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「シャアになれなかった」男たち ライバル役ながら…彼らには何が足りなかったのか?

マグミクス / 2024年3月14日 6時10分

「シャアになれなかった」男たち ライバル役ながら…彼らには何が足りなかったのか?

■どうしてライバルキャラはポストシャアを目指したのか?

「ガンダム」シリーズのライバル役としてもっとも有名な「シャア・アズナブル」。単なるライバルにとどまらず、その人気も知名度も高い「シリーズの顔」ともいえるキャラクターです。そのようなシャアを目指しながらも、あと一歩届かずに苦汁をなめたライバルキャラもいました。

 シャアというキャラクターは、もともとロボットアニメに登場することが多い「美形キャラ」として設定されたものです。主人公の好敵手という存在は、当時のロボットアニメでは定番の人気キャラクターでした。シャアという名前も、『勇者ライディーン』のプリンス・シャーキンから引用されたといわれています。

 しかし、シャアの人気は従来の美形キャラ以上のものになっていきました。これは『機動戦士ガンダム』という作品人気により、従来の美形キャラ以上の認知度を得たからでしょう。その結果、現在では前述したようにシリーズの顔ともいうべき存在にまでなりました。

 こういった前例があると、スタッフとしても「二匹目のどじょう」をどうしても考えるものです。意図したのかそうでないのかはわかりませんが、以降の「ガンダムシリーズ」では、どこかシャアを意識したライバルが生まれていくことになりました。順を追って見ていきましょう。

ゲームブックでは主役も努めたジェリド・メサ(右)。画像はDVD「機動戦士Zガンダム Volume.3」(バンダイナムコフィルムワークス) (C)創通・サンライズ

 まずはシリーズ第2作目となった『機動戦士Zガンダム』に登場した「ジェリド・メサ」です。あまりシャアのイメージはありませんが、パーソナルエンブレムが「赤い星」という点を考えれば皆無というわけではないでしょう。

 ジェリドはシャアの後継者として考えられたというよりも、当時の富野由悠季監督作品に登場することの多かった「愛着の持てるライバルキャラ」といった印象のキャラクターでした。敵役ながらも物語が進むにつれて成長していくキャラクターであり、主人公とは光と影のような関係でもありました。

 2024年現在ではあまり評価されることがないものの、作品当時の人気は高い部類に入るキャラクターだったと思います。これは主人公である「カミーユ・ビダン」の、序盤に見せた数々のエキセントリックな言動を受け入れられる人が当時は少なく、その反発としてジェリド人気につながったと考えられるかもしれません。

 もっともカミーユは徐々に成長することでファンから理解されていき、終盤には人気キャラクターとして不動の地位を築くことになります。このあたりは放送当時の肌感覚で申し訳ありませんが、序盤と終盤とで、カミーユの評価には雲泥の差がありました。

 そのような点では、ジェリドはカミーユの良い引き立て役になったということでしょうか。カミーユの成長によって、中盤以降のジェリドの見せ場はあまり評価できるようなものになりませんでした。

 一方で当時、販売されたゲームブック『機動戦士Zガンダム ジェリド出撃命令』では、タイトル通り主役として活躍しています。また、第30話「ジェリド特攻」で死亡する予定が、ファン人気から延命されたという逸話を考えると、一定層からの支持があったキャラクターだったのは間違いないでしょう。

■シャアになれなかったがゆえに逃した栄誉ある座とは?

「アステロイドベルトの彗星」ことマシュマー・セロ(右)。画像はDVD「機動戦士ガンダムZZ 2」(バンダイナムコフィルムワークス) (C)創通・サンライズ

 続いては『機動戦士ガンダムZZ』に登場した「マシュマー・セロ」です。本編では使われませんでしたが、「アステロイドベルトの彗星」という異名を持っていました。

 シャアを意識していたと思われるエピソードがふたつあります。ひとつは本作のキャラクターデザインだった北爪宏幸さんの発言で、富野監督から「シャアに匹敵するカッコいい敵」というオーダーを受け、何度もリテイクされたと後に明かしていました。

 もうひとつはマシュマー役の堀内賢雄さんの発言で、「演技次第ではシャアになれる役だ、しかし演技次第では途中で消えるかもしれない」といわれたそうです。これに関して堀内さんは「本当にいなくなった」と笑い話にしていました。

 このふたつのエピソードから察すれば、マシュマーにはポストシャアとしての期待値は高かったように思います。しかし、前半の『ZZ』という作品のカラーから考えると、面白いことをするキャラになるしかありませんでした。そう考えると、出てくる作品を間違えたといえるかもしれません。

 作品後半で再登場した際は、強化人間手術を受けて冷徹な指揮官というイメージが強いキャラクターへと変わりました。これは仮定ではありますが、『ZZ』と言う作品が最初から後半の雰囲気で制作されていれば、マシュマーは最初からこういうキャラクターだったかもしれません。

 そう考えると、『ZZ』という作品の最大の被害者だったとも考えられます。終盤は三つ巴の戦いだったことから、パイロットとしての活躍はグレミー軍との戦いがメインで、見せ場はあるもののライバルとしては寂しい最期を迎えることになりました。

カテジナ(左)に全部持っていかれた感のあるクロノクル・アシャー(右)。画像はDVD「機動戦士Vガンダム 12」(バンダイナムコフィルムワークス) (C)創通・サンライズ

 最後は『機動戦士Vガンダム』に登場した「クロノクル・アシャー」です。シャアのアナグラムであるアシャーという名前を持ち、量産型MSの専用機カラーが赤、マスクで顔を隠しているなど、共通項が多いキャラクターでした。

 しかし、マスクでおおわれた部分がシャアとは逆(口元)になっているほか、妹でなく姉がいるという、似たようで異なる部分が多々あります。自分の出生を捨てたシャアとは反対に、与えられた立場に振り回されるといったところが見られることからも、シャアとは真逆のキャラクターといえるかもしれません。

 ちなみにクロノクルがアニメで乗ったMSは7機でした。ジェリドと同じく、「ガンダム」シリーズにおける1作品のなかでひとりのキャラクターが乗ったMSの種類として最多記録を持っています。なおマシュマーは4機でした。この点は、3人ともシャアに勝るとも劣らない部分です。

 そして、この3人にはシャアに勝てなかった部分が共通していました。それは主人公の最終決戦の相手にはなれなかった点、すなわちラスボスになれなかったことです。ライバルとしての立場もそれぞれ、物語の途中から危うくなっていました。

 ジェリドは途中で登場した「パプテマス・シロッコ」にライバルもラスボスの座も奪われています。マシュマーに至ってはライバル役を「グレミー・トト」、ラスボス役は「ハマーン・カーン」に譲っています。

 クロノクルはライバル役とラスボスの座を、自身が誘拐して恋人となった「カテジナ・ルース」に取って代わられていました。そう考えると、半端なく運の悪いキャラクターといえるかもしれません。

 シャアを意識しながらも「シャアになれなかったキャラ」3人。やはり意識してシャアを作り出すことは難しいと思います。しかし、3人ともキャラクターとしては魅力的なところが多々あり、シャアになれなくても印象的なキャラクターとしては成功したのではないでしょうか。

(加々美利治)

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