記者会見を全部ボイコットしました」と振り返っています(『X年後の関係者たち あのムーブメントの舞台裏』より)。
もちろん、マンガを映画やドラマに実写化する際、まったく原作から変えていけないわけではありません。主人公の性別を変えてしまっても、成功する作品は存在します。
ただし、実写化の作り手は、マンガの作り手である原作者と原作マンガ、原作マンガのファンに敬意を払い、しかるべき手続きを踏まえ、変更する点があるなら了承を取りつつ、実写化の作業を進めていくべきなのです。
浦沢先生はマンガ家が実写化に深く携わらないことについて、「マンガ家が忙しすぎる」「大人しい方が多い」と答えていました。それならば、出版社やマンガ家のエージェントが交渉を代行する方法もあるでしょう。どちらにしても、原作と原作者への敬意を欠いた実写化作品が成功できるという時代は、すでに終わったのかもしれません。
(大山くまお)
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