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野球ができれば何でもできる! 野球万能バイアスを貫いた『大空魔竜ガイキング』とは

マグミクス / 2024年3月25日 7時10分

野球ができれば何でもできる! 野球万能バイアスを貫いた『大空魔竜ガイキング』とは

■魔球を生み出した特訓に比べればロボの操縦なんて楽勝?

「魔球を編み出してプロ野球の世界で大活躍」という設定といえば、『巨人の星』『侍ジャイアンツ』などのスポ根漫画の主人公を想像するはずです。しかし、魔球を編み出したプロ野球投手「ツワブキサンシロー」はロボットアニメの主人公でした。野球で培った能力を活かして宇宙の侵略者から地球を守るロボットアニメ『大空魔竜ガイキング』を振り返りましょう。

 1976年に放映された『大空魔竜ガイキング』は、『マジンガーZ』(1972年)や「ゲッターロボ」シリーズなどの永井豪先生とダイナミックプロの原作をはじめて離れた、東映動画(現、東映アニメーション)初のオリジナルロボットアニメでした。

『ガイキング』の放送が開始された1976年は、読売ジャイアンツの王貞治選手が本塁打の世界記録に迫っていた頃です。王選手は現在の大谷翔平選手と同じように、技術も人格も優れた選手として世界からも称賛され、期待を集めていました。

 当時はプロ野球中継が必ず地上波で放送されおり、選手たちはスーパースターでヒーローでした。半ば神格化されているようなところもあったようで、かといって「プロ野球選手ならスーパーロボットを簡単に操縦できるかもしれない」という少々ぶっ飛んだ発想すら通用してしまったのかどうかは定かではありませんが、ともあれそうした世相を背景に、『大空魔竜ガイキング』は世に送り出されました。

 ツワブキサンシローはプロ野球チーム「レッド・サン」の二軍投手で、血の滲む特訓の末に魔球を編み出し、晴れて一軍のマウンドに初登板します。しかし、サンシローが投げたボールは、何度投げてもキャッチャーミットに届くことなくそのまま消えてしまいました。

 すると、途方に暮れたサンシローの上空から無数のボールが落ちてきて、その1球がサンシローの左手首に直撃します。それは地球の侵略をもくろむ「暗黒ホラー軍団」の仕業でした。そして、医者はレントゲン写真を見て「左手首の骨にひびが入っており、二度とボールが握れない」と宣告するのです。

「ひびがくっつけばまた投げられるのでは?」とツッコミを入れたくなりますが、そのままサンシローは野球選手を引退し、巨大ロボ「ガイキング」に乗り込み、恐竜型移動要塞「大空魔竜」のクルーと共に暗黒ホラー軍団と戦うことになります。

「どんなに厳しいことも魔球を編み出した特訓に比べたら大したことない」と、訓練もなしにいきなり「ガイキング」の合体を成功させたサンシローは、魔球を応用した必殺技「ハイドロブレイザー」を編み出し、そして暗黒怪獣を倒します。

■あわや味方同士で殺し合いだった鬼コーチの特訓!

東映ビデオ「大空魔竜ガイキング VOL.1」 (C)東映アニメーション

 ところで王選手といえば「一本足打法を編み出すために吊してある短冊を真剣で切った」という有名なエピソードが知られます。その特訓を課したのは鬼コーチとして知られる荒川博打撃コーチで、この「特訓」と「鬼コーチ」という組み合わせは、スポ根野球アニメのお約束となっていきます。

 第15話「これぞミラクルドリル!!」には、サンシローが魔球を編み出すきっかけを作った鬼コーチである「名村」が登場します。「暗黒騎士ユンカー」が編み出した「消える魔球」的攻撃によって、ガイキングがめった打ちにあって敗北したことを受け、名村コーチは新しい戦法を編み出させるため、ガイキングと大空魔竜をわざと同士討ちさせます。

 味方の誰かが命を落としかねない状況ですが、それも名村コーチの指導方針のひとつでした。それは「サンシローを怒らせてシゴキ抜けば、持ち前の動物的勘で新しい手を何か考えつく」という狙いだったのです。

 名村コーチの読み通り、サンシローは新武器「ミラクルドリル」を「分身魔球」のように分散させてユンカーを翻弄し、勝利をおさめました。

 その後、第35話「さらば栄光のマウンド」で、サンシローは一度だけ現役復帰します。名村はなんとレッド・サンの監督に昇格、第一次長嶋巨人軍(1975年から1980年まで)と優勝争いをするまでになっています。投手不足を補うために、サンシローは再びレッド・サンに招かれたのでした。

 サンシローが登板したら、当時現役だった王貞治選手や張本勲選手との対決が待っています。『巨人の星』や『侍ジャイアンツ』では、王選手などの巨人軍の実在の選手が登場するのが定番でしたが、それら作品においては主人公も巨人軍所属だったので対決することはありませんでした。サンシローがマウンドに上がっていたら、夢の対決が実現していたでしょう。

 そう、その夢の対決は実現しなかったのです。実はサンシローは、最初から登板するつもりはありませんでした。レッド・サンに再入団したのは、同期の大西投手に自分の魔球を伝授するためでした。魔球を会得した大西投手は見事、王選手をうち取り、レッド・サンはリーグ優勝を果たします。

 第35話放送の約1か月前になる1976年10月11日、王選手は通算715号本塁打を放ち、ベーブ・ルースの記録を上回りました。

 第44話「壮烈!地球大決戦」でサンシローはついに暗黒ホラー軍団を倒します。その後サンシローが野球選手として復帰したのかどうかは描かれずに終了しました。

『ガイキング』の放送が終了した1977年に、王選手は通算756号を放ち、ハンク・アーロンを破り世界新記録を達成します。

『大空魔竜ガイキング』をリメイクした『ガイキング LEGEND OF DAIKU-MARYU』(2005年)では、主人公の名前こそ「ツワブキ」を継承していますが、人物や世界観は全く違う作品になっていました。21世紀になっても「野球ができればなんでもできる」は、無理があったのかもしれません。

(LUIS FIELD)

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