任天堂「スイッチ後継機」につきまとう「Wii Uの二の舞い」不安 新ハード襲った三重苦
マグミクス / 2024年2月10日 7時50分
■Wii Uを苦しめた3つの問題
時代によって、脚光を浴びるゲーム機は常に移り変わってきました。ここ数年は、特にNintendo Switch(以下、スイッチ)が注目を集めており、その存在感は他を圧倒するほどです。
そんなスイッチも、今年の3月で7周年を迎えます。後を引き継ぐ次世代機、いわゆる「スイッチ後継機」が発表されてもおかしくない時期です。そのためSNSでは、スイッチ後継機への期待や要望の声などが飛び交っています。
絶好調のスイッチに続く形となるので、後継機への期待が高まるのも当然の話でしょう。ですが、一部のユーザーからは「Wii Uの二の舞い」を心配する意見も上がっています。
Wii Uは、一大ブームを巻き起こしたWiiの後継機として、 2012年末に登場しました。しかしWiiの時代と比べて失速し、本体の販売台数は1356万台止まり。その販売規模は、Wiiの約1/10程度に落ち込んでしまいました。
絶好調の前世代機と、波に乗れなかった後継機。このWiiとWii Uの関係を、スイッチとまだ見ぬ後継機になぞらえ、その二の舞を危惧しているのです。
果たしてスイッチ後継機は、Wii Uが味わった悲劇を繰り返す可能性があるのでしょうか。Wii Uが辿(たど)った「つまずき」を振り返ります。
●Wiiの成功を引き継げなかったWii U
Wiiが成功した理由はいくつもありますが、最も大きかったのは、それまであまりゲームに触れていなかったカジュアル層を取り込んだ点です。家族で遊びやすいラインナップ、価格を抑えて買いやすくしたこと、TVのリモコンのような操作感が馴染みやすいWiiリモコンの存在などが、ユーザーの拡大を後押ししました。
このカジュアル層をそのままWii Uに引き継げれば素晴らしかったのですが、それは絵に描いた餅で終わってしまいます。その理由はいくつかありますが、「Wii Uが欲しい!」とカジュアル層に訴求できなかったのが要因でしょう。
親子や孫と遊べるようなパーティゲームは、Wii Uにももちろんありました。しかし、多人数で遊べるゲームがWiiにあるなら、それで十分と考える人もいます。ゲーマーなら、既存作と新作の違いをチェックし、その魅力を知ったうえで判断しますが、カジュアル層はそこまで熱心に調べません。調べないから分からず、分からないなら買う理由がない。ごく当たり前の話です。
使用するコントローラーが、ディスプレイと一体化した「Wii U GamePad」に変更されたのも、カジュアル層にはマイナス要因でした。Wiiリモコンは直感的で分かりやすかったのに、Wii U GamePadはボタンの数も多く、レバーで操作する従来のコントローラーに近いもの。ゲーマーなら何の問題もありませんが、慣れていないカジュアル層には荷が重いデバイスです。また、物理的に重いのも不評に繋がりました。
価格も、「ベーシックセット」なら発売当初のWiiと同程度でしたが、内蔵するフラッシュメモリの容量が大きい「プレミアムセット」は5000円ほど高め。気軽に遊ぶならベーシックセットで十分ですが、その違いもカジュアル層には分かりにくく、尻込みする一因になったのかもしれません。
こまごまとした理由を連ねましたが、端的に説明するなら「Wii Uの魅力を、カジュアル層に伝えきれなかった」というのがシンプルな答えかもしれません。その結果、「よく分からないし、Wiiで十分」と思わせ、購買意欲に火をつけることができなかったのです。
■Wii Uを襲った、数々の悲劇
Wii Uの2画面を巧みに使った『ゾンビU』。しかし、ヒットには至らなかった
●「2画面構成」という個性を活かしきれず
任天堂が開発するゲーム機は、その多くが特徴的な要素を持ち、独自の遊びを提供します。Wiiの場合、前述したWiiリモコンが革新的で、カジュアル層の取り込みに大きく貢献しました。
ゲームコントローラーを苦も無く扱えるのは、ゲーマーとしての経験があってこそ。初めて触れる場合、上手く扱えない方が一般的でしょう。慣れてないデバイスだと、操作するのも一苦労。そんな状態でゲームを遊んでも、満足に楽しめません。
しかしWiiリモコンは、TVなどのリモコンとほぼ同じ持ち方なので、ゲーム慣れしていない人でも容易くフィットします。また、Wiiリモコンによる操作は視覚的なので分かりやすく、馴染みやすいという利点もありました。
