アニソン歌手目指す人へ:「自分ならではの味を大事に」 いとうかなこさん&Hassyさん語る【インタビュー後編】
マグミクス / 2020年1月10日 16時50分
■音楽の「才能」と「努力」の意味は?
いとうかなこさんとHassyさんは、ニトロプラス作品をはじめとした数々のゲームやアニメのテーマソングを長年歌ってきました。現在は、楽曲の提供や後進の育成、オリジナルソングの制作やライブなどの活動に入れています。アニソン歌手を目指す人びとへの思いや、これからの夢について語ってもらいました。
* * *
――ライブ経験が豊富なおふたりでも、「ライブの前は緊張する」というお話を伺いました。アーティストならではの重圧に、どのように立ち向かわれているのでしょう?
Hassyさん(以下敬称略) 楽しめるといいなと思いつつも、開き直るしかないですよね。自分の手で積み上げてきたものを武器に、戦うしかないんです。
いとうかなこさん(以下敬称略) スポーツに似ているかもしれませんね。気合いを入れなきゃいけないんですけど、入れすぎても空回りしてしまいます。緊張しつつも、どこかで自分を冷静に見て、力みすぎないことですね。
Hassy 力が入りすぎたあまり歌詞が飛んで、頭が真っ白になる瞬間もありますから。
いとう 1番と2番の歌詞が、ひっくり返っちゃったりとかね(笑)。何万回と歌ってきた歌のはずなのに、そうなる時はあるんです。
Hassy 歌い慣れてるからといって、決してなめてはいけないんですよ。ステージでは、いつも何が起きるか分からない。ひとつとして同じライブはないというのは、そういう意味でもあるんですね。
――おふたりにとって、「才能」と「努力」という言葉は、どのような意味を持っていますか?
Hassy 私はボーカル教室を主宰していますが、生徒には、いつも言ってるんです。たとえうまくいかなくても、やり続けないと、あなたのやってることはここで終わっちゃうんだよって。本当にそれでいいのか、自分自身に聞いてみてほしいんです。
若い頃、ストレスと当時の無理な歌い方がたたって、声が全く出なくなってしまったことがあります。その時だって、「やめよう」とは何度も思ったけれど、「やめたい」とは一度も思わなかった。
「やめたい」と思うことが来るとすれば、おそらく引退する時でしょう。そんな時が来るのかどうか分かりませんが、とにかくその時まで、続けていくのが努力なんだと思いますね。継続は力なりです。
いとう 「耳がいい」とか「音の捉え方が素晴らしい」とか、親譲りのセンスみたいなものは、きっとあるんだと思います。それが才能なのかもしれませんが、才能自体の優劣を比較することには、あまり意味がない気がしています。
生まれつき持っている自分ならではのものを、どうすれば自分なりに表現していけるか、それが一番大切です。「味」って言うんですかね。少なくとも音楽の世界では、上手かどうか以上に、その人ならではの「味」こそが求められるんじゃないでしょうか。
■作品に頼り切らず「自分たちの旗」掲げて
いとうかなこさんのオリジナル曲のライブ音源CD「ITO KANAKO LIVE vol.2 ~only Original songs~」
――「やめたいと思う時まで続ける」「自分ならではの味を見つける」というお話には、感じ入るものがあります。
いとう これも中学生の頃だったと思いますけど、大好きなホイットニー・ヒューストンの歌を歌って、テープに録音して聴いてみたことがあるんです。
――いかがでしたか?
いとう 頭を抱えました(笑)。ホイットニーのように歌ったはずなのに、こんなはずじゃないって。でも、「ああ、これが私の歌なんだな」とも思えました。そういうことを続けてきたからこそ、自分の歌を客観的にも聴けて、「自分ならではの味を見つけよう」って思えるようになったんじゃないでしょうか。
Hassy 続けているからこそ、技術も身についていくものだしね。教室の生徒たちにも、「できないからこそ教わりに来ているんだ」って、知ってほしいんですよ。最初はできなくて当たり前。壁にぶつかっては乗り越えていくのを繰り返しているうちに、いつの間にか上達している。音楽の世界も、そういうものなんです。
いとう やっぱり、スポーツに似てるのかも! 筋肉がつくまでは上手くできないことも、筋肉がついて出来るようになったら、そこからが楽しいじゃない。
Hassy どうしても上手くいかない時に、やり方を変えてみたら、ふっとできるようになることもあるしね。
いとう 自分ならではの看板っていうか、旗を掲げて続けていくのは、本当に大事なんですよね。
Hassy かなちゃんの言う「自分ならではの味」を好きになってくれるお客さんを、自分たちで見つけて増やしていかなくちゃ。YOI*HARUを結成したのは、そのためでもあるんです。
――コンテンツの人気や知名度に頼らない、おふたり独自の取り組みに力を入れていかれる、ということでしょうか?
