『ドラクエ2』最初からサマルトリア王子が最強だったら? 苦労が報われる「脳内ストーリー」の結末
マグミクス / 2024年2月14日 21時50分
■ひとりが最強でもすぐ窮地に陥る「ふしぎなおどり」
1987年1月26日にファミコンで発売されたRPG『ドラゴンクエストII 悪霊の神々』の「誕生日」を記念して、弱いことで有名だった「サマルトリアの王子」を主役とした「なりきりプレイ」を3回にわたってお伝えしてきました。
前回は「サマルトリアの王子カインだけを最高レベル45まで育て、満月の塔をクリアして『つきのかけら』を手に入れた」ところまでプレイしました。3人の仲間の実力差が激しい状態でスタートした冒険も、終わりに近づいています。
RPGなので、プレイヤーの数だけ物語があります。ストーリーのおさらいを兼ねて、筆者の脳内ストーリーを書いていきます。
* * *
僕はカイン。サマルトリアの王子で、勇者ロトの子孫だ。僕に向けられたハーゴンの呪いを代わりに受けた、ローレシアの王子アスアを救うために「呪いを受け付けない究極の強さ」を身につけ、ハーゴンの呪いからアスアを解放。続いて、ムーンブルクの王女マリアも「ラーの鏡」によって呪いを解いた。
港町ルプガナで船を手に入れた僕は、グレムリンから助けた長老ペンドルの娘・クリスに好意を持たれる。クリスからの政略結婚の申し出に驚きつつ、「今は考えられない」と断った。
難破した船の財宝を探しに海に出た僕たち。アスアが海に潜っている時に、マリアが話しかけてくる。
「本当のカインはあんなに優しいのに、いつもアスアには心を鬼にして、厳しいことを言っていますよね」
というマリア。僕はアスアに厳しくしている理由を話す。勇者ロトの伝説の装具がなければ、大神官ハーゴンは倒せないこと。そして装具は僕を認めていないため、アスアが強くなるしかないことを説いた。
マリアは僕を無理に擁護しようとする。理由を聞くと「アスアが世界を救う勇者でも、わたしの勇者はカインだからです」と答え、愛する想いを告げられる。
僕はマリアはアスアの婚約者だから、僕と結ばれることはないと知っていた。でも、自分と同じ想いだったことに幸せと悲しみを感じつつ、僕たちは距離を取ろうとする。僕たちは冒険を進め、紋章を集めて、月の欠片を手に入れた。
次に目指すは、邪神の像があるという「海底の洞窟」だ。
* * *
というわけで「つきのかけら」を使って「海底の洞窟」に入って、攻略を開始します。溶岩がダメージ床になっているのですが、カインの「トラマナ」でも打ち消せません。
「あくまのめだま」が複数出現し、仲間を呼ぶブラッドハンドとコンビを組んでいるのが厄介です。「ふしぎなおどり」を連発され、たった1戦で160あったカインのMPが46に。マリアのMPも78から56に減り、30年以上前にプレイしたさいの絶望を思い出します。
洞窟内には複数の兵士がいました。「つきのかけら」がないと入れない迷宮に、どうやって入って生活しているんだろう……。
戦闘は厳しいですが、最高レベルのカインが「はやぶさのけん」で2体ずつ魔物を減らし、アスアも「ひかりのつるぎ」で1体ずつ減らせるようになっているので、MPがなくても先に進めます。でも「キラータイガー」3体がマリアを集中攻撃して、1ターンで60以上HPを削ってきます。『ドラクエ2』は「すばやさ」がほとんど行動準に影響しないので、こちらの行動が後になることも多く、防ぎようがありません。
最強防具「みずのはごろも」を装備させていても、マリアのHPは常時最大に維持せざるを得ないため、道具で回復呪文「ベホイミ」が使える「ちからのたて」はとても重宝します。さらに「罠のある宝箱」などでも削られて、カインのMPは12、マリアは31まで減り、ボスである「じごくのつかい」戦になりますが、そこはほぼ苦戦せずに倒し「じゃしんのぞう」を手に入れます。
■「伝説の」武器防具の力は永遠ではない?
