映画『毒娘』押見修造×内藤瑛亮監督対談【後編】 「クソムシ」と呼ばれた体験が覚醒のきっかけ
マグミクス / 2024年3月29日 18時10分
■すべてを拒絶する10代の少女たち
映画『毒娘』(4月5日より全国公開)で、初タッグを組んだ漫画家の押見修造氏と内藤瑛亮監督との対談後編です。押見氏がキャラクターデザインを担当したヒロイン「ちーちゃん」はどのように映像化されたのか、またおふたりの思春期の思い出も振り返ってもらいます。
ーー実話から着想を得た『毒娘』の凶暴なヒロイン・ちーちゃんですが、『劇場版 推しが武道館いってくれたら死ぬ』(2023年)などに出演した伊礼姫奈さんが演じたことで、リアルに映像化されています。
内藤:出資会社はネームバリューのある俳優を起用したいと考えがちですが、ネームバリューのある俳優となると、20代前半になってしまいます。でも、それだと学校に通っていれば中学生のはずの「ちーちゃん」らしい雰囲気がなくなるなぁというのが悩みでした。それで出資会社に「オーディションで選びたい」と頼み、OKをもらいました。
ちーちゃん役の伊礼姫奈さん、萌花役の植原星空さん、椿役の凛美さんはオーディションで選びました。3人とも10代です。3人にそれぞれちーちゃんを演じてもらったところ、伊礼さんがいちばん怖かった。狂った役を演じようとすると、演技に力が入り過ぎてしまいますが、伊礼さんはすごくフラットに演じてみせたんです。
押見:自分のやっていることを、何でもないことのように振る舞っているところがすごい。ハサミを持って、平然と襲ってくる。
内藤:ハサミは凶器にもなるし、服飾の仕事ではクリエイティブなツールにもなる。それと、僕がフランスのホラー映画『屋敷女』(2007年)が好きというのもありますね(笑)。
ーー押見さんの代表作『惡の華』や『ハピネス』にもつながるヒロイン像ですね。
押見:そうだと思います。
内藤:『惡の華』の仲村さん、『ハピネス』のノラは、僕も大好きです。
押見:ちーちゃんは僕がこれまでマンガで描いてきた少女たちと、共通するものがあると思います。町はずれの河原で何かゴソゴソやっている映画のなかのちーちゃんを観ながら、「あぁ、自分のよく知っている女の子だなぁ」と感じました。あの年代の女の子特有の潔癖さで、すべてを拒絶する力を感じさせます。
内藤:ちーちゃんは怖いだけでなく、憧れてしまう一面もある。萌花役はちーちゃんと双子感のある人がいいなぁと思い、植原さんを選びました。ちーちゃんに触れ、萌花も次第にちーちゃんに侵食されてしまう。佐津川愛美さんが演じた義母の萩乃も影響されます。
ちーちゃんは閉ざされている家庭を破壊するのと同時に、家の中に閉じ込められていた女性や子供たちを解放する存在でもあるんです。
押見:僕がマンガで描いてきたヒロインたちは、家庭をつくり、子供を産み、社会が繁栄することに、そもそも疑問を持っているんです。なんで従わなくちゃいけないのかと。かつての僕自身がそうでしたが、僕は大人になって、家族をつくり、父親にもなった。
でも、もともとの問題は解決はしていません。解決できずにいる問題が、今も僕のなかにあるように感じているんです。萩乃や萌花の怒りや世界を拒否する気持ちが、ちーちゃんという形で具現化して現れたのかもしれません。
■友達がいなかった学生時代の思い出
押見修造氏と内藤瑛亮監督(マグミクス編集部撮影)
ーー10代の少年少女の揺れ動く心理をナイーブに描く内藤監督と押見さんに、ご自身の思春期時代を振り返ってもらえればと思います。
内藤:マリリン・マンソンとナイン・インチ・ネイルズばかり聴いて、学生時代は友達がいませんでした(笑)。休み時間は自分の机の上に突っ伏して、「僕に関わらないでください」みたいな感じで過ごしていました。
押見:高校生の頃ですか?