Hassy はい。主題歌を歌わせてもらうと、その作品のファンには確実に知ってもらえますけど、そこに頼り切りになってると、音楽が単なる添え物になりかねないですよね。歌をお刺身のツマや食用菊にしないためにも、私たち自身の旗を掲げて、活動していきたいなって思ったんです。
いとう 音楽には「ゲーソン」や「アニソン」にとどまらない、たくさんのジャンルや無限の可能性があります。「ゲーソン」や「アニソン」は素敵なものですけど、広大な音楽世界のほんの一部に過ぎないんです。これから目指す人たちに、音楽そのものの素晴らしさを伝えられたら、という気持ちはありますね。
■音楽自体を「良いね」と言ってくれる人を増やしたい
音楽ユニット「YOI*HARU」のCDジャケット裏面には、ユニット名のもととなった愛犬たちのイラストも
――YOI*HARUの音楽からは、近くにいる大切な人に歌に乗せて語りかけるような、優しさと安らぎを感じました。
Hassy 北京でビールを飲んでる時に、ユニットを結成しようってひらめいたんだよね。
いとう そうそう、イベントに呼ばれて、ライブをしに行った時。3泊4日の間、ずーっと一緒。すっごく楽しくて、昼間からお酒を飲んだりしてた(笑)。
Hassy 私の方から声をかけたら、かなちゃんは「いいよ!」って即答だったの(笑)。
いとう もちろん、不安もありましたよ。語り合いながらひとつの音楽を作り上げていくのは、初めての経験ですし、ケンカになったりしないかなあって。
Hassy 私は心配していませんでした。自分たちの心の内をもっと素直に歌にしていきたいという想いは、はじめから共通していましたね。
――Hassyさんはオーダーを受けて他のアーティストのために曲を書かれる時、依頼内容を完璧にこなせるよう、極めて職人的に取り組まれると伺いました。YOI*HARUでの曲作りは、それとは違った感じなのでしょうか?
Hassy 私がある曲の歌詞を書いている時、詰まっちゃったことがあったんです。そうしたら、かなちゃんが「Hassyさんの今の気持ちは、こんなふうじゃない?」って意見をくれて、そのおかげで見違えるほど良くなりました。そういう経験は、今までありませんでしたね。
いとう 逆もありました。私が作詞で詰まっちゃった時は、Hassyさんが「かなちゃん、こんなことを考えてるんじゃない?」って。
――ユニット名にもなっている『YOI*HARU』という曲は、ご家族の愛犬について歌われています。
Hassy レコーディングの時、かなちゃんが『YOI*HARU』を歌っているのを聴いて、思わず泣いちゃったんです。大切な家族に向けたからこそ、当たり前の人間としての感情が伝わる歌になったのかもしれません。
いとう ユニットを結成したおかげで、新しい夢もたくさんできました。ふたりでギターを担いで、色々なところをライブで回るとか。
Hassy アフリカなんかに行ってみるのもいいかも! 路上ライブや町のお祭りのステージに立ったりするのも楽しいし。
いとう たとえゲームやアニメを知らなくても、音楽自体を「良いね」と言ってくれる人を増やしていきたいんです。歌の力で根を張るように、人とつながり、人と人とをつなげていきたい。それが、私たちの夢ですね。
●YOI*HARU
2000年初頭にニトロプラス社ゲームの主題歌を歌ったことがきっかけでHassyといとうかなこが出会い、2019年にヴォーカルユニット「YOI*HARU(よいはる)」として結成。ユニット名はふたりの愛犬からとったもの。愛する犬たちとともに歌う旅をする気持ちで、ふたりだからこそ歌える歌を作り、ロック魂にあふれ、かつ温かな音楽会を開くことを目指して活動している。
●YOI*HARU ライブ情報
日時:2020年2月29日(土)18:30開場、19:00開演
場所:高円寺Show boat(東京都杉並区高円寺北3-17-2)
出演:YOI*HARU / Quadrifoglio / こまいけんと
チケット:前売り2700円、当日 3300円 + Drink
(取材/構成:香椎 葉平)
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