ロンダルギアへの洞窟で、ロトの伝説の装具や、「稲妻の剣」を入手する
ロンダルギアへの洞窟を開き、最後の紋章である「いのちのもんしょう」を手に入れ、ついでに「ロトのよろい」と「いなずまのけん」を取りに行きます。
というところで、脳内ストーリーを。
* * *
「俺の城から盗まれた伝説の装具……こんなところにあったとはな」
アスアが、宝箱から出てきた鎧に手を差し伸べた。大魔王ゾーマや、竜王と戦った勇者が身につけた伝説の装具「ロトの鎧」だ。ローレシア城の宝物庫にあった宝箱を、大神官ハーゴンの側近である悪魔神官が盗み出したが、盗んだ後で聖なる力によるダメージで動けなくなっていた所を捕虜にして、そのまま地下牢に放り込んだことは聞いていた。
それ以来、行方不明になっていた鎧だ。
アスアはガイアの鎧を脱ぐと、ロトの鎧を装備する。その伝説から舞い降りたような姿を見て「伝説の装具に選ばれるのが勇者」なのだと、僕は改めて実感した。
「カイン……もしかして、伝説の装具を付けられるから、俺が真の勇者とか思ってないか?」
心を見透かしたように、アスアが僕の目を見る。
「アスア、世界を救った勇者の傍らには、いつも伝説の装具があった。ロトの装具に認められた君こそが、伝説の勇者だよ」
そう答える。アスアの武術の腕は、総合的には僕にはまだ及ばないものの、光の剣による一撃の威力は、僕を既に上回っていた。
「伝説の装具も永遠の存在じゃない。見てな」
アスアはロトの剣を落ちていた岩に振るい、直後に光の剣に持ち替えて、さらに一撃した。ロトの剣は岩の半分くらいまで食い込んで止まり、光の剣は岩を両断した。
「ロトの剣の寿命はもう尽きているのさ。竜王の曾孫が言っていた。大魔王ゾーマと竜王の邪気を浄化し続けたことで、神秘の金属オリハルコンによるロトの剣にも限界が来たって。そして、このロトの鎧も昔は、歩くだけで傷が治ったと聞く。でも、今はロンダルギアの邪気を浄化し、力が失われ始めている。でも、この鎧が頑張ったおかげで、ハーゴンの主力はロンダルギアから出られなかった。身に着けた俺にはそれがわかる」
「そんな……」 僕とマリアは絶句した。アスアは自分のロトの兜を指さす。
「あと、これは父上に聞いたけどさ、勇者がゾーマや竜王と戦った時に、この兜はなかった。ロトの兜は、竜王との戦いが終わった後で、聖なるほこらの大賢者が、ロトの子孫のために作ったものだからな」
「だから、ほこらのおじいさんが管理していたのね」とマリア。
「そうだ。そしてゾーマと戦った、勇者ロトの仲間である戦士や武道家は、伝説の装具を持っていたわけじゃないが、ゾーマに痛撃を与えたとも聞いている。俺は、誰よりも戦ってきたカインの武芸、マリアの魔法は、ハーゴンにも通じると信じている。俺たちは全員がロトの勇者なんだ」
「アスア……わかったよ。僕たち全員の力で、ハーゴンを倒そう」
僕たち3人は手を重ねて、誓いあった。
* * *
紋章がそろったので、ロンダルギア探索を打ち切り、精霊ルビスから「ルビスのまもり」を受け取るために「せいれいのほこら」に移動します。
* * *
海の真ん中にある「精霊の祠」の最深部は、不思議な光が満ちた場所だった。
どこからともなく、美しい声が聞こえてくる。
