「カテ公」と蔑まれた『Vガンダム』のヒロイン(?)はなぜ最後まで生き残ったのか
マグミクス / 2024年3月25日 6時10分
■物語開始直後はまっとうなヒロインだったのに
本日3月25日は、1994年にTVアニメ『機動戦士Vガンダム』最終回「天使たちの昇天」が放送された日です。今年(2024年)で30年が経過しました。
『Vガンダム』といえば、主人公「ウッソ・エヴィン」以上にファンの間で話題となったのが、その憧れの女性だった「カテジナ・ルース」です。
カテジナは一介の民間人でしたが、物語の初期に、本作における敵組織「ザンスカール帝国」の「クロノクル・アシャー」によって連れ去られました。その後、このクロノクルに惹かれるようになり、ザンスカール帝国のMS(モビルスーツ)パイロットとなってウッソの前に立ちはだかることになります。
クロノクルのもとにいる間カテジナは、徐々に考え方が変わっていき、ウッソと対峙する頃には冷徹な戦士の顔を見せはじめました。また、MSの操縦技術も格段に成長していきます。一介の民間人がMSパイロットとして実力を発揮するのは「ガンダム」シリーズでは定番といえるものの、カテジナはその中でも1、2を争うほどの上達ぶりといっていいでしょう。
さらにこのカテジナが注目された理由は、初期はお嬢様然としていたにも関わらず、戦いに身を置くようになってから言葉も行動も過激なものになっていったことです。その目に余る行動から、今でいうアンチが増え、作品のヘイトを一身に受けるほどのキャラクターとなっていきました。
悪役というものは嫌われて当然の存在です。しかし、そこには悪役なりの感情移入できる部分が何かしらあるものでしょう。カテジナの嫌われる最大のポイントは、この感情移入できる部分が見受けられない点です。すなわち、まったくキャラクターとして行動が理解できないところにありました。
「周囲から憎まれるために行動している」……そう思えるのがカテジナというキャラクターだったわけです。ファンがよくネタにする、ウッソの「おかしいですよカテジナさん」というセリフそのままに、「序盤に見せたやさしさは何だったのか?」と思うほどの豹変ぶりです。
その悪評の勢いはとどまることを知らず、パロディマンガ『いけ!いけ!ぼくらのVガンダム!!』(著:ことぶきつかさ/KADOKAWA)で「カテ公」と揶揄されると、それがファンの間では俗称ないし蔑称として使われるようになりました。また、「ガンダム三大悪女」という不名誉な称号も得ることになります。ちなみに三大悪女のなかでも存在は別格で、「筆頭」とか「不動の一角」と呼ぶ人も少なくありません。
筆者も放送中はカテジナの行動が理解できなかったのですが、とあることがきっかけで腑に落ちるようになりました。そして、その瞬間からカテジナを悪役以上に悲しい女性として見られるようになったのです。
■カテジナに与えられた罰の意味
ウッソは歴代「ガンダム」主人公最年少の13歳。バンダイナムコフィルムワークス「U.C.ガンダムBlu-rayライブラリーズ 機動戦士Vガンダム I」 (C)創通・サンライズ
カテジナの行動が理解できるようになった理由、それは知人の女性の言葉がきっかけでした。曰く、「ウッソの行動はストーカーみたいなもの」というものです。
つまり、ウッソがカテジナに憧れの気持ちを抱き、あまりにも神聖化することが彼女には精神的な負担になったということでしょう。ウッソと一緒にいた時のカテジナは、相手が自分よりも年下ということで感情を押し殺して無理をしていたのかもしれません。
そして、自分を誘拐したクロノクルが好みのタイプだったのでしょう。クロノクルは善人とは言い難いものの、実直な人物でした。これまでの鬱屈していた状況から救い出してくれた「白馬の王子様」に見えたのかもしれません。
こういった誤解と偶然の積み重ねが、カテジナを変えるきっかけとなりました。そして17歳という思春期の只中でもあり、夢見がちな行動を取ることになったのでしょう。それが目を覆うような残虐な行為でも、自分の理想のための必要悪と考えてしまうのは、無理らしからぬことかもしれません。
ここで問題なのはウッソの行動でした。カテジナを目覚めさせようと正論で説得しようとしますが、時に正論は相手に二の句を継げさせぬ強さを秘めています。それゆえカテジナは、言葉ではなく「狂気」をもってウッソに相対することになります。
ちなみに小説版では、カテジナは強化人間の処置を受けた描写がありました。強化人間といえば精神に異常をきたすことがあり、これによりカテジナがおかしくなったという考察もあります。しかし、アニメ版では特にそういった描写はなされていません。また、アニメ版のカテジナには強化人間特有の精神のゆらぎがあまり見えないので、後発的な要因ではないと考えられます。
こういったことからカテジナがおかしくなったのは、クロノクルに傾倒するあまりに戦争というステージの中心に近づいたことと、ウッソの執拗な言葉攻めが原因だったといえるでしょう。つまりふたりの男からの愛情がカテジナを狂わせたことになります。
しかし、だからといってカテジナの暴挙は許されるものではありません。それゆえに彼女には相応の罰が与えられることになります。もっとも一部のファンからは、カテジナが戦死せずに生き延びたことが許せないという意見もありました。もっともな意見だと筆者も思います。
最終回「天使たちの昇天」では、戦争が終結した後、盲目になったカテジナが登場しました。記憶も失ったかに思える描写で、すべてを失くしたと思える姿です。しかし、カテジナはどうして生き延びることになったのでしょう。それは、生きることは時には死ぬよりつらいことだからではないでしょうか。
富野由悠季監督作品は死亡者が多いことで知られます。そのなかには無残な最期を遂げた者もいますが、死ぬことで救いを得られることもありました。死んで魂になることでわかりあえるというのは、ニュータイプの在り様かもしれません。
つまりカテジナは、生き残ることでわかりあえることもなく、残りの人生を孤独に生きるしかないというわけです。少なくとも「ガンダム」世界では、死は絶対の罰だといえないのかもしれません。
考え方は人それぞれ。筆者も女性視点からのカテジナ像を知るまでは、ここまでの考えに至りませんでした。もちろん他の方にもそれぞれの考察があるとは思いますが、単にカテジナ憎しだけでは答えにはたどり着けないのかもしれません。
(加々美利治)
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