“本家”上陸前に作られた和製「スター・ウォーズ」2作品。映像界に残した遺産とは
マグミクス / 2019年12月27日 18時20分
■轟天号、宇宙へ? 『惑星大戦争』
2019年12月20日(金)に公開された『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』は、スター・ウォーズ(以下、SW)シリーズの最新作で、本作をもってスカイウォーカー家の物語が幕を閉じます。
同作は日米同時公開ですが、シリーズ第1作目である『スター・ウォーズ/新たなる希望』の日本公開は1978年7月1日。本国アメリカより1年遅れての公開でした。『SW』が日本公開されるまでの1年に、東宝と東映のふたつの映画会社がそれぞれ『SW』を意識した映画を製作していました。
その1本が、東宝製作の『惑星大戦争』(1977年)です。地球を攻撃する侵略者と戦うため、宇宙防衛艦“轟天”が敵の巣食う金星へ行くため宇宙へ飛び立つというストーリー。物語を見ると『SW』よりも、本作の同年8月に劇場版が公開されたアニメ『宇宙戦艦ヤマト』に似ています。轟天の乗組員の宇宙服のデザインや、緑色の肌を持つ敵・ヨミ第三惑星人など、物語以外にも『宇宙戦艦ヤマト』に似ている点が見られます。
その公開時期から『宇宙戦艦ヤマト』の後追い企画と誤認してしまいそうですが、本作のベースは、かつて東宝が製作した特撮映画『海底軍艦』(1963年)です。本作に登場する“轟天”は、『海底軍艦』に登場した万能戦艦“轟天号”に由来します。また本作の原案である“神宮寺八郎”は田中友幸プロデューサーのことで、『海底軍艦』の轟天号艦長である神宮司大佐から取られた筆名です。田中友幸氏は1966年に『空飛ぶ戦艦』という作品を企画していたほか、本作の3年前から轟天号を宇宙へ飛ばす企画を考えており、実現の時期をうかがっていました。アイディア自体は『宇宙戦艦ヤマト』より先行していました。
『惑星大戦争』の劇中、轟天の建造は急ピッチで進められていましたが、本作『惑星大戦争』も急ピッチで製作されました。まず本作の製作発表記者会見が8月29日で、印刷台本第1稿の完成が2週間後の9月13日付。10月12日付決定稿が完成後すぐにクランク・インし、12月17日に正月映画として公開されるという、過酷なスケジュールだったのです。
そのため、本編2班・特撮3班という体制で撮影され、過去の東宝特撮作品からの流用映像も多いです。また本作のスタッフは同時期に東宝が進めていた『ゴジラの復活』の企画で脚本を担当していた中西隆三氏、同作の監督に予定されていた福田純監督が本作へスライドする形となりました。同じく特技監督を務めた中野昭慶監督も、日英合作企画『ネッシー』の撮影が延期となり本作に合流したのです。
余談ですが、『ゴジラの復活』は最終的に本作から7年後に公開された『ゴジラ』(1984年)へと結実しましたが、『ネッシー』の方は製作中止となり幻の映画となってしまいました。
■宇宙が舞台の時代劇? 『宇宙からのメッセージ』
映画『宇宙からのメッセージ』DVD(東映)
一方、東映が製作した『宇宙からのメッセージ』は、1978年のゴールデンウィーク映画として公開されました。前年に時代劇映画『柳生一族の陰謀』(1977年)のメガホンをとった深作欣二氏が監督に抜擢され、脚本も同じく『柳生一族の陰謀』に参加した松田寛夫氏が手掛けました。また原案には漫画家の石ノ森章太郎氏とSF作家の野田昌宏氏、深作監督と脚本の松田氏の4人が名を連ねています。
本作の物語は惑星ジルーシアの民が“リアベの実”を太陽系に放ち、リアベの実に選ばれた8人の勇士を集め圧政を敷くガバナス帝国に戦いを挑むというもの。曲亭馬琴の読本『南総里見八犬伝』をベースにした物語で、ヒキロクやカメササなど『八犬伝』から名前を取られた人物も登場します。
ガバナス帝国皇帝ロクセイア12世が「和議」「臣下の礼」という単語を発したり、クライマックスのアクションのひとつがチャンバラだったりと、本作には東映京都撮影所が得意とした時代劇の要素が強く見られます。
本作で特筆すべき点が、“東通ecgシステム”という合成技術の導入です。ecgとは“ELCTRO CINEMA (PHOTO) GRAPHY”の略で、もともとは人工衛星から送られてくる映像を受信するためNASAで開発されたものでした。従来の合成技術ではフィルムが現像されるまで映像の仕上がりを確認できませんでしたが、ecgシステムの場合は現場のモニターで確認することが可能だったのです。
本作の特撮監督を務めたのが、先日逝去された矢島信男監督。矢島監督と深作監督のデビュー初期からの古い付き合いで、本作では人間の演技に関わらない特撮場面の演出は矢島監督に全任されていました。矢島監督は以降も『魔界転生』(1981年)や『里見八犬伝』(1983年)などで特撮監督を務め、深作欣二監督作品を支えていました。
■ふたつの和製「スター・ウォーズ」がもたらしたもの
1978年に満を持して日本公開された「スター・ウォーズ」第1作。画像は『スター・ウォーズ 新たなる希望』DVD(20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン)
今回紹介した2本の映画は、メインスタッフが本家『SW』を鑑賞した上で製作されています。『惑星大戦争』はゴジラシリーズでも見られた異星人による侵略との戦い、『宇宙からのメッセージ』は時代劇と、東宝と東映のそれぞれが得意とするジャンルで『SW』をアレンジしていたことがわかります。
『惑星大戦争』の“轟天”の乗組員たちが国連宇宙局に所属するエリートで、大きな使命を抱いて戦っているのに対し、『宇宙からのメッセージ』のリアベの勇者たちのなかには宇宙暴走族やチンピラが含まれます。このような人選からも、東宝と東映の会社のカラーの違いがわかります。また『SW』のアイコンのひとつである“ライトセーバー”を模したアイテムが、両作ともに登場しなかったのが興味深い点でしょう。
東映は『宇宙からのメッセージ』から映像やプロップを流用したTVシリーズ『宇宙からのメッセージ 銀河大戦』(1978年)を製作。こちらはフランスで『San Ku Kai』のタイトルで放送され人気を博します。東通ecgシステムは『宇宙刑事ギャバン』(1982年~1983年)など東映が製作するヒーロー作品で多用され、独自の映像を生み出すのに貢献しました。またスーパー戦隊シリーズの第41作『宇宙戦隊キュウレンジャー』(2017年~2018年)のイメージソースのひとつは本作『宇宙からのメッセージ』です。
一方『惑星大戦争』のファンを公言しているのがアニメーション監督の庵野秀明氏です。本作の轟天に搭載されていたリボルバー式カタパルトを、庵野監督は代表作『ふしぎの海のナディア』に登場するN‐ノーチラス号にも搭載させて本作へのオマージュを捧げています。
結果として、2作品とも興行収入や作品のクオリティで言えば『SW』には敵いませんでした。今回取り上げた2作品を『SW』の便乗映画として切り捨てるのは簡単です。しかし『惑星大戦争』も『宇宙からのメッセージ』も共に日本の特撮作品やアニメ作品の血肉となっているのです。
公開から40年以上の時が経った『惑星大戦争』と『宇宙からのメッセージ』。本家『SW』の話題が上がれば、この2作品の話題も同時にネット上に登場します。多くの映画が忘れ去られていくなか、40年の時を経ても人びとの記憶に残っているというのは、幸せなことなのかもしれません。
(森谷秀)
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