「私のを呼ぶのは誰? 私は大地の精霊ルビスです。あら? お前たちはロトの子孫ですね? 私には解ります。では私は勇者ロトとの約束を果たすことにしましょう。私の守りをお前たちに与えます」
何もない所から、首飾りが出現し、マリアの手元に落ちた。
「ルビス様! 待ってください」
光と共に去ろうとしたルビス様に、マリアが声をかける。
「ルビス様ならご存知でしょう? ハーゴンは邪教の大神官ですから、悪霊の神々に仕えているはず。カインが持つ《邪神の像》に現された、この禍々しき神は何者なのですか」
「大神官ハーゴンが信仰しているのは、破壊の神シドー。ハーゴンはシドーを呼び出し、私の創った大地を破壊しようとしているのです」
「破壊神……人間である僕たちが、神と戦えるのですか」
「貴方がたには神と私と、勇者ロトの聖なる血の加護があります。ただ……」
精霊ルビスは一瞬、口ごもった。
「神を殺せば、いずれ呪いを受けるかもしれません。私が防げるといいのですが、シドーの力は私を上回り、伝説の武具の加護も弱まっていますから、どうなるかはわかりません」
「そんな……何か方法はないのですか」 マリアがルビス様に懇願した。
「……そうですね。貴方がたの旅を見守ってきましたが、ひとつだけ希望が見えました。そちらのカインは、自らを極限まで鍛えたことで、ハーゴンの呪いを防いでいますね。貴方がた3人が全員、同じように鍛えた上で、私の加護と合わせれば、破壊神の呪いにも届くかもしれません。そして、さらなる方策も……」
ルビス様は僕たちに、破壊神と戦うふたつの方策について、説いてくれた。聞いた方法はかなり危険な掛けだけど、神殺しの呪いを受けるわけにはいかない。マリアも、アスアも僕が守るべき仲間だ。命にかえても平和な世の中に返さねばならなかった。
* * *
「ルビスのまもり」を得て、ロンダルギアへの洞窟を上ります。裏技で「みずのはごろも」を2つ作り、隠し武器と言うべき「いなずまのけん」を持ってもいますが、それでも「キラーマシン」は呪文がほぼ通用せず、2回攻撃でマリアを一瞬で瀕死に追い込みます。
ドラゴン4匹も、侮れない強敵です。HPが高く、アスアやカインの攻撃でも一撃では倒せない上に、強烈な炎攻撃をしてきます。ザラキはほぼ通用せず、イオナズンも半分くらい無効化されるため、アスアとカインで殴りつつ、全員のちからのたてで回復させます。
■最強レベルに最強装備で、最終決戦へ
終盤のレベル上げで最強となったローレシア王子のステータス。有名な裏技「はかぶさのけん」で、呪いのペナルティなしで圧倒的な2回攻撃が可能に
記憶を頼りに攻略を進めているので、落とし穴に落ちたり、無限ループにはまったりして、かなり削られていきます。特に4階で遭遇した「ハーゴンのきし」は最悪で、回避率1/8で攻撃を避け、痛恨の一撃や強烈な2回攻撃で、アスアやマリアが倒され、初めて「逃げる」を選びました。カインが最強で蘇生呪文「ザオリク」を使えるので、なんとか立て直せるのですが、通常の攻略では非常に苦労した記憶がよみがえります。
ただ、『ドラクエ2』では経験値の多い「はぐれメタル」を攻撃力さえあれば倒せるので、レベルを上げつつ、メイジバピラスを敵グループの最後に倒し続けたことで、マリアの最強防具「ふしぎなぼうし」を獲得しました。アスアがレベル26になってから、ロンダルギアの祠(ほこら)に着きます。
