「世界名作劇場」の問題作? 『わたしのアンネット』が描いた「容赦のないリアル」
マグミクス / 2024年3月30日 15時10分
![「世界名作劇場」の問題作? 『わたしのアンネット』が描いた「容赦のないリアル」](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_222374_0-small.jpg)
■仲良しだった幼なじみ同士に訪れた「壮絶な仲違い」
世界の名作の数々をアニメ化してきた「世界名作劇場」のなかでも、ひときわ異彩を放っているのが、1983年に放送された『アルプス物語 わたしのアンネット』です。
家族のように育った親友同士が、小さな諍(いさか)いをきっかけに亀裂が入り、その後起こった事故によって許されざる憎しみを生むことになります。同作で描かれた愛憎劇を観て、息苦しい思いをした人も少なくないでしょう。
今回は、そんな「世界名作劇場」シリーズ一の問題作『わたしのアンネット』を振り返ります。
アルプスの山村に住む少女アンネットと少年ルシエンは、仲の良い幼なじみでした。少なくとも物語序盤のふたりは、1974年放送の『アルプスの少女ハイジ』のハイジとペーターのような温かい友情を育んでいました。
アンネットは、母の命とひきかえに生まれてきた弟のダニーを、とても可愛がっていました。そのダニーが飼っていたオコジョのクラウスに木彫りを壊されたルシエンが、怒ってクラウスをはたき落とすという出来事が起こります。それをきっかけにアンネットとルシエンの関係に亀裂が生じました。
そして第14話「おそろしい出来事」で、決定的な大事件が起こります。アンネットの誕生日が近づくなか、ルシエンは彼女との仲直りを考えていました。彼はアンネットの誕生日に木彫りの首飾りを、ダニーには木彫りのおもちゃをプレゼントに用意します。
ルシエンはダニーに謝り、プレゼントを渡して仲直りすると、一緒にアンネットに花輪をプレゼントすることを提案しました。
ですがダニーが、アンネットは「ルシエンはお祝いに呼ばない」といっていることを伝えると、ルシエンはカッとなり、ダニーが摘んでいた花を奪おうとします。そのときオコジョのクラウスがルシエンに噛みついたため、ルシエンはダニーに謝罪を要求しました。
ルシエンは、謝らないとクラウスを谷底に落とすとダニーを脅しますが、逃げようとしたクラウスに再び噛みつかれ、痛みのあまりクラウスを落としてしまいます。そしてクラウスを助けようとしたダニーまで深い谷底に転落したのです。
ルシエンは恐怖のあまりそのまま逃げ出し、この事故によってダニーは歩けない体になってしまいました。
この事故を機に、ルシエンは村中の人から白い目で見られるようになります。そんな彼の唯一の慰めが、木彫りでした。森でひとりで暮らすペギンじいさんが師匠になり、腕に磨きをかけます。
そこからは、罪の意識に苛(さいな)まれるルシエンの苦しみが延々と描かれます。誰しも「あのとき、ああしておけば」と取り返しのつかない失敗に後悔した経験があると思いますが、だからこそ多くの視聴者はルシエンに感情移入し、重苦しい気持ちを共有したのです。
一方アンネットも、ルシエンの木彫りを叩き壊すシーンがあるなど、なかなかルシエンを許すことができません。次第にアンネットも、頑なすぎる自身の心に罪の意識を抱くようになります。
延々と続く、暗く重苦しい展開が変化したのは第35話のことです。またもオコジョのクラウスがきっかけになり、物語が動きました。
雪の降る夜、いなくなったクラウスを探すために外に出たアンネットは、誤って川に落ちてしまいます。そのとき凍死寸前のアンネットを発見して、救ったのはルシエンでした。
■ハッピーエンドに誰もがホッとした?
DVD「アルプス物語 わたしのアンネット(7)」(バンダイビジュアル)
これをきっかけにルシエンとアンネットはようやく和解します。さらに、その後ダニーの足も手術で元通りになり、無事ハッピーエンドを迎えました。これまで長く重苦しい展開を見守っていた視聴者は、ようやく胸をなで降ろしたのです。
そんなシリアスな内容にもかかわらず、主人公アンネットの声を担当した潘恵子さんが歌う主題歌「アンネットの青い空」はどこまでも優しい歌詞の曲で、そのギャップも記憶に残っています。
しかし、今改めて「どこにあるの青い空 私の心の中ですね」という歌詞を見ると、作品全体のテーマを伝えていたことが分かります。
このように『わたしのアンネット』は、暗い展開が続く重いテーマの作品だったため、途中で離脱した視聴者もいれば、「永遠の名作」「アニメの金字塔」と称賛するファンもいるようです。
また、子供向けのアニメにもかかわらず、限界までリアリティを追求した『わたしのアンネット』に衝撃を受け、同作の描写をお手本とするアニメーターがいることも事実です。
(LUIS FIELD)
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