『Zガンダム』ジオン大嫌いティターンズとジオン残党アクシズはなぜ同盟交渉できた?
マグミクス / 2024年3月4日 6時10分
■ティターンズには味方がいない
「ティターンズ」と「アクシズ」は、アニメ『機動戦士Zガンダム』の敵側陣営です。本作においては、スペースノイド(宇宙居住者)の保護のために戦う主人公側陣営の「エゥーゴ」に対して、スペースノイド独立を掲げたジオン残党を討伐する地球連邦軍の精鋭部隊ティターンズと、旧ジオン公国の後継者であるアクシズの3陣営(+ほぼ存在感のない地球連邦軍)が存在します。
物語中盤でアクシズが登場した後は、エゥーゴとアクシズが同盟してティターンズに立ち向かう展開も見られる一方、ティターンズ総帥である「ジャミトフ」が、アクシズの指導者「ハマーン」と会談を持ち、協力を示唆する場面もあります。
ジオン狩り組織であるティターンズと、ジオンそのものであるアクシズとは、本来、相容れない勢力であるはずなのですが、『Z』の世界では複雑怪奇なことが起こります。
このあたり、「尊王攘夷」を掲げていた反政府勢力が、いつの間にか西洋から新型武器を購入し、それで江戸幕府を打倒して明治政府を作った上に「文明開化」と、当初と真逆なことをしている、日本の幕末の歴史を見ているかのようです。
なぜ、ティターンズはアクシズとの交渉が成立すると考えたのでしょうか。また、アクシズはなぜ、ティターンズと協力の余地があると考えたのでしょうか。
前提として、ティターンズの総帥である「ジャミトフ」と、その部下の幹部である「バスク」や「シロッコ」の思惑は、それぞれ異なっています。
ジャミトフは軍人というより政治家であり、「地球を汚染する地球連邦政府や連邦のエリートを憎悪」し「戦争で人口を減らしてでも、地球の再生を実現したい」という思想を持っています。これは『逆襲のシャア』におけるシャアの行動原理に酷似しています。違うのは「排除されるべき愚民」にスペースノイドが入っているかどうか、くらいです。
現場でティターンズを動かすバスクらは、ジャミトフの思想に共鳴しているわけではなく「反地球連邦のスペースノイドを弾圧するためには手段を選ばない」という軍閥です。
シロッコに至っては「選ばれた存在が地球圏を導くべき」という思想はあるものの、宇宙を拠点とし、自身を含めて「ニュータイプ」を積極的に抜擢している存在ですから、スペースノイドを何も否定していないということになります。
この三者がそれぞれの思惑で動くため、『Z』のティターンズはアクシズとも手を組む余地があるということです。
整理すると、ジャミトフは「戦争で人口を減らした方が地球の汚染は食い止められる」と考えているので、バスクが非人道的手段でスペースノイドを殺戮しても止めないし、シロッコのような「優れたスペースノイド」は手駒として活用するわけです。
ただ「戦争で人口を減らす」ティターンズの行動は、政治的には大失敗だと考えられます。ティターンズはニューホンコンでの戦いで、「サイコガンダム」により街を破壊しており、これは有力な財閥でマフィアでもある「ルオ商会」を敵に回す行為です。
エゥーゴの本拠地と目した月面都市「グラナダ」に、スペースコロニーを落とそうともしました。ティターンズはそのグラナダに支社を持つ超大企業「アナハイム・エレクトロニクス」から「マラサイ」などのモビルスーツを供給されている立場ですから、これも重要な取引先を敵に回したことでしょう。
また、地球連邦議会に「反地球連邦組織エゥーゴ」の幹部である「ブレックス」や「シャア」が出席できるのですから(ティターンズはブレックスがエゥーゴの指導者であると知っています)、地球連邦政府におけるティターンズの政治的基盤は、それほど強くはないと見られます。
つまり、ティターンズが連邦議会で画策した「全地球連邦軍をティターンズの指揮下に置く」ことは、「政治的失敗による劣勢を、軍事的圧力で議会を従わせることにより解決しようとした」ということであり、そしてこれにも失敗した、ということになります。
■ポイントは「負けたらあとがない」戦いであること
物語のキーパーソンのひとり、シロッコ。メガハウス「GGG 機動戦士Zガンダム パプテマス・シロッコ」 (C)創通・サンライズ
ティターンズの本拠地は元々、地球連邦軍の本部があるジャブローにありました。そこへ、エゥーゴ殲滅のために核爆弾のトラップを仕掛けたことも裏目に出ています。作戦は失敗し、エゥーゴの主力は取り逃がした上に、本拠地が使えなくなったのです。
本来、地球至上主義であるティターンズは地球に地盤や支持勢力があるはずですが、このことにより自ら手放してしまったとも考えられます。新しい本拠地は、ジオン軍の宇宙要塞「ア・バオア・クー」を改装した「ゼダンの門」に構えたものの、こちらも宇宙要塞「アクシズ」に体当たりされて、喪失してしまいます。
その上で、劣勢を覆すために、宇宙での重要軍事生産拠点だったスペースコロニー「グリプス2」をコロニーレーザーに改造していますから、末期ティターンズの生産力は極端に低下していてもおかしくありません。
そうした流れを考えると「モビルスーツの開発・生産能力」を艦内に持つ、超巨大輸送艦「ジュピトリス」を持つシロッコが優遇されるのは当然といえます。
なお『Z』の戦争である「グリプス戦役」とは「地球連邦軍同士が、地球連邦政府の主導権を奪い合っている」戦いですから、エゥーゴとティターンズは負けた方が消滅します。「自分たちが消滅するよりは、気にいらない外国とも手を結んだ方がいい」という観点で、アクシズとの同盟交渉が行えたとも考えられます。
また「地球至上主義では戦えない」という冷厳な事実もあるでしょう。幕末には「尊王攘夷」を掲げて、圧倒的に不利な武器で、薩摩(今の鹿児島県)がイギリスに挑んだ「薩英戦争」が勃発しました。その大敗により、薩摩は「気合いだけでは勝てない」ことを学んだわけです。
宇宙世紀における「学ばないと戦争に勝てない」筆頭は「ニュータイプの活用」でしょう。強力なニュータイプを強力なモビルスーツに搭乗させないと、戦線が敵ニュータイプ兵士の圧倒的実力により崩壊してしまうということです。
ティターンズはムラサメ研究所など、人工的なニュータイプである「強化人間」を作る軍事施設も抱えていましたが、「フォウ」や「ロザミア」といった強化人間は精神的に安定せず、かつニュータイプよりも能力では劣るため、結局「負けないためにニュータイプに頼る」必要があります。それがシロッコらの抜擢なのでしょう。
合理的な行動よりも、思想を優先させて政治的敗北を喫したのがティターンズともいえるわけです。
一方、アクシズがティターンズとも組めるのは「連邦が分裂している状態が理想」「コロニーレーザーを自陣営に置きたい」というのが理由でしょう。エゥーゴが力を持ちすぎるくらいなら、ティターンズとも手を組める、ということです。
(安藤昌季)
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