ロンダルギアのモンスターは倒すともらえる経験値が多いため、祠への到着後は脳内ストーリーの通りに、全員を最大レベルまで上げていきます。面倒ですが、カインひとりを最高レベルにした時よりはずっと楽です。
レベル上げと並行して、ギガンテスから「はかいのつるぎ」、デビルロードから「あくまのよろい」を入手。ロンダルギアへの洞窟に戻って、ダークアイから「しにがみのたて」も入手します。もちろん、有名な裏技「はかぶさのけん」をやるためです。
ムーンペタの町に戻って、カイン最強の武器「てつのやり」も購入すると準備は完了。持ち物をアイテム交換で並び替えて(筆者は「武器」「鎧」「盾」「兜」の順番でアイテムが並ばないと気持ちが悪いのです)、いよいよ準備完了。ハーゴンの城に乗り込みます。
■最終決戦の復活の呪文
いなぴ ぴげみ ほひひて
たりぶ ほめひ ぽやげそ
たたず がぜた なぞなつ
ばけへ るむぽ うよくち
のさた べじつ とこぶじ きり
* * *
ようやくたどりついたハーゴンの神殿は、幻術でローレシアの城に見えた。マリアが「ルビスの守り」を取り出したけど、僕が止めた。
「ルビス様から聞いた方策その一を、今こそ行う時だよ」と僕。悪魔の鎧を身につける。
アスアもうなずき、破壊の剣と死神の盾を身につけた。極めて強力な魔力が込められているけれど、ハーゴンの信徒以外には呪いがかかる罠の装具だ。通常なら呪いで動けなくなるが、全てがまやかしのこの城で身につければ、呪いが「誤魔化される」のだという。
僕たちが城を出ると、今までの装具に、呪いの装具が持つ強力な魔力だけが移し替えられたのを感じた。
* * *
ファミコン版の『ドラクエ2』では「まやかしのハーゴン神殿のなかで呪われたアイテムを装備し、そのまま城から出ると、神殿に入る前の装備に戻るが、攻撃力や守備力は装備をつけ直したり、レベルが上がらない限り、ハーゴン神殿内の時と同じ」という裏技、通称「はかぶさのけん」があります。
つまり「はかいのつるぎ」の攻撃力93を維持しつつ、本来は攻撃力5である「はやぶさのけん」での2回攻撃ができる、など、呪いのある強力アイテムを活用できます。
ただ、ファミコン版『ドラクエ2』はドロップアイテムがひとつしか入手できない仕様なので、「あくまのよろい」はカインが装備します。「ふしぎなぼうし」も、ハーゴン神殿内でマリアからカインに渡して装備させます。
城から出ると、カインは「てつのやり」「あくまのよろい」「ちからのたて」「ふしぎなぼうし」を付けているのと同じ、攻撃力160、守備力142となります。通常プレイでは最高レベルでも攻撃力145、守備力123ですから、かなりのパワーアップ。しかも呪いのペナルティはありません。これが真の最強カインです。
ハーゴン城から出ると「ふしぎなぼうし」はマリアがつけていることになっています(守備力は4下がっていますが)。
全員最高レベルなので「レベルが上がって裏技効果がなくなる」こともなく、ずっと最強状態です。このままハーゴン城に戻って「ルビスのまもり」を掲げ、ラスボスを目指します。
■サマルトリア王子の「奮闘」が報われる(?)