このユニークなコントローラーをゲームプレイに活かした作品はいくつもあり、腕の動きと同じように剣を振る『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』では優れた一体感が味わえました。また、槍や弓の動きまでなぞらえる『斬撃のレギンレイヴ』は、コアなユーザーすら虜(とりこ)としたほどです。
一方、Wii Uの特徴的な点と言えば、こちらもWii U GamePadの存在にあります。TVと手元の2画面を同時に使用できるほか、対応しているゲームであれば、TVがなくとも手元の画面だけで遊ぶことが可能でした。
単なる2画面構成だけなら、任天堂の携帯ゲーム機「ニンテンドーDS」や、ファミコン以前にブームを起こした「ゲーム&ウォッチ」などがありました。しかし、誰もが見られるTV画面で情報量を絞り、持っている人しか見られないWii U GamePadの画面では情報量を増やし、非対称型の対戦ゲームに仕上げた『ルイージのゴーストマンション』(『Nintendo Land』に収録)は、まさにWii Uならではの作品でした。
このほかにも、TV画面で周囲の状況を描き、Wii U GamePadの画面でマップやアイテムの合成などを行う『ゾンビU』も、Wii Uの魅力を存分に引き出しています。マップの確認やアイテムなどをチェックしていると、視線は自ずとWii U GamePadに釘付けとなりますが、その間にTV画面ではゾンビが近づいていて……といった、サバイバルホラーならではの恐ろしさをゲーム性に落とし込めたのは、Wii U GamePadがあってこそと言えます。
しかし、Wii Uの特徴を活かしたゲームは、あまり世に広まりませんでした。2画面構成の魅力をうまく伝えられなかったのか、それともユーザーが望んでいなかったのか。2画面を巧みに使いこなした作品は少なく、活かしきれなかった印象が拭えません。
●任天堂のゲームばかり売れる、という問題点
Wiiの時代には、数多くのヒット作が誕生しました。例えば、『マリオカートWii』が3738万本を売り上げたほか、『Wii Sports Resort』が3314万本、『New スーパーマリオブラザーズ Wii』も3032万本と、3000万本を超えるヒット作を連発。また、『Wii Fit』と『Wii Fit Plus』がそれぞれ2000万本を突破し、『大乱闘スマッシュブラザーズX』も1332万本と好調な売れ行きを見せました。
対するWii Uは、ヒット作が生まれなかったのか……と言えば、そんなことはありません。『マリオカート8』の846万本を筆頭に、『スーパーマリオ 3Dワールド』589万本に、『New スーパーマリオブラザーズ U』582万本、『大乱闘スマッシュブラザーズ for Wii U』538万本と、さまざまなヒット作が当時話題となりました。
販売本数に違いがあるのは、ゲーム機自体の普及数が違うため。販売台数が10倍ほどの差がある状況を前提に考えれば、むしろ健闘していると言っていいほどです。
ここで取り上げる問題点は、売れた数ではありません。ここで名前を挙げたのは、いずれも任天堂が開発したり、発売元になったゲームばかり。つまり、「任天堂のゲームソフトは売れるが、他社のゲームは売れない」という問題があったのです。
この問題に限っては、実はWiiも同じ落とし穴にハマってます。『モンスターハンター3(トライ)』や『太鼓の達人Wii』などもヒットしましたが、売り上げの上位はほとんど任天堂のゲームばかりです。
これはWii Uの時代でも大きく変化はせず、他社による大ヒット作品は限定的。ソフトメーカーにとって、決して嬉しい事態ではないでしょう。
ヒット作を連発できるのは任天堂の強みですが、結果的にほかのゲームが霞んでしまう場合もあります。こうした状況では、ソフトメーカーが消極的になるのも当然です。任天堂1社で販売のラインナップを埋め尽くせない以上、他社の消極姿勢はゲーム機の活気を削ぐ大きなマイナス要因となります。
* * *
カジュアル層を取り込めず、特徴的な要素を活かしきれず、任天堂以外のソフトが伸び悩む。Wii Uは、そんな三重苦を背負ったゲーム機でした。魅力的なソフトもあっただけに、それが広く知られないもどかしさは、Wii Uユーザーなら誰もが味わった感覚でしょう。
スイッチは現在、Wiiをも上回る好調ぶりです。そのため、後継機にも大きな期待が集まっています。しかし、Wii Uが見せた「つまずき」に、後継機が足を取られる可能性も否定しきれません。
(臥待)
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