声優の熱演が「キャラの運命」を変えた? 知られざる死亡回避ドラマが衝撃的
マグミクス / 2024年3月7日 19時10分
■『Zガンダム』のラストは精神崩壊エンドじゃなかった?
人間の残酷な運命を描いたロボットアニメでは、登場人物が途中で退場することも珍しくありません。しかしキャラクターボイスを担当した声優が熱のこもった演技を披露した結果、その運命が一変した……という逸話もあるようです。
アニメ『機動戦士ガンダムSEED』のイザーク・ジュールといえば、はじめこそ自尊心の高い傲慢な性格でしたが、次第に平和のために戦うようになったキャラクターです。しかしもともとの脚本では、悪役として物語終盤に戦死する予定でした。
確かにライバル視していたアスラン・ザラに何かと反発して隊の不和を生んだり、勘違いとはいえ罪のない避難民を乗せたシャトルを「邪魔だから」という理由で撃ち落としたりと、救いようのないトラブルメーカーだったことは否めません。しかしそんなイザークの運命を大きく変えたのが、イザーク役を務めた関智一さんの熱演です。
関さんの絶妙な声色と温かみのある演技は憎めないキャラクター像を生み出し、福田己津央監督も想定していなかったイザークの魅力を引き出しました。そしてファンから助命嘆願が起こるほどの人気を獲得し、最後まで生き残るに至ったようです。
ちなみに関さんは、かつて出演した『お願い!ランキング』で当時を振り返った際、監督から「(イザークが最後まで)生き延びたのはキミのチカラだよ」と伝えられたことを明かしていました。ただ指示通りに演じられなかったという意味では反省が残ったそうで、2020年11月に開催されたトークショーでは「あまり胸を張って語れるエピソードではない」と複雑な心境をのぞかせています。
同じく「ガンダム」つながりでいえば、『機動戦士Zガンダム』の主人公であるカミーユ・ビダンの存在も外せません。彼は天性のニュータイプという特性を持って生まれ、Zガンダムとともに目覚ましい戦果を上げました。
一方でカミーユの持つ類まれな才覚が発揮されるにつれ、味方のみならず敵の死にも敏感に反応するように。加えて彼自身の繊細な面も相まって、次第に自らの精神を摩耗していき、パプテマス・シロッコとの最終決戦では、勝利を収めつつも精神に異常をきたしてしまいます。
いわゆる「精神崩壊エンド」と呼ばれる結末は多くの視聴者に衝撃を与えましたが、実をいうと当初は、カミーユの死をもって幕引きとなる予定でした。しかしそれを食い止めたのが、担当声優である飛田展男さんによる熱のこもった演技です。
同作にはアムロ・レイやクワトロ・バジーナ(シャア・アズナブル)といった前作の中心人物が引き続き登場するため、飛田さんはつねにプレッシャーを感じながら収録に臨んでいたといいます。またクレジットでもカミーユよりバジーナのほうが上に表示されるという扱いだったこともあり、存在感のあるキャラクターに育てるべく必死だったのだとか。
そうした飛田さんの熱演ぶりを受け、富野由悠季監督は「キャラクターに根性があったから殺せない」とストーリーを変更しました。それがカミーユにとって幸せな結末だったのかは意見が分かれるところですが、彼の運命を大きく変えたという事実に違いはありません。
■谷山紀章さんの熱演がなければ存在しなかった名シーン
画像は『天元突破グレンラガン』キービジュアル (C)GAINAX・中島かずき/アニプレックス・テレビ東京・電通
そして最後に紹介するのは、『天元突破グレンラガン』に登場した愛すべきリーダーことキタン・バチカです。彼も当初は早い段階で死亡する予定だったのですが、谷山紀章さんの名演技によって命をつなぐことになります。
初期のキタンは端的にいうとチンピラで、ギャグ担当的な一面も持ち合わせていました。しかしカミナの死を受けて一旦は「大グレン団」のリーダーを務め、その座をシモンに譲ってからも切り込み隊長として多大な貢献をもたらします。
次第に精神的支柱として欠かせない存在となったキタンですが、おそらく初期プロットでは想定されていなかった立ち位置になっていったのでしょう。実際に谷山さんの演技が制作スタッフも知り得ないキタンの魅力を引き出していたらしく、「もっと違う描き方ができるのでは」と活躍が増えていきました。それでも死亡の回避には至らず、アンチスパイラルとの最終決戦でついに別れのときがやってきます。
最期は自らの命と引き換えに「キングキタンギガドリルブレイク」を放つのですが、この場面は作中屈指の名シーンとして今もなお語り継がれています。もし谷山さんがキタンを演じていなければ、このシーンは存在しなかったかもしれません。
魂のこもった演技はキャラクターに命を吹き込むだけでなく、ときにその運命すらも捻じ曲げてしまうようです。そうした意味でも、ロボットアニメは声優の実力が遺憾なく発揮される舞台といえるのではないでしょうか。
(ハララ書房)
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