「パルプンテ」の呪文で「とてつもなくおそろしいもの」を呼び出してハーゴンを撃退する。この後、真のラスボスとの戦いに突入する
中ボスとして「アトラス」「バズズ」「ベリアル」が現れますが、「はかぶさのけん」を装備するアスアの敵ではなく、ほぼ苦戦せずに進めました。
いよいよ、大神官ハーゴンとの決戦です。
* * *
「愚か者め! 私を大神官ハーゴンと知っての行いか? ならば許せぬ!」
大神官ハーゴンが狂気と怒りをその瞳に宿し、身構えた。
「マリア、今こそルビス様の方策を!」
「わかったわ。パルブンテ!」
マリアが最上位呪文「パルブンテ」を唱えた。「何が起こるか解らない」究極の呪文で、それだけに魔法防御の高いハーゴンにも通用する。
敵を混乱させたり、味方全員の傷を治したりと、効果が安定しない。僕たちはハーゴンの強力な呪文を浴びながら、パルプンテを連発した。
パルブンテの本当の恐ろしさは「とてつもなく恐ろしい存在」を呼び出すことにあり、その存在こそがシドーとルビス様が教えてくれた。つまり、ハーゴンより先にシドーを呼び出せば、召喚者はハーゴンではなくなる。シドーにハーゴンを倒させれば、破壊神召喚は不完全に終わり、本来の力を発揮できないから、破壊神の呪いを超えられるかもしれないと、ルビス様は語った。これが最後の方策だった。
ハーゴンの後ろに「邪神の像」で見たのと同じ姿の破壊神シドーが出現し、ハーゴンを噛み砕いた。
* * *
脳内ロールプレイ重視派なので、ハーゴン戦は「最高レベルでの縛りプレイ」と決めていました。パルブンテの「とてつもなくおそろしいもの」は、ラスボスという触れ込みで登場するハーゴンですらも一撃で倒すことができますが、8種類の効果のひとつなので、出るとは限りません。
ハーゴンのイオナズンなどを受けつつも、パルブンテを連発します。見事「とてつもなくおそろしいもの」を呼び出すことに成功し、ハーゴンを倒せました。
そして真のラスボスであるシドー戦が始まります。このシリーズの主人公はカインなので、カインに倒させるべく、カインの「スクルト」で守備力を上げつつ、マリアの「ルカナン」により、守備力を限界まで下げます。いよいよ反撃開始です。
アスアの2回攻撃で合計200近いダメージを与えます。そして、最大レベルのカインは、45~63ダメージ程度の2回攻撃を行えるので、シドーに止めを刺すことに成功しました。
* * *
「今だ、カイン!」
破壊の力が宿った隼の剣が、シドーを深々と切り裂く。シドーは完全回復呪文「ベホマ」を唱えようとするが、そうはさせない!
僕は隼の剣を一閃させ、シドーの首に両側から切りつけた。伝説の装具を用いない一撃で致命傷を受けた破壊神は、全身から邪悪な力を放ち、力の渦に巻き込まれそうになる。
「おお、神よ! 私の可愛い子孫たちに、光あれ!」
その時、美しい声が響き渡り、シドーの闇が、ルビス様の光でなぎ払われた。光と闇がしばらく拮抗するが、ややあって光が急に強くなった。
「破壊の神シドーは死にました。これで再び、平和が訪れることでしょう。わたしはいつも、貴方たちを見守っています」
精霊ルビスはそう言うと、崩壊するハーゴン神殿から、僕たちを脱出させた。
* * *
平和が取り戻された世界で、思い出深い場所を巡ります。セリフが他の人と違うのは、ラダトームの王様と、竜王の曾孫、ムーンブルク城の亡霊、そしてカインの妹であるサマルトリアの王女、父であるサマルトリアの王様です。
* * *
「お兄ちゃん、やったじゃない! あたし、見直しちゃった!」
妹のリルムが、僕に抱きついてきた。ずっと祈っていたのだろう。笑顔だったが、疲れも見える。僕たちが喜びを分かち合ったところで、リルムが「お兄ちゃん、マリア様とペアルックなの?」と言いだした。そう言えば「水の羽衣」をふたりとも着ている。
「ペ、ペアルック……? その……そんなつもりは」 動揺するマリア。
「あの、お兄ちゃんさ、マリア様は難しいと思うよ。だって……」
言いかけたリルムに、アスアが「しっ」と指を立てる。
「そのことで話があるから、リルム、ちょっといいか」
アスアはリルムを連れ出し、そしてしばらくして帰ってきた。リルムは真っ赤になってうつむいていた。そして、アスアはマリアを向いた。
「マリア姫。俺と貴女は婚約者だったが、今日をもって解消したい」
