「ハリウッド版実写ガンダム」の知られざる舞台裏 困難極めた制作…富野監督が送ったエールとは
マグミクス / 2024年3月6日 6時10分
![「ハリウッド版実写ガンダム」の知られざる舞台裏 困難極めた制作…富野監督が送ったエールとは](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_217071_0-small.jpg)
■『ガンダム』がアメリカ的ヒーロー物語に?
かつては着ぐるみや人形を少しずつ動かしたり、手で描くアニメで表現するしかなかった空想世界のロボットなどのSF映像。しかし、いまでは3DCGによって、まるで現実に存在しているかのような、リアルな映像が当たり前に作られるようになりました。
最近では、日本が得意としていた「ロボットアニメ」を、海外が次々と実写映像化し話題を集めています。また、半世紀近く人気を誇る『機動戦士ガンダム』を、いま、アメリカで実写映画化しているという話も聞こえてきて、ガンダムファンの方は「ついに!」という想いかもしれません。
しかし、実は今から25年前、すでに3DCGを使ったガンダムの実写作品があったのをご存じですか?
「ガンダム20周年記念作品」として、サンライズが発注、制作管理の元、ハリウッドの映画会社「POLESTAR」が制作し、2000年12月29日にTVスペシャル番組として一度だけ放送されたサンライズ初の海外製作作品『G-SAVIOUR』(ジーセイバー)です。
画像を見ていただければ一目瞭然の「ガンダム型」のロボットなのですが、この作品には『ガンダム』のタイトルが付いていません。また内容的にも、いわゆるガンダム風のセオリーとは全く違い、とても「普通」のアメリカ的ヒーロー物語として作られており、ガンダムファンのなかではあまり話題に上ることもありません。
ですが、実はこの作品にはとても大きな意味がありました。ちょっと込み入ったお話になりますが、おつきあい下さい。
当時は日本発のコンテンツによく似たものがアメリカで次々と映画化されていました。ですが、それは日本側にとってはあまり利はなく、今後、ガンダムにもそうした事態が起こることも予想されました。
そこで、アメリカでのガンダムの意匠(デザインやそのコンセプト等含め)使用に対して、しっかりと権利を守る必要があるという判断がされました。
アメリカの、映画をはじめとするこうしたエンターテイメントについての権利関係は日本とは全く違い「未来永劫全宇宙において」と契約書に表記してあるほど強固です。また、日本側から先にアメリカでの権利を押さえるためには、アメリカ側で実制作をしてしまう必要があったのです。
■苦労極めた制作…富野監督が送ったエールとは?
「1/144 G-SAVIOUR SPACE」(BANDAI SPIRITS)
ですがこの実現はとても大変なことで、百戦錬磨のハリウッド映像関連者たちを相手に制作に臨んだ実スタッフの苦労はとてもひと言では説明できません。しかし、その苦労があったからこそ、これまで一度もアメリカ側で「ガンダムっぽいロボット作品」は作られていないのです。
ちなみに『ガンダム』の富野監督もこれを理解し「それなら僕の名前は入れない方がいいよ。大変だろうけど、がんばって作ってきて」とエールを送ってくれました。この「名前は入れない方がいい」がガンダムの名称を冠していない意味でもあります。
25年前の映像は、今見れば見劣りもするでしょう。しかし、たった1分のCG映像を計算するだけで一昼夜かかるような時代に、実際の俳優や大道具もそろえて仕上げられた本作は、決して恥じるものではないと申し上げます。
なお、画面内のモビルスーツの動きを「モーションキャプチャ」と思っている方もおいでですが、それは誤解です。
モビルスーツ関係の画像は、20周年に向けて2年前に同じCGプロダクションで作ったパイロットフィルムの時のものを使用しており、この時には『機動戦士ガンダム0083』の監督、今西隆志さんがスーパーバイザーとして渡米、日本独特のロボットアニメの動きや見せ方等をきっちりと指導。つまりCGの動きはすべて、手描きのアニメと同様に人の手で打ち込まれているものです。
また、制作(製作)がカナダと表記されている誤情報も散見されますが、カナダは「実写部分の撮影」を行っただけで、制作はあくまでもアメリカです。
やがて出来上がるのだろう実写版ガンダムをご覧になる時が来たら、その礎石となった『G-SAVIOUR』のことも、ちょっとだけ思い出していただければと、関係スタッフのひとりとして願ってやみません。
【著者プロフィール】
風間洋(河原よしえ)
1975年よりアニメ制作会社サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)の『勇者ライディーン』(東北新社)制作スタジオに学生バイトで所属。卒業後、正規スタッフとして『無敵超人ザンボット3』等の設定助手、『最強ロボ ダイオージャ』『戦闘メカ ザブングル』『聖戦士ダンバイン』『巨神ゴーグ』等の文芸設定制作、『重戦機エルガイム』では「河原よしえ」名で脚本参加。『機甲戦記ドラグナー』『魔神英雄伝ワタル』『鎧伝 サムライトルーパー』等々の企画開発等に携わる。1989年より著述家として独立。同社作品のノベライズ、オリジナル小説、脚本、ムック関係やコラム等も手掛けている。
(風間洋(河原よしえ))
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