「パンチラばっか語ってんなよ」放送40年『宇宙刑事シャイダー』なぜ作風が少し違う?
マグミクス / 2024年3月2日 7時50分
■これまでの定番要素を改革した意欲作『宇宙刑事シャイダー』
本日3月2日は、『宇宙刑事シャイダー』が1984年に放送を開始した日です。今年で40年の節目となりました。今なお人気の高い「宇宙刑事三部作」の最後を飾った本作の魅力について振り返ってみましょう。
それまでの「宇宙刑事」シリーズである『宇宙刑事ギャバン』『宇宙刑事シャリバン』は、主演にJACのアクション俳優を起用し、その華麗なアクションで作品をけん引していたところがあります。しかし前2作で同じ路線を続けてきただけに、本作では思い切った改革をすることになりました。
それは主人公である宇宙刑事ではなく、パートナーの女性宇宙刑事にJACのアクション俳優を起用したことです。このアクション担当ともいえる存在となった「アニー」は大きな反響を呼び、本来の対象である子供はもちろん、幅広い層から注目を集めるヒロインとなりました。
一方の主演となる「沢村大(だい)/宇宙刑事シャイダー」には、厳しいオーディションの末に新人であった円谷浩さんが選ばれます。この円谷さんを強く推薦したのが、メインライターを務めていた上原正三さんでした。それには大きな理由があります。
名前からお察しのように、円谷さんは「特撮の神様」と呼ばれた円谷英二さんを祖父に持ち、父は円谷プロダクションの2代目社長だった円谷一さんでした。上原さんは円谷プロで脚本家デビューしたことから、そのことを恩義に感じていたそうです。そこで恩返しとして円谷さんを推したそうです。
それゆえ上原さんの本作にかける意気込みはこれまで以上に高く、『宇宙刑事シャイダー』は劇場版を含む全49話の脚本を書くことを事前に約束しました。結果的にこれが本作独特の世界観の構築につながり、名作と呼ばれるきっかけのひとつとなります。
本作の敵である「不思議界フーマ」は、独特の空気感を持った組織でした。前年の『シャリバン』が怪奇性を前面に出し過ぎたことで、子供たちに敬遠された経験からの方針転換だったそうです。
これまでのような好戦的な行動隊長「ヘスラー指揮官」や、実働部隊の「ギャル軍団(当初はくノ一五人衆)」といった戦闘的なキャラはいますが、フーマの支配者「大帝王クビライ」の側近である「神官ポー」と、なんのためにいるのかわからない珍獣たちが、「不思議」としか形容できない本作独特の空気感を生み出しました。
特に神官ポーは女性という設定でありながらも、担当俳優である吉田淳さんが男性であることから、本作の不思議な世界観の構築にひと役買っています。余談ですが、吉田さんは主演のオーディションを円谷さんと争った人でした。
このほかにも、本作の世界観構築に忘れてはいけないのが「不思議ソング」です。フーマのテーマソングともいえる異様な雰囲気を持った歌で、作中歌やBGMとしても使われていました。本作のイメージ作りに必要不可欠となった曲です。
フーマは本作第1話にて銀河系の星々に侵略を開始し、なかには滅ぼされる惑星もあったほどの強大な戦力を保有していました。そのためシャイダーとアニーは訓練途中の身でありながらも、正式な宇宙刑事として地球に派遣されることになります。こういった事情から、本作はふたりの宇宙刑事の成長物語という側面を持っていました。
そして、それほどの戦力を持っているはずのフーマが、地球については美しいまま手に入れようとしたため、不思議ソングによる洗脳や民衆をコントロールして怠惰にするといった作戦を中心とした戦略を展開します。これには理由があり、作品の中で徐々に明かされていきました。
こういった従来の敵組織とは異なった、直接的ではないアプローチが、本作の敵を「不思議」と思わせるのかもしれません。
■ほとんど主役の活躍だったアニーの魅力とは?
『宇宙刑事シャイダー』は、約1年にわたり全49話が放送された。東映ビデオ「宇宙刑事シャイダー VOL.5」 (C)東映
本作を語るうえで絶対に忘れてはいけないのが、「女宇宙刑事 アニー」の存在です。前述したように、その人気は作品をけん引するほどの大きなものでした。これにはもちろん、アニー役を務めた森永奈緒美さんの魅力によるところが大きいでしょう。
そしてこれも前述のとおり、これまで主演が担っていた華麗で激しいアクションを、新人ながらも体当たりで演じていたのが森永さんでした。過酷な撮影で何度も膝に傷を負っていたそうです。この森永さんの健闘が、作品の魅力を大きく底上げしたことは間違いないでしょう。
そして、よくアニーで話題になるのはミニスカートゆえの「パンチラ」です。これに関しては、大人も視聴者層に引き込みたいというスタッフの意図がありました。そうした意味ではスタッフの思惑どおり、子供より大人がTV画面に釘付けになることも多かったようです。いつの時代もセクシーヒロインは、子供から大人まで幅広い年齢層に注目を浴びるものですから。
もちろんアニーの魅力はそれだけでなく、敵の「不思議獣」や戦闘員「ミラクラー」との立ち回り、時に見せる女性らしい優しさといった部分もあってのことです。シャイダーの変身前はほとんど主役のような活躍だった、と振り返る人も少なくありません。森永さん自らが歌う挿入歌「アニーにおまかせ」が用意されているなど、あきらかにこれまでのヒロインにはなかった優遇がなされていました。
ちなみに本作終了後には、当時、朝日ソノラマが刊行していた(2008年よりホビージャパン)特撮専門誌『宇宙船』で、メインライターの上原さんが『女宇宙刑事アニーの大冒険』というスピンオフ小説も書いています。とにかく当時のアニー人気は高く、森永さんの女優としての知名度を一気に上げることになりました。
もちろん本作は子供にも人気の作品です。オモチャの売り上げも好調でした。メイン商品となるバンダイから発売された「超次元戦闘母艦バビロス」は、宇宙船、ロボット、銃に三段変形する当時としては画期的なものだったのです。特に銃形態「シューティング・フォーメーション」は、従来の変形ロボットオモチャに、なりきり要素を加えた優れモノでした。
なりきりオモチャといえば、一部で話題になった商品が、同じくバンダイの「スーパーシャイダーホーン」です。劇中で大が使うインカムタイプと、アニーが使うブレスレットタイプがセットでした。このオモチャの最大のセールスポイントは実際に使えるトランシーバー機能で、数十m程度の通話が可能です。
商品的にはトランシーバー機能のせいで高額で、子供にはイマイチ人気のなかった商品でした。しかし、本編中で使っているものとほぼ同じ形だったことから、コスプレ用に購入する人もいた商品です。当時の二十歳前後の年代は、世代的に子供の頃にトランシーバーが欲しかった人も多く、オシャレなデザインになったことから普通に購入していた人もいました。
宇宙刑事シリーズで唯一、オリジナル劇場版が作られたことからもわかるように、本作は前作から引き継いだ高い人気を維持した作品だったといえるでしょう。宇宙刑事シリーズは本作でいったん幕を閉じることになりますが、それが新たに「メタルヒーロー」というカテゴリーを誕生させることになります。
そして数十年の時を経て、宇宙刑事シリーズは2012年に劇場版新作として再誕することとなりました。これまでのリメイク作品とは違い、世界観を継承して二代目を登場させ、ヒーローのデザインを変えないという手法は、時代が変わっても古さを感じさせない宇宙刑事だからこそできた偉業かもしれません。
(加々美利治)
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