「どういう、ことなのですか」
マリアが驚きつつもアスアに問いかけた。
「俺はハーゴンの呪いを受けて、仮死状態になっている時から、ずっと、俺たちの無事を祈る声が聞こえていた。どんなに離れていても、ロンデルギアにいた時でも。破壊神の呪いが、俺に向いた時に、その祈りがルビス様の加護を強めた。だから、俺たちは無事でここにいる。俺たちのもう一人の仲間、リルムの祈りのおかげでね。彼女は俺の、大切な人だ。ずっと前から、これからも」
「あ……あたしは一緒に行けなかったんだから……安全なところで祈るくらいしかできなかったから。少しは、役に立てたのかな。もし立てたなら、嬉しい」
妹のリルムが憔悴しきった顔で、微笑んだ。
「あと、俺は朴念仁じゃないから、マリアの気持ちがどこを向いているのかはわかっているし、幸せになってほしいんだ」
「アスア……わたしは……」
マリアが話そうとするのを、僕は「待って」と止めた。
「アスア、ありがとう。……マリア、これはみんなが聞いていないといけないことだから、ここで言うことを許してほしい。僕は貴女の美しかった国を復興させたい。貴女がよければ、生涯、配偶者として、ずっと一緒に」
マリアは泣きながら、頷いてくれた。アスアは微笑んでくれた。
「……全部うまく行くように、俺が父上と話をするから任せてくれ! 話が終わったら、リルム、君を迎えに来るよ」
僕とマリアとリルムは頷き、僕たち3人はローレシア城に向かった。ハーゴンが倒されたことは、魔物が出現しなくなったことですでに理解されており、城内では兵士たちが僕たちに剣を捧げ、国王への道を示した。
ローレシア王を前にして、アスアが少しうろたえて立ち止まる。リルムのこともあり、どこからどう話したものかと、戸惑っているのだろう。少し照れているようにも見える。
「なーに? 照れるなんて貴方らしくないわよ」とマリアが言い、僕は「さぁ、行きなよ」と後押しした。
ローレシア王は、誇らしげに進み出たアスアを見て、こう切り出した。
「王子アスアよ! さすが我が息子! ロトの血筋を引きし者! 今こそお前に王位を譲ろう。引き受けてくれるな?」
アスアは「嫌です」と一蹴する。
国王が「これ! わがままを言うでない!」と窘めた。
「王を引き受けるなら、一つだけ条件があります。俺……いや、私はこの3年にも渡る長い旅の中、ずっと私の無事を祈り続けてくれた、サマルトリアのリルム姫を、妻に迎えたいのです。それが世界を救った私の、ただ一つの願いです」
堂々とした態度で、アスアは言い切った。ローレシア王は絶句する。
「これ! マリア姫のいる前で、何という事を」
「国王陛下! これは僕たち全員の合意なのです。もちろんマリア姫も含めての」
僕も気持ちをこめて言った。声が少し上ずるのが自覚できる。
「陛下。アスア殿下はとても誠実で、優しいお方。縁談に不満があるわけではありません。ただ、わたしはハーゴンの呪いで犬となっていました。そのことを知らずに、カイン殿下はわたしを助けてくださいました。そして、我が城の魔物も討伐し続け、わたしの呪いも解いてくださったのです。わたしは人生のすべてをかけて、この方に報いたい!」
マリアが毅然として言った。国王は「あいわかった。ローレシアの新王が、配偶者をどう決めようと、それは王の決定で、わしが口を出すことではない。ムーンブルクは復興が必要だから、隣国サマルトリアが手を差し伸べた方がよかろうて」と微笑んだ。
「ローレシアの新しい王の誕生じゃ! さぁ、カイン王子も、マリア姫もこちらへ! これからも3人で力を合わせ、平和を守ってくれい」
王はそう呼びかけ、新王アスアへの歓呼の声が城内に響きわたる。
「これからも、貴方の傍にいていいのですね」
うつむきつつ、そう言ったマリアの手を取り、僕は深く頷いた。
* * *
というわけで「サマルトリアの王子が最強だった件について」の冒険は終了です。プレイヤーの数だけ物語があるのがRPGですが、今回はサマルトリアの王子が主役視点の特殊設定で、遊んでいて楽しかったです。
ただ、カインのレベルが最高でも「他のシリーズを普通に遊ぶくらいの難易度」なんですよね。ファミコン版『ドラクエ2』恐るべしと、改めて思いました。
(安藤昌季)
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