内藤:中学生の頃からだんだん暗くなり、高校のときがいちばん暗く、友達がまったくいなかったんです。
押見:僕も高校1年から2年の途中まで、クラスメイトとは話さなかった。ずっとひとりでした。
ーークリエイターにとって、孤独な時間も大切なようですね。
内藤:今、振り返ると「痛い」自尊心みたいなものを持っていたのかもしれません。「友達がいない」んじゃなくて「友達をつくらないだけだ」みたいな(苦笑)。
押見:でも、友達はほしかったですよね(笑)。
ーー『惡の華』で仲村さんが口にする「クソムシが」というセリフは、押見さんの実体験だとか。
押見修造氏(マグミクス編集部撮影)
押見:はい、あのセリフは実際に僕が言われた言葉です。「クソムシが」と言ったのは今の僕の妻なんです。ケンカして罵倒された際に言われた言葉です。「あっ、いい言葉だな」と思いました(笑)。
内藤:「クソ」じゃなくて「クソムシ」という表現は、絶妙なかわいらしさがありますね。
押見:妻とは大学で知り合ったんです。マンガを描き始めたのは、妻と出会ってから。妻と出会ったことで、孤独が癒やされたところは確かにあったと思います。「クソムシが」と言ってくれた妻には感謝しています。妻のおかげで、自分を客観視できるようになった。妻と出会っていなければ、漫画家にもなれず、野垂れ死んでいたかもしれません。
内藤:僕の場合は、映画館だけが癒しの場所でした。高校の卒業式の後、同級生たちは集まっていたけど、僕はそっちには行かず、映画館にひとりで行きました。そのとき観た映画は、M・ナイト・シャマラン監督の『アンブレイカブル』(2000年)だったかな。
押見:死なない男とガラスのように壊れやすい男の物語(笑)。
内藤:押見さんとは映画の趣味も合っている。お互いに『ゴーストワールド』(2001年)が大好き。あの映画を観て、「社会にイラついているのは自分だけじゃないんだ」と思えた。スクリーンを通じて、映画のなかの女の子たちとつながっているように感じたんです。
押見:僕も公開当時に映画館で観ました。
内藤:もしかしたら、あの映画を通して、押見さんとはすでにつながっていたのかもしれませんね。
■無意識レベルで女性たちを抑圧している社会構造
心を通わせていくちーちゃん(伊礼姫奈)と萌花(植原星空)
ーー完成した映画『毒娘』について、最後にひと言お願いします。
押見:大好きな映画です。ちーちゃんの活躍を楽しむホラー映画としても面白いし、抑圧された女性たちが解放されていく物語にもなっていると思うんです。僕もマンガを描く上で、フェミニズムについて学んだりもしました。でも、頭で理解できても、体がついていかない部分があったんです。その点、『毒娘』を観ると、男性である僕も彼女たちの心情を体感できたように感じました。忘れられない映画になったと思います。
内藤:押切蓮介さんのコミックを実写映画化した『ミスミソウ』は、監督のオファーを受けてから撮影まで1か月しかなかったんですが、今回は時間を費やしてじっくりと準備することができました。もちろん予算は限られていましたし、撮影現場はハードだったので俳優のみなさんをケアしながら撮影を進めなくちゃいけなかったんですけど、楽しい現場でしたね。
ーータイトルは『毒娘』ですが、「毒親」についての物語でもある。
内藤:そうですね。女性たちを苦しめている男性や父親たち、もう少し広く言えば、家父長制度などの社会構造についても描いた作品になったと思います。萌花の父親(竹財輝之助)は無意識レベルで女性を抑圧してしまっている。本人はそのことには無自覚で、いい父親、いい夫だと思っている。
無意識のうちに誰かを抑圧しているところは、僕自身にも言えることなんです。長編デビュー作の『先生を流産させる会』の公開の際、批判を受けました。実際の事件は男子生徒たちが加害者だったのに、女子生徒たちを加害者に変えてしまったからです。「怖い女性」をエンタメとして消費していたというか、そういう認知の歪みがあったことを反省しています。それもあって、今回は女性を無意識のうちに抑圧する男性を描き、彼が報いを受ける結末にしました。
ーーおふたりのコラボ、これからも楽しみにしています。
押見・内藤:また、ぜひやりたいですね。
■内藤瑛亮(ないとう えいすけ)
1982年愛知県生まれ。特別支援学校の教員を務めながら、長編映画『先生を流産させる会』(2011年)を自主製作。教員退職後、『パズル』(2014年)、『ライチ☆光クラブ』(2015年)、『ミスミソウ』(2017年)などの商業映画を監督。実際に起きたいじめ事件を題材にした自主映画『許された子どもたち』(2020年)も反響を呼んだ。
■押見修造(おしみ しゅうぞう)
1981年群馬県生まれ。「別冊少年マガジン」で連載されたマンガ『惡の華』は2019年に実写映画化され、大きな話題となった。他にも『スイートプールサイド』(2014年)、『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(2018年)など、原作マンガが次々と映画化されている。2024年1月から『毒娘』の前日談となる『ちーちゃん』を「週刊ヤングマガジン」にて連載。
映画『毒娘』
監督/内藤瑛亮 ちーちゃんキャラクターデザイン/押見修造
脚本/内藤瑛亮、松久育紀 音楽/有田尚史
出演/佐津川愛美、植原星空、伊礼姫奈、馬渕英里何、凛美、内田慈、クノ真季子、竹財輝之助
配給/クロックワークス
4月5日(金)より新宿バルト9ほか全国公開
(C)『毒娘』製作委員会2024
(長野辰次)
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